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酒類業振興予算から読む中小企業の支援策と今後

はじめに──なぜ「酒類業振興関係予算」に注目すべきなのか

令和8年度の国家予算が成立し、各省庁の予算配分が明らかになりました。中小企業の経営者・経理担当者の皆様にとって、自社に直接関係する補助金や支援策の情報は経営判断に直結する重要なテーマです。今回は、あまり注目されることのない「国税庁の酒類業振興関係予算」にフォーカスし、酒類販売業・飲食業を営む中小企業が実際に活用できる支援策と、今後の業界動向について、当事務所の税理士としての視点から深掘り解説します。

国税庁は酒税の賦課徴収だけでなく、酒類業の健全な発達を所管する行政機関でもあります。この「酒類行政」の側面は意外と知られていませんが、令和8年度予算では酒類業振興関連で約28億円規模の予算が計上されており、輸出促進、経営基盤強化、技術研究など多岐にわたる施策が盛り込まれています。酒類を製造・販売する事業者はもちろん、飲食店として酒類を提供する事業者にとっても、間接的に恩恵を受けられる施策が含まれているのです。

本記事では、令和8年度予算の全体像を俯瞰したうえで、各支援策の具体的な内容、中小企業が活用するための実務的なポイント、そして酒税制度の今後の動向まで、幅広くカバーしていきます。

令和8年度 酒類業振興関係予算の全体像

予算の3つの柱

令和8年度の酒類業振興関係予算は、大きく分けて以下の3つの柱で構成されています。

主な施策予算規模(概算)
①日本産酒類の輸出促進海外プロモーション、ブランド戦略支援、輸出環境整備約12億円
②酒類業の経営基盤強化経営改善支援、技術支援、人材育成約9億円
③酒類の適正な流通・品質確保表示制度の適正化、未成年飲酒防止、技術研究約7億円

特に注目すべきは、①の輸出促進予算が前年度比で約15%増加している点です。政府が掲げる「2030年までに日本産酒類の輸出額を倍増させる」という目標に向けた投資が加速していることがわかります。

予算増加の背景にある市場環境

国内の酒類市場は、人口減少と健康志向の高まりにより長期的な縮小傾向にあります。令和7年度の国内酒類消費量は前年比で約1.5%減少しており、特にビール系飲料と日本酒の減少が顕著です。一方で、クラフトビール、ジャパニーズウイスキー、日本ワインといったプレミアム市場や、海外市場は堅調に成長しています。

このような二極化した市場環境の中で、国税庁は「量から質」「国内から海外」への転換を支援する方針を明確にしています。中小の酒類事業者にとっては、この流れに乗れるかどうかが今後の経営を大きく左右することになるでしょう。

中小企業が活用できる具体的な支援策

(1)日本産酒類の海外展開支援事業

令和8年度予算の目玉ともいえるのが、日本産酒類の海外展開支援事業です。この事業は、酒類の輸出に取り組む中小事業者に対して、以下のような支援を行うものです。

①海外見本市・商談会への出展支援
海外で開催される酒類関連の見本市や商談会に出展する際の費用について、一定割合の補助を受けることができます。具体的には、出展料、渡航費、通訳費用などが対象となり、補助率は原則として対象経費の2分の1以内、上限額は1事業者あたり200万円程度とされています。

②海外市場調査・マーケティング支援
ターゲット市場の消費動向調査、現地での試飲イベント開催、海外向けラベルデザインの開発など、マーケティング活動に対する支援も含まれています。特に令和8年度からは、東南アジア市場(ベトナム、タイ、フィリピン等)への展開を重点的に支援する方針が示されており、これまで欧米中心だった支援の幅が広がっています。

③GI(地理的表示)制度の活用支援
日本酒やワインなどで地理的表示(GI)の取得を目指す産地に対する支援も強化されています。GIを取得することで、産地のブランド価値が高まり、海外市場での競争力が向上します。令和8年度時点で、日本酒では「山形」「灘五郷」「はりま」など複数のGIが指定されており、新たな産地の申請も増加傾向にあります。

