堺市で税理士に依頼するメリットとは?選び方のポイントと費用相場を解説
「会社標本調査」から読む中小企業の現在地──最新データの活用法と実務ポイント
はじめに──「会社標本調査」とは何か? なぜ今読むべきなのか
国税庁が毎年公表する「会社標本調査」は、日本に存在するすべての内国普通法人を対象に、申告所得や欠損金の状況、業種別の利益水準、役員報酬、交際費など、法人経営にまつわるあらゆるデータを網羅した唯一無二の統計資料です。直近では令和6年度分の調査結果が公表されており、コロナ禍後の回復フェーズに入った中小企業のリアルな姿が浮き彫りになっています。なお、会社標本調査は通常、対象年度の終了後半年〜1年程度で公表されるため、令和7年度分以降の調査結果については、国税庁の公表を待って確認する必要があります。
「自社の決算数値しか見ていない」という経営者の方は少なくありません。しかし、全国の法人データと自社を比較することで、業界内でのポジション確認、金融機関への説明材料、さらには税務調査リスクの予測にまで活用できます。税理士事務所の立場から、これまでに公表された調査結果の中で中小企業経営者が特に注目すべきポイントを独自に分析し、実務に直結するアドバイスをお伝えします。
1. 法人数と欠損法人割合──「黒字企業」は本当に増えているのか
1-1. 全体像:法人数は約290万社、欠損法人割合は約6割
令和6年度分の会社標本調査によると、申告法人数は約299万社で、増加傾向が続いています。一方で、欠損法人(赤字法人)の割合は約60.3%となっており、依然として全法人の約3分の2近くが税務上の赤字申告という構造です。
この「約6割〜7割が赤字」というデータは、毎年のように報道されますが、税理士として現場を見ている立場から申し上げると、数字の背景には大きく分けて以下の3パターンがあります。
- ①本当に事業が苦しい法人:売上減少やコスト増により実質的に赤字が続いている
- ②役員報酬の設定で意図的に法人所得をゼロ付近にしている法人:個人と法人のトータル税負担を最適化する手法
- ③休眠法人・ペーパーカンパニー:実質的な事業活動がない法人
特に中小企業では②のパターンが非常に多く、これは違法ではありませんが、役員報酬の設定が税務調査で問題視されるケースもあるため注意が必要です。後述しますが、役員報酬の設定戦略は常に見直しのタイミングを意識すべきテーマです。
1-2. 欠損法人割合の推移と業種別の差
欠損法人割合の推移を見ると、リーマンショック後の平成21年度に約72%まで上昇した後、徐々に低下し、コロナ前の令和元年度には約61%まで改善していました。コロナ禍を受けて令和2年度には約62%とやや上昇しましたが、持続化給付金等の支援策もあり急激な悪化には至りませんでした。その後、令和4年度は約64.8%で推移しています。
| 年度 | 備考 |
| 平成21年度 | リーマンショック直後 |
| 令和元年度 | コロナ前の改善ピーク |
| 令和2年度 | コロナ影響(支援策で急悪化は回避) |
| 令和4年度 | 国税庁公表値 |
業種別では、建設業・製造業が相対的に黒字割合が高く、飲食・宿泊業は依然として欠損法人割合が高い水準にあります。ただし、インバウンド回復の恩恵を受けた宿泊業では改善傾向が見られ、業種の中でも立地やビジネスモデルによって明暗が分かれている状況です。
2. 利益水準と営業収入──中小企業はどれだけ稼いでいるのか
2-1. 資本金階級別の所得状況
会社標本調査の大きな特徴は、資本金階級別にデータが整理されている点です。中小企業の経営者にとって、「資本金1,000万円以下」「1,000万円超5,000万円以下」の区分が最も参考になるでしょう。
公表済みの調査データによれば、資本金1,000万円以下の法人における1社あたりの平均所得金額は数百万円程度にとどまります。一方で、資本金1億円超の大法人では1社あたり数十億円規模の所得となるため、全法人の「平均値」を見てもまったく参考になりません。
ここで重要なのは、「中央値」の感覚を持つことです。統計上の平均所得は一部の高収益法人に引き上げられていますが、中小企業の実態は「所得ゼロ付近」に集中しています。つまり、年間の申告所得が500万円以上あれば、同規模の法人の中では相当上位に位置すると考えてよいでしょう。
2-2. 営業収入金額の動向と物価上昇の影響
近年は物価上昇の影響もあり、法人全体の営業収入金額は名目ベースで増加傾向にあります。しかし、これは必ずしも「儲かっている」ことを意味しません。原材料費や人件費の上昇がそれ以上のスピードで進んでいるケースでは、売上が増えても利益は減少する「増収減益」のパターンが目立ちます。
実際に当事務所の関与先でも、年商1億円から1億2,000万円に売上が伸びたにもかかわらず、材料費と外注費の高騰で営業利益が前年比マイナスになった製造業の事例があります。「売上が伸びているから大丈夫」という思い込みは危険で、利益率の管理がこれまで以上に重要になっています。
