お問い合わせ

072-200-3579

受付時間:月〜金 9:00〜17:00

大阪で顧問税理士をお探しの方は道濟会計事務所へ

100年ぶり公益信託改正が中小企業オーナーに与える影響

はじめに──なぜ今「公益信託」に注目すべきなのか

公益信託制度が約100年ぶりに抜本改正されたことをご存じでしょうか。2024年に「公益信託に関する法律」(新公益信託法)が成立し、2026年4月に施行されました。令和6年度(2024年度)・令和7年度(2025年度)の税制改正で関連する税制措置も順次整備されています。この動きは、大企業だけの話ではありません。実は、中小企業オーナーの資産管理・事業承継・社会貢献の在り方に大きなインパクトを与え得る制度改正です。

当事務所にも最近、「公益信託って何が変わったの?」「自分の会社や個人資産に関係があるのか?」というお問い合わせが増えてきました。本記事では、税理士の実務視点から、新しい公益信託制度と税制の全体像を整理し、中小企業オーナーが具体的にどのような場面で活用でき、どのような注意点があるのかを詳しく解説します。

そもそも公益信託とは?──旧制度の問題点を振り返る

公益信託の基本構造

公益信託とは、個人や法人が信託銀行等の受託者に財産を信託し、その信託財産を公益目的(学術振興、教育、福祉、環境保全など)に活用する仕組みです。公益財団法人や公益社団法人と同様に「社会貢献」を行う手段ですが、法人格を持たずに設立できるため、運営コストが低く、機動的に運用できるという特徴があります。

イメージとしては、「財団法人を設立するほどの規模や体制はないが、社会貢献のために自分の財産を活用したい」という方に適した制度です。たとえば、地域の奨学金基金、文化振興助成、環境保全活動への資金提供などが典型例です。

旧制度では何が問題だったのか

旧公益信託法は大正11年(1922年)に制定されたもので、100年以上にわたり実質的な改正がほとんどありませんでした。そのため、以下のような構造的な問題が指摘されていました。

  • 受託者が信託銀行等に限定:信託業法の規制により、事実上、信託銀行しか受託者になれなかった
  • 活動範囲が「助成型」に限定:資金を助成・給付する形態のみが認められ、受託者自らが事業を行う「事業型」は認められなかった
  • 税制上の優遇が不十分:寄附金控除の対象範囲が狭く、また信託財産に対する課税関係が不明確だった
  • 主務官庁制による硬直的な監督:信託目的に応じて所管省庁が異なり、手続きが煩雑だった

結果として、公益信託の設定件数は2023年時点で全国約400件程度にとどまり、公益財団法人(約5,700法人)と比べて圧倒的に少ない状況でした。制度としてのポテンシャルが活かされていなかったのです。

新公益信託法・税制改正の全体像

新法で何が変わったのか──5つの改正ポイント

2026年4月施行の新公益信託法と、令和6年度・令和7年度税制改正における主な変更点を整理します。

項目旧制度新制度
受託者の範囲信託銀行等に事実上限定信託会社、個人、法人等にも拡大(行政庁の認可が必要)
活動形態助成型のみ助成型に加え「事業型」も可能
信託できる財産金銭のみ(実務上)金銭、有価証券、不動産等も可能
監督体制主務官庁制(省庁ごと)行政庁(内閣府または都道府県)に一元化
税制上の優遇寄附金控除の範囲が狭い認可を受けた公益信託への寄附は特定寄附金に該当、信託財産への非課税措置等を整備

税制改正の具体的内容

新制度に対応する税制上の措置として、以下の点が特に重要です。

① 寄附者側の税制優遇

行政庁の認可を受けた公益信託に金銭等を拠出した場合、その拠出金は「特定寄附金」として所得控除(寄附金控除)の対象となります。個人の場合は、所得税法上の寄附金控除(所得控除方式)が適用され、「拠出額−2,000円」が所得から控除されます。また、一定の要件を満たす公益信託については、税額控除方式の選択も可能とされる方向で整備が進められています。

法人が拠出する場合は、一般の寄附金枠とは別に「特定公益増進法人等に対する寄附金」と同様の別枠損金算入限度額が認められます。具体的には、資本金等の額×0.375%+所得金額×6.25%の合計額の1/2が限度額となります。