【実務上の注意点】
輸出支援事業の申請には、事前に「酒類の輸出に関する事業計画書」の作成が必要です。この計画書では、ターゲット市場の選定理由、販売チャネルの具体的な計画、3年間の輸出目標数量・金額などを明記する必要があります。計画書の質が採択を左右するため、「とりあえず申請してみる」では通らないケースが多いです。当事務所では、補助金申請に伴う事業計画書の作成支援も行っておりますので、輸出に関心のある事業者様はお早めにご相談ください。

(2)酒類業の経営改善・技術支援

国内市場の縮小に対応するため、酒類事業者の経営基盤を強化するための支援策も充実しています。

①経営相談・専門家派遣
国税庁と連携する各地域の酒類業組合を通じて、経営コンサルタントや中小企業診断士等の専門家を無料または低コストで派遣する制度があります。経営改善計画の策定、原価管理の見直し、販売戦略の再構築など、幅広いテーマに対応しています。特に地方の小規模酒蔵にとっては、外部の専門家の知見を得る貴重な機会となります。

②醸造技術の研究・指導
独立行政法人酒類総合研究所(広島県東広島市)を通じた技術支援は、令和8年度も継続されています。同研究所では、酒類の品質向上に関する研究、新商品開発の技術指導、醸造技術者の養成研修などを実施しています。中小の酒蔵にとっては、自社だけでは取り組めない高度な技術研究のリソースとして非常に有用です。

③設備投資への間接的支援
酒類業振興予算から直接的な設備投資補助が出るわけではありませんが、国税庁の支援策と他省庁の補助金・税制優遇を組み合わせることで、設備投資の負担を大幅に軽減できます。例えば、以下のような組み合わせが考えられます。

支援策所管主な内容対象事業者
ものづくり補助金中小企業庁革新的サービス・試作品開発、生産プロセス改善のための設備投資(上限1,250万円等)中小企業・小規模事業者
事業再構築補助金中小企業庁事業転換・業種転換等の大胆な事業再構築(上限数千万円〜)中小企業等
中小企業経営強化税制経済産業省・国税庁特定経営力向上設備等の即時償却または税額控除(10%or7%)経営力向上計画の認定を受けた中小企業
酒類業振興事業(経営支援)国税庁専門家派遣による経営改善計画策定支援酒類製造・販売業者

このように、国税庁の支援策を「入口」として活用し、他省庁の補助金や税制優遇措置と組み合わせることで、トータルでの支援効果を最大化するアプローチが実務上有効です。

(3)飲食業への間接的な影響

酒類業振興予算は直接的には酒類製造・販売業者を対象としていますが、飲食業を営む中小企業にも間接的な恩恵があります。

①酒類の品質向上と多様化
振興予算による技術支援や商品開発支援の結果、国産酒類の品質が向上し、商品ラインナップが多様化することは、飲食店のメニュー戦略にとってプラスに働きます。特にクラフト系の酒類は付加価値が高く、飲食店の客単価向上に寄与します。

②インバウンド需要との連動
日本産酒類の海外プロモーションは、訪日外国人観光客の「日本酒を飲みたい」「ウイスキーの蒸留所を訪れたい」というニーズを喚起します。酒蔵ツーリズムや酒類をテーマにした飲食体験が注目される中、飲食店も「日本酒ペアリングコース」「地元の酒蔵との連携イベント」など、付加価値の高いサービスを提供することで恩恵を受けられます。

③適正取引の推進
酒類の適正な流通を確保するための施策として、不当廉売の監視強化も含まれています。過度な価格競争に巻き込まれがちな中小の酒販店にとっては、適正な取引環境の確保は経営安定に直結する重要な施策です。

酒税制度の最新動向と今後の見通し

令和8年10月の酒税率改正を忘れずに

令和8年度予算の話題とあわせて必ず押さえておきたいのが、令和8年10月に予定されている酒税率の改正です。これは平成29年度税制改正で決定された段階的な税率見直しの最終段階にあたります。