⚠ 注意:売上高の増加が利益増加に直結しない時代です。月次決算で「売上総利益率」を必ずモニタリングし、前年同月比等で1%以上の低下があれば、値上げ交渉や仕入先の見直しを早急に検討してください。放置すると資金繰りが急速に悪化するリスクがあります。
3. 役員報酬・給与の動向──税務調査で見られるポイント
3-1. 役員報酬の平均額と中小企業の実態
会社標本調査では、役員報酬の平均額も公表されています。公表済みのデータによれば、資本金2,000万円未満の法人における役員1人あたりの平均給与は、近年600万円台〜700万円台で推移しています。
しかし、現場の感覚で言うと、この「平均」に惑わされてはいけません。実際には、年収300万円以下の役員も、年収2,000万円超の役員も多数存在し、分布はかなり広がっています。重要なのは、「同業・同規模の法人と比較して、自社の役員報酬が著しく高額ではないか」という視点です。
3-2. 税務調査における「不相当に高額な役員給与」のリスク
法人税法第34条第2項は、役員給与(報酬・賞与等を含む)のうち「不相当に高額な部分の金額」を損金不算入としています。税務調査において、所轄税務署は会社標本調査のデータを含む各種統計を参照し、同業他社比較を行っています。
具体的には以下のような場合にリスクが高まります。
- 売上高が5,000万円程度なのに、役員報酬が年間2,000万円を超えている
- 会社が赤字なのに、役員報酬を減額していない
- 従業員の平均給与と役員報酬の差が極端に大きい
- 複数の親族役員に対して、業務実態に見合わない報酬を支給している
当事務所では、関与先の役員報酬を設定する際に、必ず会社標本調査の業種別・資本金別データと照合し、「仮に税務調査が入った場合に合理的に説明できる水準か」を確認しています。これは地味な作業ですが、否認されれば法人税・所得税の両方で追徴される可能性があるため、非常に重要な実務です。
3-3. 今後の税制改正動向を踏まえた役員報酬戦略
令和7年度税制改正大綱では、中小企業向けの法人税率の軽減特例について見直し議論が行われていました。従来、年所得800万円以下の部分に対して本則19%を15%に軽減する租税特別措置が適用されてきましたが、この軽減税率の水準や適用期限について段階的な見直しが検討されています。最新の適用税率については、改正法の成立状況を確認してください。
また、防衛力強化に係る法人税の付加税(防衛特別法人税)については、令和7年度税制改正大綱において令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用することが決定しています。グローバルミニマム課税の影響もあり、税負担は今後上昇する方向にあると見られます。
こうした状況下では、「法人に利益を残す vs. 役員報酬で個人に移す」の最適バランスを毎年見直す必要があります。なお、令和6年分の所得税では定額減税(1人あたり3万円)が実施されましたが、これは令和6年分限りの一時的措置であり、令和7年分以降は適用がありません。法人・個人のトータルでシミュレーションを行うことが不可欠です。
4. 交際費と寄附金──中小企業の使い方と税務上の注意
4-1. 交際費等の支出状況
会社標本調査では、交際費等の支出額も集計されています。中小企業(資本金1億円以下)については、年間800万円までの交際費の全額損金算入が認められています(定額控除限度額の特例)。また、飲食費の50%損金算入との選択適用が可能です。
公表済みの調査データを見ると、資本金1,000万円以下の法人における1社あたりの交際費支出額は平均で100万円前後と、限度額の800万円には遠く及ばない水準です。つまり、多くの中小企業では交際費の損金算入枠を大幅に使い残しているということになります。
これは逆に言えば、ビジネス上必要な接待や贈答を「もったいない」と控えすぎている可能性もあります。もちろん無駄遣いは禁物ですが、取引先との関係維持や新規開拓のための適正な交際費支出は、税務上も認められた経費です。
4-2. 令和6年度改正で拡大された飲食費の範囲
令和6年度税制改正で、交際費から除外される1人あたりの飲食費の基準が5,000円から10,000円に引き上げられました。この改正は令和6年4月1日以後に開始する事業年度において支出する飲食費が対象です(3月決算法人であれば令和6年4月1日以後開始事業年度から適用、12月決算法人であれば令和7年1月1日以後開始事業年度から適用となるなど、事業年度の開始時期によって適用開始タイミングが異なります)。
これにより、1人あたり1万円以下の飲食であれば「会議費」等として全額損金算入が可能となり、交際費の定額控除限度額を消費しません。
