堺市で税理士に依頼するメリットとは?選び方のポイントと費用相場を解説
役員退職金の損金算入2026|功績倍率と否認されない実務を税理士が解説
この記事の要点3点
- 役員退職金は「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で適正額を見積もるのが実務の定番だが、功績倍率は法令の数値ではなく、不相当に高額な部分は法人税法34条2項で損金不算入になる。
- 影響を受けるのは退職金を支給するすべての中小企業オーナー。支給額の根拠づけ・株主総会議事録・退職金規程の整備が、税務調査で否認されないための分かれ目になる。
- まずやるべきは、退職金規程の有無と支給時期(損金算入の事業年度)の確認、そして同業類似法人と比べて過大でないかの自己点検である。
目次
役員退職金は、長年会社を支えてきた経営者の引退に際して支給される、中小企業にとって最大級の節税・資産移転のチャンスです。法人側では大きな損金(経費)となり、受け取る役員側では退職所得として税負担が大きく軽減されます。一方で、支給額が「不相当に高額」と判断されれば、その部分は損金として認められず、思わぬ追徴課税につながります。本記事では、2026年(令和8年)時点の現行ルールをもとに、役員退職金の損金算入の仕組みと、税務調査で否認されないための実務ポイントを、堺市の税理士が具体的に解説します。
役員退職金と損金算入のルール(制度の概要)
役員退職金(役員退職給与)は、法人税法上、原則として損金の額に算入できます。ただし無制限ではありません。法人税法第34条第2項は、役員に対して支給する退職給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金の額に算入しないと定めています。つまり、適正な範囲を超えた支給は、その超過部分が経費として認められません。
「不相当に高額かどうか」の判定基準は、法人税法施行令第70条第2号に置かれています。具体的には、(1)その役員が法人の業務に従事した期間、(2)退職の事情、(3)同種の事業を営む類似規模の法人(同業類似法人)の役員退職給与の支給状況、などに照らして判断するとされています。法令は「いくらまでなら大丈夫」という金額を示しておらず、あくまで相対的・総合的に判断される点が、役員報酬(月額)の取扱いと大きく異なります。
役員退職金が中小企業にとって有利とされるのは、法人と個人の両面で税負担が軽くなるためです。法人側では、適正額の範囲であれば全額が損金となり、その事業年度の利益を圧縮できます。受け取る役員側では、後述のとおり退職所得として、給与や賞与よりはるかに軽い税負担で受け取れます。長年にわたり役員報酬を抑えてきた経営者にとっては、引退時にまとめて報いる出口戦略としての意味合いも大きいといえます。さらに、経営者が在任中に死亡して支給される死亡退職金には、相続税の計算上「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠が設けられており、生命保険金とは別枠で活用できます。
ポイント:役員退職金には、月々の役員報酬のような「定期同額」「事前確定届出」といった支給形態の縛りはありません。その代わり、金額の妥当性(不相当に高額でないこと)と、退職の事実、適正な手続き(株主総会決議など)が問われます。
損金に算入する事業年度(タイミング)も重要です。法人税基本通達9-2-28は、役員退職給与の損金算入時期について、原則として「株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度」とし、ただし法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度において損金経理した場合には、その支払った事業年度の損金として認める、という取扱いを示しています。決議で確定した事業年度に未払計上するか、実際に支払った事業年度に計上するかで、損金算入の年度が変わります。
大前提として、退職金が損金として認められるには「退職の事実」が必要です。形式的に退職金を支給しても、その役員が従前と変わらず経営の実権を握り続けているような場合には、退職給与とは認められません。退職金が損金として否認されると、その金額は役員賞与(損金不算入)と認定され、法人税の負担が増えるだけでなく、役員側でも給与所得として源泉所得税の追加負担が生じるなど、ダメージが二重・三重に及びます。だからこそ、金額の妥当性に加えて「本当に退職したといえるか」という実態が重視されるのです。
中小企業への実務影響と功績倍率法
では、適正額はどのように見積もればよいのでしょうか。法令に金額の定めがないため、実務では「功績倍率法」と呼ばれる算定方法が広く用いられています。これは過去の裁判例でも合理的な方法として支持されてきたもので、次の式で計算します。
功績倍率法による適正額の目安:
最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率
最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率
ここで注意したいのは、功績倍率は法令で定められた数値ではないという点です。過去の代表的な裁判例で、代表取締役について3.0前後の倍率が一つの参考として示されたことはありますが、これはあらゆるケースで3.0までなら必ず認められることを保証するものではありません。最終的には前述の同業類似法人の支給状況などとの比較で「不相当に高額」かどうかが判断されます。功績倍率はあくまで自社で支給額を組み立てる際の出発点と捉えてください。