酒類区分現行税率(350ml換算)令和8年10月以降増減
ビール約63.35円約54.25円▲約9円(減税)
発泡酒(麦芽比率25%未満)約46.99円約54.25円△約7円(増税)
新ジャンル(第三のビール)約37.80円約54.25円△約16円(増税)
日本酒110円/1L100円/1L▲10円(減税)
ワイン90円/1L100円/1L△10円(増税)

ビール系飲料については、ビール・発泡酒・新ジャンルの税率が350mlあたり54.25円に一本化されます。これにより、新ジャンル(第三のビール)を中心に仕入れていた飲食店や酒販店は、仕入原価の上昇に直面することになります。

【要注意】新ジャンル(第三のビール)を主力商品としている事業者様へ
令和8年10月の改正で、新ジャンルの酒税は1缶(350ml)あたり約16円の増税となります。年間1万ケース(24万缶)を販売する酒販店の場合、年間約384万円の原価増加に相当します。この増加分を販売価格に転嫁できるかどうかは、取引先との価格交渉や消費者の価格感応度に大きく依存します。今のうちから、商品構成の見直しや価格戦略の再検討を進めておくことが重要です。

ビール減税を「チャンス」に変える視点

一方で、ビールの税率は引き下げられるため、ビールの実売価格が下がる可能性があります。飲食店においては、「生ビールをもっと手頃に提供する」戦略が有効になるかもしれません。クラフトビールブームと相まって、こだわりのビールを適正価格で提供する飲食店は、差別化のチャンスを得ることができます。

また、日本酒の税率も引き下げられるため、日本酒を主力とする居酒屋や和食店にとっては追い風となります。仕入原価の低下分を利益確保に充てるか、価格を下げて集客力を高めるか、戦略的な判断が求められる局面です。

酒類販売免許と事業承継──見落としがちな実務ポイント

酒類販売免許の「相続」と「法人成り」

酒類業振興に関連して、中小企業オーナーが見落としがちなのが、酒類販売免許に関する事業承継の問題です。酒類販売免許は行政上の許認可であり、事業を次世代に引き継ぐ際にはいくつかの注意点があります。

①個人事業主の相続
個人事業主が死亡した場合、酒類販売免許は相続人に自動的に承継されるわけではありません。相続人は、被相続人の死亡後遅滞なく(実務上は概ね30日以内)販売業免許の相続申告書を所轄税務署に提出する必要があります。この手続きを怠ると、免許が失効してしまい、酒類の販売を継続できなくなるリスクがあります。

②個人事業の法人成り
個人事業から法人に組織変更する場合、酒類販売免許は新たに法人として取得し直す必要があります。個人の免許を法人に「移転」することはできません。法人設立のタイミングと免許取得のタイミングを調整しないと、一時的に酒類を販売できない期間が生じる恐れがあるため、計画的に進める必要があります。

③M&Aによる事業承継
近年、後継者不在の酒蔵や酒販店のM&Aが増加しています。株式譲渡の場合は法人格が変わらないため免許はそのまま維持されますが、事業譲渡の場合は買い手が新たに免許を取得する必要があります。M&Aのスキーム選択にあたっては、酒類販売免許の取扱いが重要な考慮要素となります。

【事業承継を考えている酒類事業者様へ】
酒類販売免許に関する手続きは、通常の税務・会計の範囲外になることが多く、税理士や行政書士との連携が必要です。特に事業承継やM&Aを検討中の場合は、免許の承継・再取得にかかる期間(通常2〜3ヶ月)を織り込んだスケジュール策定が不可欠です。「売買契約は成立したが免許が取れない」という事態を避けるためにも、早めの専門家への相談をお勧めします。

インボイス制度と酒類取引──2年目の実務課題

令和5年10月に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、酒類業界にも大きな影響を及ぼしています。制度開始から2年以上が経過した現在でも、実務上の課題が残っている事業者は少なくありません。

酒類取引における特有の論点

①リベート・販売奨励金の取扱い
酒類業界では、メーカーや卸売業者から酒販店・飲食店に対して、販売数量に応じたリベート(販売奨励金)が支払われることがあります。このリベートに関するインボイスの発行・受領のルールは複雑で、「売上値引き」として処理する場合と「役務提供の対価」として処理する場合で、消費税の取扱いが異なります。