この改正は実務上かなり大きなインパクトがあります。当事務所の関与先でも、「取引先とのランチや夕食会が1人1万円以内に収まるケースが大半」というフィードバックが多く、実質的に交際費課税の対象となる支出が大幅に減少しました。
| 区分 | 改正前 | 改正後(令和6年4月1日以後開始事業年度〜) |
| 交際費から除外される飲食費基準 | 1人あたり5,000円以下 | 1人あたり10,000円以下 |
| 中小法人の定額控除限度額 | 800万円 | 800万円(変更なし) |
| 飲食費50%損金算入 | 選択適用可 | 選択適用可(変更なし) |
ただし、飲食費として処理するためには、①飲食の年月日、②参加者の氏名・関係、③参加人数、④飲食店名・所在地、⑤金額を記載した書類の保存が必要です。この書類保存要件を怠ると、税務調査で交際費として認定され、損金不算入のリスクがありますので、経理担当者の方は改めてルールを周知してください。
5. 繰越欠損金の状況──中小企業の「隠れた資産」
5-1. 繰越欠損金の残高は依然として巨額
会社標本調査によると、全法人の繰越欠損金残高は依然として数十兆円規模に上ります。特にコロナ禍で発生した欠損金はまだ繰越期間内であり、今後の黒字回復時に相殺に使われることになります。
中小法人等の場合、繰越欠損金は所得金額の100%まで控除可能です。ただし、ここでいう「中小法人等」とは、資本金1億円以下の法人のうち、資本金5億円以上の大法人の100%子会社等を除いたものを指します。単純に「資本金1億円以下であれば100%控除可能」とは限りませんのでご注意ください。一方、大法人については所得金額の50%までの控除に制限されています。
5-2. 実務上の落とし穴
繰越欠損金の活用には、いくつかの注意点があります。
- 繰越期間は10年間:平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金は10年間繰り越せます(平成29年度税制改正による延長)。それ以前に生じた欠損金は9年間です。コロナ禍の令和2年度・3年度に大きな赤字を出した法人は、それぞれの事業年度から10年後が期限となるため、計画的な活用が必要です。
- 青色申告の継続が前提:青色申告の承認を取り消されると繰越欠損金が使えなくなります。帳簿の不備や無申告が続くと取消しのリスクがあります。
- 組織再編時の制限:M&Aや合併の際に、繰越欠損金の引継ぎには厳格な要件があります。「赤字会社を買収して欠損金を利用する」というスキームは、税務上否認されるケースが増えています。
⚠ 重要:繰越欠損金を多額に抱えている法人は、「いつまでにいくら使えるか」のスケジュール表を作成してください。期限切れで失効させてしまうのは、文字通り「お金を捨てる」のと同じです。特に事業承継やM&Aを検討中の場合は、欠損金の引継ぎ可否を事前に税理士と確認することを強くお勧めします。
6. 業種別の傾向──あなたの業界はどうなっているか
6-1. 好調な業種:建設業・情報通信業
近年の調査データでは、建設業は公共事業の堅調な発注と民間設備投資の回復により、利益水準が高い状態が続いています。人手不足による単価上昇が利益率の改善に寄与している面もあります。情報通信業もDX投資の拡大を背景に堅調で、黒字法人割合が他業種に比べて高い水準を維持しています。
6-2. 回復途上の業種:飲食・小売業
飲食業や小売業は、物価上昇による消費者の節約志向が逆風となっています。売上の回復は見られるものの、食材費や光熱費の高騰が利益を圧迫し、「売っても売っても利益が残らない」状況に苦しむ企業が少なくありません。
当事務所の関与先でも、飲食業のオーナーから「客数は戻ったが、原価率が5ポイント上がって利益が出ない」という相談が増えています。このような場合は、メニュー構成の見直し(高粗利商品の強化)、オペレーション効率化、適正な値上げの3つを同時に進めることをアドバイスしています。
6-3. 業種別データの活用方法
会社標本調査の業種別データは、以下のような場面で活用できます。
- 金融機関との交渉:「うちの業界全体の利益率はこの水準で、当社はそれを上回っている」と数字で示せれば、融資審査でプラスに働きます。
- 経営計画の策定:業界平均と自社を比較し、改善余地がある項目(人件費率、交際費率など)を特定できます。
- 税務調査への備え:同業他社と比べて突出した数値がある場合(異常に高い外注費率など)、調査官が注目するポイントを事前に把握できます。
7. 税務調査の観点──会社標本調査は調査官も見ている
7-1. 調査官は「異常値」を探している
あまり知られていませんが、税務署の調査官は会社標本調査のデータを含む各種統計を日常的に活用しています。特に、同業・同規模の法人と比較して数値が大きくかい離している項目は、調査対象として選定される際の重要な判断材料になります。