なお、税務調査や裁判の場面では、功績倍率法のほかに「1年あたり平均額法」という算定方法が用いられることもあります。これは、同業類似法人の役員退職給与の額を各社の役員の勤続年数で割った「1年あたりの退職給与額」の平均値を求め、これに退職する役員の勤続年数を乗じて適正額を見積もる方法です。功績倍率法で計算した金額が突出して高い場合に、この方法による金額と照らし合わせて妥当性が検証されることがあります。いずれの方法でも、最終的な拠り所は「同業類似法人と比べて過大でないか」という点であることを押さえておきましょう。
また、計算の基礎となる「最終月額報酬」が、退職直前に役員報酬を不自然に引き上げた金額であれば、その引上げ自体が否認されるおそれがあります。退職金を増やす目的で直前に報酬を急増させるのは典型的な調査対象です。さらに、功績倍率法で計算した退職給与は、業績連動給与(法人税法34条5項)には該当しないため、損金不算入の対象外として通常どおり扱われる点も、法人税基本通達9-2-27の2で整理されています。
中小企業で特に問題になりやすいのが、「分掌変更」のケースです。社長が代表を退いて非常勤の会長になる、取締役から監査役になるなど、役員としての地位や職務が大きく変わった場合でも、一定の要件を満たせば退職金を支給できます。法人税基本通達9-2-32は、(1)常勤役員が非常勤役員になったこと、(2)取締役が監査役になったこと、(3)分掌変更後の報酬がおおむね50%以上減少したこと、などにより、実質的に退職したと同様の事情があると認められる場合には、その分掌変更等の時に退職給与として支給したものを退職給与として取り扱うことができるとしています。ただし、この場合の退職給与は原則として現実に支払ったものに限られ、未払計上は認められない点に注意が必要です。
税務調査では、(1)退職金の額が功績倍率法・1年あたり平均額法でみて過大でないか、(2)計算基礎となる最終月額報酬が退職直前に不自然に引き上げられていないか、(3)株主総会の決議や退職金規程など根拠書類が整っているか、(4)分掌変更の場合に経営への関与が実質的に薄れているか、といった点が重点的に確認されます。中小企業では、これらの書類や実態の裏づけが曖昧なまま「社長だから」と高額の退職金を計上してしまい、後から否認されるケースが少なくありません。支給を決める前の段階で、根拠を一つずつ固めておくことが何よりの防御になります。
功績倍率法による適正額の計算イメージ(比較表)
イメージをつかむため、最終月額報酬100万円・在任25年の代表取締役を例に、功績倍率の置き方による試算を示します。あくまで計算の考え方を示す例であり、この金額が損金算入を保証するものではありません。
| 前提・功績倍率 | 計算式 | 退職金(目安) |
|---|---|---|
| 功績倍率 2.0 | 100万円 × 25年 × 2.0 | 5,000万円 |
| 功績倍率 3.0 | 100万円 × 25年 × 3.0 | 7,500万円 |
退職金を受け取る役員側の税負担も確認しておきましょう。退職所得は、原則として「(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2」で計算され、ほかの所得と分離して課税されるため、給与や賞与に比べて税負担がかなり軽くなります。退職所得控除額は勤続年数に応じて決まり、勤続20年以下は「40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)」、勤続20年超は「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)」です。
重要:役員等としての勤続年数が5年以下の役員が受け取る退職手当(特定役員退職手当等)については、収入金額から退職所得控除額を差し引いた額がそのまま退職所得となり、2分の1課税は適用されません。短期間で役員を退任して退職金を受け取る設計には注意してください。
当事務所の見解・実務上の注意点
役員退職金は「金額の大きさ」よりも「根拠と手続き」で勝負が決まる、というのが当事務所の一貫した見解です。多くの解説は功績倍率の数値に注目しますが、税務調査で実際に問われるのは、その金額に至った理由を会社が説明できるかどうかです。
第一に、退職金規程の整備です。あらかじめ役員退職慰労金規程を作成し、株主総会の承認を得ておくことで、支給額の算定根拠(最終報酬・在任年数・功績倍率・役職別の係数など)が社内ルールとして明確になります。規程がないまま「今回は7,500万円」と決めると、金額の客観性を欠き、否認リスクが高まります。
第二に、株主総会議事録などの証拠書類です。前述のとおり損金算入時期は決議で確定した日が原則です。いつ、どの機関が、いくらの支給を決定したのかを議事録で残し、決議日と支給日、損金経理した事業年度の整合を取ってください。
第三に、分掌変更による退職金の落とし穴です。代表を退いても実質的に経営の主要な意思決定を続けている(重要な取引の決裁を握っているなど)と、「実質的に退職したと同様の事情」が否定され、退職金が役員賞与(損金不算入)と認定されるおそれがあります。分掌変更で支給する場合は、報酬の減額幅だけでなく、経営への関与実態まで見直す必要があります。功績倍率の水準が不安な場合は、同業類似法人のデータを把握している税理士に事前に試算を依頼することをおすすめします。