②免税事業者からの仕入れ
小規模な酒蔵やワイナリーの中には、課税売上高が1,000万円以下の免税事業者も存在します。免税事業者からの仕入れについては、令和8年度は経過措置として仕入税額の50%が控除可能ですが、令和11年10月以降は完全に控除不可となります。取引先の課税事業者・免税事業者の区分を正確に把握し、将来的な仕入コストの変動を見込んだ経営計画を立てることが重要です。

③返品・廃棄の処理
酒類は賞味期限こそありませんが、品質劣化による返品や売れ残りの廃棄が発生することがあります。返品時の適格返還請求書(返還インボイス)の発行ルール、廃棄時の仕入税額控除の取扱いなど、実務的に判断に迷うケースが見受けられます。

今すぐやるべきこと──アクションアイテム5つ

ここまでの内容を踏まえ、酒類販売業・飲食業を営む中小企業の皆様に、今すぐ取り組んでいただきたいアクションアイテムを5つにまとめました。

アクション①:令和8年10月の酒税率改正への対応を始める

改正まで残り約6ヶ月です。新ジャンル(第三のビール)を中心に扱っている事業者は、仕入原価の上昇を試算し、販売価格への転嫁方針を決定してください。併せて、ビール・日本酒の減税分を活かした商品ラインナップの見直しも検討しましょう。具体的には、自社の直近1年間の酒類別販売数量を洗い出し、改正後の税率を適用したシミュレーションを行うことから始めてください。

アクション②:輸出支援事業の情報収集と申請準備

日本産酒類の輸出に関心のある事業者は、国税庁のウェブサイトや各地域の酒類業組合を通じて、令和8年度の支援事業の公募情報を確認してください。多くの事業の公募は4月〜6月に集中するため、まさに今が情報収集の適期です。事業計画書の作成には時間がかかるため、早めに着手することをお勧めします。

アクション③:事業承継計画の見直し

酒類販売免許を保有する個人事業主で、将来的な法人成りや事業承継を考えている方は、免許の承継・再取得のスケジュールを含めた事業承継計画を作成(または見直し)してください。特に経営者が高齢の場合は、万が一の相続発生時に備えた免許承継の手順を、後継者と共有しておくことが重要です。

アクション④:インボイス制度の運用状況を再点検

制度開始から2年以上が経過していますが、取引先との間でインボイスの発行・受領ルールが曖昧なまま運用されているケースが散見されます。特にリベートの処理方法、免税事業者との取引の仕入税額控除、返品時の処理などは、自社の経理ルールを改めて確認し、必要に応じて見直してください。経過措置の控除割合が令和9年10月に0%になることを見据えた準備も必要です。

アクション⑤:他省庁の補助金との組み合わせ戦略を検討

国税庁の酒類業振興事業だけでなく、中小企業庁のものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、事業再構築補助金など、他省庁の補助金も視野に入れた「複合的な支援活用戦略」を検討してください。補助金は単体で使うよりも、複数の施策を組み合わせることで、設備投資・販路開拓・人材育成をトータルで支援することが可能になります。

道濟会計事務所からのメッセージ

酒類業界は今、国内市場の成熟と海外市場の拡大という構造的な転換期を迎えています。令和8年度の酒類業振興関係予算は、まさにこの転換を後押しするための施策であり、中小事業者にとっては「活用するかしないか」で大きな差がつく局面です。

また、令和8年10月の酒税率改正は、ビール系飲料を取り扱うすべての事業者に影響を与える重要なイベントです。「まだ半年ある」と思わず、今から具体的な対策を講じることで、改正をチャンスに変えることができます。

当事務所では、酒類販売業・飲食業を営むクライアントの皆様に対して、税務申告はもちろん、補助金申請の支援、事業承継計画の策定、インボイス制度の運用改善など、幅広いサポートを提供しております。「うちの場合はどうなるの?」という個別のご質問にも丁寧にお答えしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

変化の時代を生き抜くために、制度を知り、活用し、先手を打つ。それが中小企業経営の鉄則です。本記事が、皆様の経営判断の一助となれば幸いです。

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