② 信託財産への非課税措置

認可を受けた公益信託の信託財産から生じる利子・配当等の収益については、法人税が非課税とされます。これは公益法人等に対する収益事業課税の考え方と同様に、公益目的で運用される財産への課税を軽減するものです。

③ 不動産取得税・登録免許税の軽減

新制度では不動産も信託財産として拠出可能になりましたが、これに伴い、公益信託への不動産の信託に係る不動産取得税の非課税措置や、登録免許税の軽減措置が設けられています。

④ 相続税・贈与税との関係

相続財産を公益信託に拠出した場合の相続税非課税措置(租税特別措置法第70条関連)が、新公益信託についても適用されるよう整備されました。ただし、公益信託を利用した租税回避を防止する観点から、「その公益信託の信託財産から特定の者に利益が及ぶことがないこと」等の要件が厳格に設けられています。

中小企業オーナーにとっての具体的な活用場面

活用場面①:個人資産を活用した社会貢献

中小企業オーナーの中には、事業で得た利益を地域や社会に還元したいと考える方が少なくありません。しかし、公益財団法人を設立するには、まず一般財団法人の設立(設立時の拠出財産として最低300万円が必要)を経た上で公益認定を受ける必要があり、理事会・評議員会の設置、会計監査、事業報告書の作成など、かなりの運営コストと人的負担がかかります。

新しい公益信託であれば、法人格を持たないため、これらの負担が大幅に軽減されます。たとえば、以下のようなケースが考えられます。

  • 地元の高校生向け奨学金制度を個人の名前で創設したい
  • 地域の文化活動や芸術振興のための助成基金を設けたい
  • 自社が関わる業界の技術研究を支援する基金を作りたい

これまで信託銀行経由でしか設定できなかったものが、新制度では要件を満たす法人や個人も受託者になれるため、地域の信用金庫系列の信託会社や、NPO法人が受託者となるケースも増えていくと考えられます。より身近に、より柔軟に公益信託を活用できる環境が整いつつあります。

活用場面②:事業承継と絡めた資産の切り離し

中小企業オーナーの事業承継においては、「自社株の承継」と「個人資産の分割」が大きなテーマです。特に、後継者以外の相続人に対する遺産分割で揉めるケースは後を絶ちません。

ここで公益信託を活用することで、「社会貢献に充てる財産」を生前に明確に切り離しておくことが可能です。具体的には、以下のようなスキームが考えられます。

  1. オーナーが個人で保有する上場株式や不動産の一部を公益信託に拠出
  2. 拠出した財産は相続財産から外れ、遺産分割の対象にならない
  3. 拠出時に寄附金控除が適用され、所得税(または法人税)の負担が軽減
  4. 相続発生時には、遺産の総額が圧縮されるため、相続税の課税対象が減少

もちろん、この方法は「純粋に公益目的で財産を拠出する」ことが大前提です。租税回避目的と認定されれば、非課税措置の適用が否認されるリスクがあります。しかし、本当に社会貢献に意欲がある方であれば、事業承継対策と社会貢献を両立させる非常に有効な手段となり得ます。

活用場面③:法人による公益信託の活用(CSR・ESG対応)

中小企業であっても、取引先やサプライチェーンの要請により、ESG・SDGsへの取り組みを求められるケースが増えています。公益信託を法人として設定し、環境保全や地域貢献活動に資金を拠出することで、以下のメリットが期待できます。

  • 特定公益増進法人等への寄附金として別枠損金算入が可能(税負担の軽減)
  • 自社名を冠した公益信託の設定により、地域でのブランディング効果
  • 取引先・金融機関からのESG評価の向上

たとえば、年商5億円・経常利益5,000万円の中小企業が、年間200万円を公益信託に拠出した場合、別枠損金算入限度額の範囲内であれば全額が損金に算入されます。実効税率を約34%とすると、約68万円の法人税等の負担軽減となります。つまり、実質約132万円の負担で200万円の社会貢献ができる計算です。

