堺市で税理士に依頼するメリットとは?選び方のポイントと費用相場を解説
相続時精算課税の110万円基礎控除2026|暦年贈与どちらが得か解説
この記事の要点3点
- 2024年(令和6年)1月1日以降、相続時精算課税にも毎年110万円の基礎控除が新設され、年110万円までの贈与は申告不要・相続財産への持ち戻しも不要になりました。
- 影響を受けるのは、親や祖父母から自社株や不動産などまとまった資産の移転を考える中小企業の経営者・後継者やそのご家族です。
- 制度は一度選ぶと暦年課税に戻せません。まず「精算課税と暦年課税のどちらが有利か」を試算し、選択届出書の提出期限(贈与の翌年3月15日)を押さえることが第一歩です。
目次
子や孫へまとまった財産を早めに渡したい——そう考えたとき、贈与税の負担が壁になります。2024年(令和6年)1月1日からの税制改正で、相続時精算課税制度に「年110万円の基礎控除」が新設され、この制度の使い勝手が大きく変わりました。年110万円までの贈与であれば贈与税の申告も不要で、しかも相続時に相続財産へ足し戻す必要もありません。本記事では、相続時精算課税の110万円基礎控除の仕組みと、暦年課税との選び方、中小企業の事業承継で失敗しないための実務上の注意点を、税理士の視点で具体的に解説します。
相続時精算課税の110万円基礎控除とは(制度の概要)
相続時精算課税とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などへ財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度です。贈与をした年の1月1日時点で贈与者が60歳以上、受贈者が18歳以上であることが要件で、受贈者は贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人または孫に限られます。
この制度を選ぶと、特定の贈与者(「特定贈与者」といいます)からの贈与について、累計2,500万円までの特別控除が使えます。2,500万円を超えた部分には、贈与額の多寡にかかわらず一律20%の贈与税がかかります。そして、贈与者が亡くなったときに、それまでの贈与財産を相続財産に足し戻して相続税で精算する——これが「精算課税」という名前の由来です。
2024年改正で年110万円の基礎控除が新設
従来の相続時精算課税には、暦年課税のような毎年の非課税枠がありませんでした。そのため、110万円の少額贈与でも申告が必要で、しかも贈与した財産はすべて相続財産に足し戻されるという使いにくさがありました。
2024年(令和6年)1月1日以後の贈与からは、相続時精算課税にも「年110万円の基礎控除」が新設されました。重要なのは、この110万円が暦年課税の110万円とは別枠で認められる点と、累計2,500万円の特別控除とも別に毎年使える点です。具体的には、1年間に特定贈与者から受けた贈与額のうち110万円までは贈与税がかからず、贈与税の申告も不要になりました。
ポイント:110万円分は相続財産に足し戻されない
相続時精算課税を選んだ後、贈与者が亡くなったときに相続財産へ加算するのは「贈与時の価額の合計額から、相続時精算課税に係る基礎控除額を差し引いた残額」です。つまり、毎年110万円までの贈与は相続税の計算上も持ち戻されません。コツコツと年110万円以内で贈与を続ければ、その分はまるごと相続税の対象から外れることになります。
税額の計算順序と選択の届出
令和6年以後の贈与税は、「その年の贈与額 − 基礎控除110万円 − 特別控除(2,500万円の残額)」に20%を乗じて計算します。基礎控除を先に引いてから特別控除を使う順序になるため、毎年110万円以内なら特別控除2,500万円の枠は減りません。
相続時精算課税を使うには、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書とあわせて「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。一度この届出をすると、その特定贈与者からの贈与は、それ以降すべて相続時精算課税が適用され、暦年課税へ戻すことはできません。この不可逆性が、制度選択で最も慎重になるべき点です。
計算イメージ:父から1年間に610万円の贈与を受けた場合
まず基礎控除110万円を差し引くと500万円。次に特別控除2,500万円の枠から500万円を使うため、その年の贈与税はゼロです。残る特別控除の枠は2,000万円になります。相続時に父の相続財産へ加算されるのは、基礎控除を引いた後の500万円のみで、110万円分は加算されません。翌年以降も同じ要領で、毎年110万円までは持ち戻しなしで移転を続けられます。
中小企業の経営者・後継者への実務影響
110万円基礎控除の新設は、単なる節税枠の追加にとどまりません。中小企業の事業承継、とりわけ自社株や事業用不動産の世代間移転を考える経営者にとって、選択肢の重みが大きく変わりました。
自社株の計画的な移転がしやすくなる
後継者へ自社株を渡す場面では、株価が低いタイミングでまとめて移転できるかが鍵になります。相続時精算課税なら、累計2,500万円までは贈与税ゼロで一括移転でき、超過分も一律20%で済みます。さらに年110万円の基礎控除を併用すれば、移転後も毎年少しずつ持ち戻し不要の贈与を重ねられます。業績が一時的に落ちて株価が下がった期や、組織再編で評価が低くなった期は、精算課税による自社株移転の好機といえます。