あわせて検討したいのが、退職金の原資の準備と自社株評価への波及効果です。多額の退職金を一度に支払うには相応の資金が必要になるため、計画的に資金を積み立てておくことが欠かせません。生命保険を退職金の原資として活用する方法もありますが、保険料がどこまで損金になるかは商品の種類によって大きく異なり、近年の税制改正で取扱いが見直された商品もあるため、契約前に必ず確認してください。また、退職金を支給すると会社の純資産が減少するため、結果として自社株(取引相場のない株式)の評価額が下がる効果が期待できます。これは後継者へ株式を移転する事業承継の局面で有利に働くことがあり、退職のタイミングと株式の贈与・譲渡の時期を合わせて検討する価値があります。
最後に、死亡退職に伴って支給する弔慰金は、退職金とは別に一定額まで相続税が非課税となる枠があります。一般に、業務上の死亡であれば普通給与のおおむね3年分、業務外の死亡であれば6か月分が弔慰金として認められる目安とされ、これを超える部分は退職金として扱われます。退職金と弔慰金を区分して規程に定めておくことで、遺族の税負担を抑えることにつながります。
今すぐやるべきこと(チェックリスト)
- ステップ1:退職金規程の有無を確認する
役員退職慰労金規程があるか、株主総会で承認された有効なものかを確認します。なければ、退職予定の有無にかかわらず早めの整備を検討してください。 - ステップ2:適正額を功績倍率法で試算する
最終月額報酬・在任年数・役職に応じた功績倍率で目安額を算出し、直前の報酬引上げなど不自然な前提がないかを点検します。 - ステップ3:損金算入する事業年度を決める
株主総会の決議日・支給日・損金経理する事業年度を整理し、未払計上か支払時計上かを資金繰りと合わせて判断します。 - ステップ4:分掌変更の場合は関与実態を見直す
代表退任・非常勤化・報酬の減少幅(おおむね50%以上)と、経営への関与実態を確認し、退職と同様の事情があるかを点検します。 - ステップ5:受け取る側の退職所得を試算する
退職所得控除額と2分の1課税(特定役員に該当しないか)を確認し、手取りベースで支給設計の妥当性を検討します。
よくある質問(FAQ)
- Q. 役員退職金の功績倍率は3.0までなら必ず損金になりますか?
- A. いいえ、功績倍率は法令で定められた数値ではありません。過去の裁判例で代表取締役について3.0前後が参考とされた例はありますが、最終的には同業類似法人の支給状況や在任期間・退職事情を総合して「不相当に高額」かどうかが判断されます。3.0以内でも否認される可能性はあります。
- Q. 退職金はどの事業年度の損金になりますか?
- A. 原則は株主総会の決議等で支給額が具体的に確定した日の属する事業年度です(法人税基本通達9-2-28)。ただし実際に支払った事業年度に損金経理した場合は、その支払った事業年度の損金とすることも認められます。
- Q. 代表を退いて会長になっても退職金を出せますか?
- A. 分掌変更により、常勤から非常勤になる、報酬がおおむね50%以上減少するなど、実質的に退職したと同様の事情があると認められれば支給できます(法人税基本通達9-2-32)。ただし実質的に経営を続けている場合は否認されることがあり、この場合の退職給与は原則として現実に支払ったものに限られます。
- Q. 退職金を増やすため、退職直前に役員報酬を引き上げてもよいですか?
- A. おすすめしません。退職金の計算基礎となる最終月額報酬を不自然に引き上げると、その引上げ自体が過大役員給与として否認されたり、退職金の過大認定につながったりするおそれがあります。報酬は実態に即した水準にしておくことが大切です。
- Q. 受け取った退職金にはどのくらい税金がかかりますか?
- A. 退職所得は原則「(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2」で計算し、分離課税されるため給与より税負担が軽くなります。ただし役員等勤続年数が5年以下の場合は2分の1課税が適用されない点に注意が必要です。
- Q. 経営者が亡くなって支給する死亡退職金にも税金はかかりますか?
- A. 死亡退職金は相続税の対象ですが、「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税となります。生命保険金の非課税枠とは別枠で使えるため、遺族の納税資金の確保に役立ちます。法人側の損金算入の考え方は通常の退職金と同様です。
- Q. 弔慰金は退職金とは別に支給してもよいですか?
- A. 退職金と弔慰金は区分して支給できます。弔慰金は、業務上の死亡でおおむね普通給与の3年分、業務外の死亡で6か月分までが目安として非課税とされ、これを超える部分は退職金として扱われます。退職金規程で両者を分けて定めておくとよいでしょう。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第7款 退職給与(9-2-27の2、9-2-28、9-2-32)
- 国税庁 タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 タックスアンサー No.5208 役員の退職金の損金算入時期
本記事は道濟会計事務所が監修しました。