実務上の注意点──見落としがちなリスクと落とし穴

⚠ 注意点①:認可要件の厳格化に注意
新制度では受託者の範囲が拡大された一方で、行政庁(内閣府または都道府県)による認可審査が厳格に行われます。認可を受けなければ税制優遇は一切適用されません。「設定すれば自動的に控除が受けられる」と誤解している方がいらっしゃいますが、これは明確な間違いです。認可の取得には、信託事務の適正な処理体制、情報開示の仕組み、信託管理人の設置など、多くの要件をクリアする必要があります。
⚠ 注意点②:「私的利益供与」の否認リスク
公益信託を設定しながら、実質的に自分や親族に利益が還流する仕組みになっていると、税務調査で「特定の者に利益が及ぶ」として非課税措置が否認されるリスクがあります。たとえば、奨学金の給付先が実質的に自分の子女に限定される設計や、助成先が自社と取引関係のある団体のみである場合は要注意です。公益信託は「不特定多数の利益のため」に運営されることが大原則です。
⚠ 注意点③:不動産を信託する場合の実務上の複雑さ
新制度では不動産の信託も可能になりましたが、不動産の評価額をどのように算定するか、含み益がある場合のみなし譲渡課税の問題、管理コスト、テナントとの賃貸借契約の承継など、金銭の信託に比べて格段に複雑な実務論点があります。特に、個人が含み益のある不動産を公益信託に拠出する場合、所得税法第59条のみなし譲渡課税の適用が問題となります。租税特別措置法上の非課税承認を受けられなければ、拠出時に多額の譲渡所得税が発生する可能性があります。
⚠ 注意点④:既存の公益信託の移行問題
旧制度下で設定された公益信託については、新制度への移行手続きが必要です。施行日(2026年4月)から一定の移行期間が設けられていますが、移行手続きを行わなければ、新制度の税制優遇が受けられなくなる可能性があります。すでに公益信託を設定している方は、早急に受託者や税理士と相談して移行スケジュールを確認してください。移行期間の具体的な期限については、最新の政省令等を確認することをお勧めします。

公益信託と公益財団法人の比較──どちらを選ぶべきか

「社会貢献のための器」として、公益信託と公益財団法人のどちらが適しているかは、規模・目的・運営体制によって異なります。以下に比較表を示します。

比較項目公益信託(新制度)公益財団法人
法人格なし(信託契約ベース)あり(法人として独立)
設立・設定の手続き信託契約+行政庁の認可一般財団法人の設立+公益認定
最低財産額法令上の定めなし(実務上数百万円〜)一般財団法人の設立時に300万円以上の拠出が必要
運営機関受託者+信託管理人理事会+評議員会+監事
運営コスト比較的低い(受託者報酬等)高い(事務局人件費、監査費用等)
活動範囲助成型+事業型(新制度で拡大)公益目的事業全般
税制優遇(寄附者側)特定寄附金として控除対象特定寄附金として控除対象
税制優遇(財産側)信託財産の運用収益は非課税収益事業以外は非課税
適している規模数百万円〜数億円程度数千万円〜数十億円以上

当事務所としての見解を申し上げると、以下の基準で選択を検討されることをお勧めします。

  • 拠出額が5,000万円以下で、助成型の社会貢献を行いたい場合→ 公益信託が適している
  • 拠出額が1億円を超え、自ら事業を行う体制がある場合→ 公益財団法人の方が柔軟性が高い
  • 短期間(10年程度)で信託を終了させたい場合→ 公益信託の方が機動的
  • 永続的な組織として活動を継続したい場合→ 公益財団法人が安定的

ただし、新制度では公益信託でも「事業型」が認められるようになったため、従来よりも両者の境界線は曖昧になりつつあります。今後、実務上の運用例が蓄積されていく中で、使い分けの基準がより明確になっていくでしょう。

具体的なシミュレーション──数字で見る税メリット

ケース1:個人オーナーが金銭3,000万円を公益信託に拠出

前提条件:課税所得5,000万円のオーナー社長が、認可を受けた公益信託に3,000万円を一括拠出するケース

  • 寄附金控除額:3,000万円 − 2,000円 = 29,998,000円(ただし総所得金額の40%が限度)
  • 控除限度額:5,000万円 × 40% = 2,000万円
  • 実際の控除額:2,000万円(限度額の方が小さい)
  • 所得税の軽減効果(税率45%+復興特別所得税の部分):約900万円程度
  • 翌年の住民税(税率10%)への影響も含めると、合計約1,100万円の税負担軽減

つまり、実質約1,900万円の負担で3,000万円の社会貢献ができることになります。残りの1,000万円(控除限度額を超えた部分)については控除が受けられませんので、複数年に分けて拠出するなどの工夫が有効です。