たとえば、現在の評価額が2,000万円で将来の成長が見込まれる自社株を後継者へ贈与する場合を考えます。相続時精算課税を選べば、特別控除2,500万円の範囲内なので贈与税はかかりません。その後に会社が成長して株価が5,000万円に上がっても、相続時に持ち戻される価額は贈与時の2,000万円で固定されます。値上がり分の3,000万円には相続税がかからないため、成長企業の事業承継では大きな効果が期待できます。これが暦年課税にはない、精算課税ならではの「価額固定」のメリットです。
暦年課税の「7年持ち戻し」との対比
2024年改正では、暦年課税の生前贈与加算(相続開始前の贈与を相続財産に足し戻す制度)の対象期間が、従来の3年から7年へと順次延長されました。令和6年1月1日以後の贈与が対象で、相続の時期に応じて段階的に加算期間が広がっていきます。延長された4年間(相続開始前3年超7年以内)の贈与については、総額100万円までは加算しない経過措置がありますが、それを超える部分は相続財産に戻されます。
加算期間の延長は段階的で、相続が令和8年12月31日までに開始する場合は従来どおり3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までの相続は令和6年1月1日から死亡日までの期間、令和13年1月1日以後の相続で完全な7年以内となります。改正の影響がフルに表れるのは数年先ですが、いま行う贈与の選び方は将来の相続税額に直結します。暦年課税で長期の贈与計画を立てていた経営者ほど、精算課税への切り替えを含めて早めに方針を見直す価値があります。
つまり、相続が近いと見込まれる局面では、暦年課税で駆け込み贈与をしても7年分が持ち戻される可能性が高まりました。これに対し、相続時精算課税の年110万円基礎控除は持ち戻しの対象外です。高齢の経営者が短期間で確実に資産を移したい場合、相続時精算課税の相対的な有利さが増したといえます。
注意:値下がりする資産には不向き
相続時精算課税で贈与した財産は、相続時に「贈与した時の価額」で相続財産に加算されます。贈与後に株価や地価が下がっても、高かった贈与時の価額で相続税が計算されるため、値下がりが見込まれる資産の移転には不利です。反対に、将来値上がりが確実視される資産は、低い贈与時価額で固定できるため精算課税が有利に働きます。
複数の贈与者から受ける場合の按分
父と母の双方から贈与を受けるなど、特定贈与者が2人以上いる場合、年110万円の基礎控除はそれぞれに満額使えるわけではありません。110万円を各特定贈与者からの贈与額であん分して計算します。父と母から同額ずつ贈与を受けたなら、それぞれ55万円ずつの基礎控除になるイメージです。「父から110万円、母からも110万円で合計220万円が非課税」と誤解しやすい点なので注意してください。
暦年課税との比較表
相続時精算課税と暦年課税は、どちらか一方を特定贈与者ごとに選びます。主な違いを整理すると次のとおりです。
| 比較項目 | 相続時精算課税 | 暦年課税 |
|---|---|---|
| 毎年の非課税枠 | 年110万円の基礎控除(2024年新設) | 年110万円の基礎控除 |
| まとまった非課税枠 | 累計2,500万円の特別控除 | なし |
| 税率 | 特別控除超過分に一律20% | 10〜55%の累進税率 |
| 相続時の持ち戻し | 基礎控除110万円分を除き全額(贈与時の価額) | 相続開始前3〜7年分(経過措置あり) |
| 適用対象 | 60歳以上の父母・祖父母→18歳以上の子・孫 | 制限なし(誰から誰への贈与でも可) |
| 変更の可否 | 一度選ぶと暦年課税に戻せない | いつでも精算課税へ切替可 |
ざっくりした選び方の目安
時間をかけて少しずつ移転でき、相続まで年数の余裕があるなら暦年課税。短期間でまとまった資産を確実に移したい、または将来値上がりが見込まれる自社株などを移転したいなら相続時精算課税が向きます。最終的には資産の種類・金額・相続までの想定年数で試算して判断するのが確実です。
当事務所の見解・実務上の注意点
110万円基礎控除の新設で相続時精算課税は確かに使いやすくなりましたが、「とりあえず選んでおけば得」という制度ではありません。当事務所が相談を受ける中で、特に注意を促しているポイントを3つに絞って解説します。
小規模宅地等の特例が使えなくなる土地に注意
相続時精算課税で贈与した宅地には、相続時に小規模宅地等の特例(居住用や事業用の宅地を最大80%減額できる制度)を適用できません。自宅敷地や事業用地を精算課税で生前贈与してしまうと、相続のときに本来使えたはずの大きな評価減を失うことがあります。土地、とりわけ特例の対象になりうる宅地は、安易に精算課税の対象にしないことが鉄則です。
不可逆性を踏まえた「出口」の設計
相続時精算課税は、選んだ特定贈与者からの贈与について暦年課税へ戻せません。たとえば父からの贈与で精算課税を選ぶと、その後に父から受ける贈与はすべて精算課税になります。一方、母からの贈与は別途、暦年課税のまま続けることも可能です。誰からの贈与にどちらの課税方式を割り当てるかを、家族全体の資産構成と相続の見通しを踏まえて設計することが重要です。