例えば、同業種の平均的な売上総利益率が30%なのに、自社が15%であれば、「売上の計上漏れがあるのではないか」「架空の仕入を計上しているのではないか」と疑われる可能性があります。逆に利益率が異常に高ければ、「経費の計上漏れを意図的に行っているのではないか」という観点もありますが、一般的には利益率が低い法人の方が調査リスクは高い傾向にあります。
7-2. 今すぐできる「自社診断」
以下のチェックリストで、自社の数値が会社標本調査の業界平均と比べてどうかを確認してみてください。
| チェック項目 | 確認ポイント | リスクレベル |
| 売上総利益率 | 業界平均と10ポイント以上かい離していないか | 高 |
| 役員報酬 / 売上高比率 | 同規模法人の平均を大きく上回っていないか | 高 |
| 交際費支出額 | 同業平均の2倍以上になっていないか | 中 |
| 外注費 / 売上高比率 | 業界平均と大幅にかい離していないか | 高 |
| 人件費率 | 業界平均と比較して極端に低くないか | 中 |
8. 今すぐやるべきこと──会社標本調査データを経営に活かす5つのアクション
ここまでの分析を踏まえ、中小企業の経営者・経理担当者の方に今すぐ取り組んでいただきたいアクションをまとめます。
アクション①:自社の決算数値を業界平均と比較する
国税庁のウェブサイトで会社標本調査の最新公表結果を確認し、自社の属する業種・資本金階級のデータと自社の数値を比較してください。売上総利益率、人件費率、交際費率、役員報酬水準の4つは最低限チェックすべき項目です。「平均より良い点」「平均より劣る点」を可視化することで、経営改善の方向性が明確になります。
アクション②:役員報酬の見直しシミュレーションを行う
今後の防衛特別法人税の導入や法人税軽減税率の見直しを見据え、法人に利益を残す場合と役員報酬で個人に移す場合のトータル税負担を比較するシミュレーションを行ってください。特に、個人の所得税・住民税・社会保険料を含めた総合的な比較が重要です。定期同額給与の変更は事業年度開始から3か月以内に行う必要があるため、決算後すぐに検討を開始してください。
アクション③:繰越欠損金の残高と期限を確認する
法人税申告書の別表七を確認し、繰越欠損金の残高と各年度の発生時期を一覧表にしてください。最も古い欠損金から使われるルール(FIFO)を理解した上で、期限切れになりそうな欠損金がないかを確認します。必要に応じて、利益の前倒し計上(固定資産の売却益など)も検討します。
アクション④:飲食費の記録ルールを再徹底する
1人あたり1万円以下の飲食費を交際費から除外するための書類保存要件を、経理担当者だけでなく営業担当者にも周知してください。領収書の裏面に参加者名と人数を記載する運用や、専用の精算フォームを整備するなど、日常的な仕組みとして定着させることが重要です。
アクション⑤:月次決算の精度を上げる
年1回の決算だけでは、利益率の変動に気づくのが遅れます。月次決算を翌月15日までに完了させる体制を構築し、売上総利益率・営業利益率の推移をモニタリングしてください。会計ソフトのダッシュボード機能を活用すれば、特別な手間をかけずに可視化できます。異常値が出たら即座に原因を調査し、対策を講じることで、年度末に「こんなはずではなかった」という事態を防げます。
⚠ 最後に:会社標本調査は「他社の平均」を知るためのツールですが、平均に近づくことがゴールではありません。自社の強みを伸ばし、弱みを補強するための「現在地の確認」として活用してください。数字を把握している経営者と、感覚だけで経営している経営者では、3年後、5年後に大きな差が生まれます。
まとめ
会社標本調査は、コロナ禍からの回復過程や、物価上昇という新たな課題に直面する中小企業の姿を映し出す重要な統計です。直近の公表データでは欠損法人割合は依然として6割超と高水準ですが、その内訳を丁寧に読み解けば、意図的な所得コントロールや休眠法人の存在など、多様な背景が見えてきます。
重要なのは、このデータを「他人事」として読むのではなく、自社の経営判断に直結する情報として活用することです。役員報酬の設定、繰越欠損金の管理、交際費の適正な使い方、そして税務調査への備え──すべてが会社標本調査のデータと紐づいています。
なお、本記事で言及した数値は、国税庁が公表済みの会社標本調査に基づくものです。令和5年度分以降の最新データについては、国税庁の公表をご確認ください。
道濟会計事務所では、関与先の皆様に対して、会社標本調査のデータを活用した「業界ベンチマーク分析レポート」をご提供しています。自社の立ち位置を客観的に把握したい方、今後の税務戦略について相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。数字に基づいた経営判断が、御社の未来を切り拓く力になるはずです。