ケース2:法人が年間500万円を公益信託に拠出

前提条件:資本金3,000万円、所得金額4,000万円の中小法人が毎年500万円を拠出するケース

  • 特定公益増進法人等への寄附金の別枠損金算入限度額:(3,000万円×0.375%+4,000万円×6.25%)×1/2 =(11.25万円+250万円)×1/2 = 約130.6万円
  • 一般寄附金の損金算入限度額:(3,000万円×0.25%+4,000万円×2.5%)×1/4 =(7.5万円+100万円)×1/4 = 約26.9万円
  • 合計損金算入可能額:約157.5万円
  • 損金不算入額:500万円 − 157.5万円 = 342.5万円

このケースでは、500万円の拠出のうち約157万円しか損金算入できず、残り約343万円は損金不算入となります。法人の場合は個人と異なり、寄附金の損金算入に厳しい限度額があるため、拠出額の設計が非常に重要です。限度額を超える拠出を行う場合は、その税務上のコストを十分に理解した上で意思決定を行う必要があります。

今すぐやるべきこと──5つのアクションアイテム

新公益信託制度の活用を検討されている中小企業オーナーの方に、当事務所として以下の5つのアクションをお勧めします。

アクション①:自社の「社会貢献ビジョン」を言語化する

公益信託は目的ありきの制度です。まず、どのような分野で、どのような形で社会貢献を行いたいのかを明確にしましょう。漠然と「節税になるから」という動機では、認可審査を通ることも、長期的に信託を維持することも困難です。経営理念や創業の原点に立ち返り、「自分が社会に残したいもの」を具体化してください。

アクション②:現在の資産構成と税務ポジションを棚卸しする

公益信託への拠出は、個人の所得控除や法人の損金算入に影響します。現在の所得水準、保有資産の含み損益、将来の相続税負担の見通しなどを総合的に把握した上で、最適な拠出額とタイミングを設計する必要があります。特に、不動産や有価証券を拠出する場合は、みなし譲渡課税の影響を事前にシミュレーションすることが不可欠です。

アクション③:受託者候補を調査する

新制度では受託者の選択肢が広がりましたが、実務上はまだ信託銀行が主要な受託者です。ただし、今後は地域の信託会社やNPO法人なども受託者として参入してくる可能性があります。受託者の選定は公益信託の成否を左右する重要な要素ですので、複数の候補からヒアリングを行い、手数料体系、運営支援の内容、実績などを比較検討してください。

アクション④:既存の公益信託がある場合は移行手続きを確認する

すでに旧制度下で公益信託を設定している方は、施行日から定められた移行期間内に新制度への移行手続きを完了する必要があります。移行が間に合わなかった場合のペナルティ(税制優遇の喪失等)を避けるため、できるだけ早い段階で受託者に連絡を取り、移行スケジュールを確定させましょう。

アクション⑤:税理士に相談する

公益信託の税務は、所得税・法人税・相続税・贈与税・不動産取得税・登録免許税など、多岐にわたる税目が関係する非常に複雑な領域です。インターネット上の断片的な情報だけで判断するのは危険です。必ず公益信託の税務に精通した税理士に相談し、個別の状況に応じた具体的なアドバイスを受けてください。

道濟会計事務所の見解──100年ぶりの改正を「チャンス」に変えるために

今回の公益信託制度の改正は、中小企業オーナーにとって非常に大きな制度変更です。しかし、まだ新制度の認知度は低く、実務上の運用例も限られているのが現状です。だからこそ、「早期に正しく理解し、適切に活用する」ことで、他社に先駆けた社会貢献活動と税務メリットの両立が可能になります。

一方で、制度の複雑さゆえに、誤った理解のまま進めてしまうと、税務上の否認リスクや想定外の課税が生じる可能性もあります。特に、「節税ありき」のスキームは税務当局から厳しく見られる傾向が強まっており、公益信託についても例外ではありません。

当事務所では、新公益信託制度に関する個別相談を受け付けております。「自分のケースで公益信託は活用できるのか」「拠出額はいくらが最適か」「公益財団法人とどちらが良いのか」など、具体的なご質問がある方は、お気軽にお問い合わせください。100年ぶりの制度改正を、単なるニュースとしてではなく、ご自身の資産管理・社会貢献の実践につなげていただければ幸いです。

新着お知らせ