年110万円以内でも記録は必ず残す
年110万円以内の贈与は申告不要ですが、「いつ・誰が・いくら贈与したか」を客観的に示せる記録は必ず残してください。贈与契約書の作成、銀行振込による資金移動、受贈者本人が管理する口座の使用など、名義預金と疑われない形を整えることが、将来の税務調査で生前贈与を否認されないための備えになります。
事業承継税制との使い分けも検討する
自社株の世代間移転には、贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「事業承継税制(特例措置)」という選択肢もあります。納税負担を大きく抑えられる一方、後継者が一定期間株式を保有し続けるなどの要件があり、要件を外れると猶予された税額に利子税を加えて納める必要があります。相続時精算課税はシンプルで使いやすい反面、株価上昇分の固定はできても納税自体は免除されません。どちらが自社に合うかは、株価水準・後継者の状況・将来の経営計画によって変わります。自社株の移転を本格的に検討する段階では、両制度を並べて比較することをおすすめします。
今すぐやるべきこと(チェックリスト)
相続時精算課税を検討するなら、次のステップで進めると判断を誤りにくくなります。勢いで贈与を実行してしまうと、不可逆な選択や特例の喪失といった取り返しのつかない結果を招きかねません。順を追って確認していきましょう。
- ステップ1:移転したい財産を洗い出す
自社株、現預金、不動産など、誰に何を渡したいかをリスト化します。資産の種類によって精算課税の向き不向きが分かれるため、まずは対象を具体化します。 - ステップ2:暦年課税との有利・不利を試算する
移転したい金額と相続までの想定年数をもとに、精算課税と暦年課税の両方で税負担をシミュレーションします。短期・大口なら精算課税、長期・小口なら暦年課税が有利になりやすい傾向です。 - ステップ3:値下がりリスクと特例の喪失を確認する
移転候補に値下がりが見込まれる資産や、小規模宅地等の特例を使えるはずの宅地が含まれていないかを点検します。該当する場合は精算課税の対象から外すことを検討します。 - ステップ4:選択届出書の期限を押さえる
相続時精算課税選択届出書は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書とあわせて提出します。期限を過ぎると選択できません。 - ステップ5:贈与の証跡を整える
贈与契約書の作成と銀行振込による履歴を残し、年110万円以内でも記録を保管します。専門家に一度判断を仰いだうえで実行に移すと安心です。
よくある質問(FAQ)
- Q. 相続時精算課税の110万円基礎控除は、毎年使えますか?
- A. はい、毎年使えます。2024年1月1日以後の贈与について、特定贈与者からの贈与額のうち年110万円までが基礎控除となり、贈与税はかからず申告も不要です。累計2,500万円の特別控除とは別枠で、毎年110万円以内なら特別控除の残額も減りません。
- Q. 年110万円以内の贈与なら、相続税でも一切加算されませんか?
- A. はい。相続時に加算するのは贈与額から基礎控除110万円を差し引いた残額です。したがって毎年110万円以内の贈与は相続財産に持ち戻されず、相続税の対象にもなりません。暦年課税の生前贈与加算と異なり、持ち戻しを気にせず使えるのが利点です。
- Q. 一度相続時精算課税を選ぶと、暦年課税には戻せないのですか?
- A. 戻せません。選択届出書を出した特定贈与者からの贈与は、以後すべて相続時精算課税が適用されます。ただし選択は贈与者ごとに行うため、父からの贈与は精算課税、母からの贈与は暦年課税というように分けて適用することは可能です。
- Q. 父と母の両方から贈与を受けると、110万円の控除は2人分使えますか?
- A. 使えません。特定贈与者が2人以上いる場合、年110万円の基礎控除はそれぞれの贈与額であん分します。父と母から同額の贈与を受けたなら、控除はそれぞれ55万円ずつとなり、合計でも110万円が上限です。
- Q. 自社株の贈与に相続時精算課税を使うメリットは何ですか?
- A. 株価が低いタイミングで累計2,500万円まで贈与税ゼロで一括移転でき、超過分も一律20%で済む点です。将来値上がりが見込まれる自社株なら、低い贈与時の価額で相続財産を固定できます。事業承継税制との比較も含め、専門家の試算を受けて判断することをおすすめします。
- Q. 相続時精算課税を選んだ後でも、年110万円以内なら贈与税の申告は不要ですか?
- A. はい。2024年1月1日以後の贈与では、その年に特定贈与者から受けた贈与額が基礎控除110万円以下であれば、贈与税の申告は不要です。ただし基礎控除を超える贈与をした年は、超えた部分について贈与税の申告が必要になります。なお、最初に制度を選ぶ年は、贈与額にかかわらず選択届出書の提出が必須です。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
- 国税庁タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税の生前贈与加算)
- 国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
本記事は道濟会計事務所が監修しました。