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相続時精算課税2026|年110万円非課税と暦年課税の選択を解説
この記事の要点3点
- 令和6年(2024年)から相続時精算課税に「年110万円の基礎控除」が新設され、毎年110万円までは贈与税がかからず、相続財産にも加算されなくなりました。
- 一方の暦年課税では、亡くなる前の贈与を相続財産に加算する期間が3年から7年へと段階的に延長され、生前贈与のルールが大きく変わりました。
- 相続時精算課税は一度選ぶと暦年課税に戻れないため、どちらが有利かを事前にシミュレーションしたうえで、早めに生前対策を始めることが重要です。
「子や孫に生前のうちに財産を渡したいが、贈与税が心配」「相続時精算課税と暦年課税、どちらを選べばよいのか分からない」——相続・贈与のご相談で必ずといってよいほど出てくる悩みです。令和6年の改正で、この2つの制度は大きく姿を変えました。相続時精算課税には毎年使える110万円の非課税枠が新設され、暦年課税では相続財産への加算期間が7年へと延びました。改正の方向性は正反対で、いま何を選ぶかによって将来の相続税額が変わります。本記事では、2026年時点の制度内容と両者の違い、選択時の注意点を税理士が整理します。
相続時精算課税と暦年課税の概要・令和6年改正
贈与税の課税方法には、暦年課税と相続時精算課税の2つがあります。どちらを使うかは受贈者(財産をもらう人)が贈与者ごとに選択します。まずはそれぞれの基本を押さえましょう。
相続時精算課税の基本
相続時精算課税は、贈与時にまとまった財産を移し、相続時に精算する制度です。累計2,500万円までの特別控除があり、これを超えた部分には一律20%の贈与税がかかります。贈与者が亡くなったときには、この制度で贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算し、すでに納めた贈与税があれば精算します。対象者にも要件があり、贈与者は「贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母など」、受贈者は「贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫」に限られます。利用するには「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。
令和6年改正の目玉——年110万円の基礎控除
令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されました。これにより、相続時精算課税を選んでいても、毎年110万円までは贈与税がかからず、しかもその部分は相続財産に加算されないという大きなメリットが生まれました。従来の相続時精算課税は「贈与した財産がすべて相続財産に足し戻される」ため使いにくい面がありましたが、この改正で毎年コツコツ非課税で渡せる制度へと生まれ変わりました。年110万円以内の贈与であれば、原則として贈与税の申告も不要です。
暦年課税の改正——生前贈与加算が7年へ
もう一方の暦年課税は、年110万円の基礎控除の範囲で毎年贈与できる従来からの方法です。ただし令和6年改正で、相続開始前の一定期間の贈与を相続財産に加算する「生前贈与加算」の期間が、相続開始前3年以内から7年以内へ延長されました。延長された期間(従来の3年より前の4年間)の贈与については、その合計額から総額100万円までは相続財産に加算されません。なお、加算期間がフルに7年となるのは令和13年1月1日以後の相続からで、それまでは経過措置により段階的に延びていきます。具体的には、令和9年1月1日から令和12年12月31日までの間に相続が発生した場合は、令和6年1月1日から死亡の日までの贈与が加算対象となり、その間に100万円の控除が適用されます。
2,500万円の特別控除はどんな場面で活きるか
相続時精算課税の累計2,500万円の特別控除は、年110万円の基礎控除とあわせて使えます。まとまった財産を一度に移したいときや、これから値上がりが見込まれる資産(自社株式や収益不動産など)を早めに移したいときに効果を発揮します。相続時に加算される評価額は「贈与時の価額」で固定されるため、将来値上がりする資産を低い評価額のうちに移せば、値上がり分に相続税がかからずに済む可能性があります。一方、値下がりする可能性のある資産では、かえって不利になることもあるため、対象資産の見極めが重要です。
ポイント:改正の方向は正反対です。相続時精算課税は「毎年110万円が非課税かつ持ち戻し不要」で有利になり、暦年課税は「加算期間が7年に延び」やや不利になりました。相続対策の設計思想が根本から変わっています。
生前贈与への実務影響とどちらを選ぶか
今回の改正は、生前贈与の実務に大きな影響を与えます。ポイントを具体的に見ていきましょう。
相続時精算課税が「使える制度」になった
最大の変化は、相続時精算課税の年110万円基礎控除です。たとえば毎年110万円を子へ贈与し続ければ、贈与税は非課税で、その分は相続財産にも加算されません。暦年課税の110万円贈与が「相続前7年分は加算される」のに対し、相続時精算課税の110万円は「加算されない」ため、相続開始が近い高齢の方ほど相続時精算課税が有利に働く場面が増えました。ただし110万円を超える部分は特別控除(累計2,500万円)を使いつつ、超過後の贈与は相続財産に加算される点は従来どおりです。
暦年課税は「早く・長く」が鍵に
暦年課税は加算期間が7年へ延びたため、亡くなる直前の駆け込み贈与の効果は薄れました。裏を返せば、健康なうちから早く長く続けるほど、加算対象から外れる贈与を積み上げられます。相続まで十分な年数が見込める若い世代への贈与では、依然として暦年課税が有力です。孫(相続で財産を取得しない場合)への贈与は生前贈与加算の対象外となるケースもあり、贈与の相手を工夫する余地もあります。
具体例で見る「加算される・されない」の違い
たとえば、毎年110万円ずつ子へ10年間贈与するケースを考えます。相続時精算課税を選んでいれば、110万円は毎年の基礎控除の範囲内なので贈与税はかからず、しかもその部分は相続財産に加算されません。10年で1,100万円を、贈与税・相続税ともにかけずに移せる計算です。一方、暦年課税でも各年110万円は基礎控除内で贈与税はかかりませんが、相続開始前7年以内(経過措置期間中はそれより短い期間)の贈与は相続財産に加算されます。相続が近い高齢の方ほど、この加算の影響で相続時精算課税との差が開きやすいのです。ただし、相続まで長い年数が見込めるなら、暦年課税でも加算対象から外れる贈与を積み上げられるため、一概にどちらが有利とは言えません。判断のおおまかな目安としては、高齢で相続開始が比較的近いと見込まれる場合は相続時精算課税の年110万円枠が、まだ若く相続まで十分な年数が期待できる場合は暦年課税の計画的な贈与が、それぞれ有利に働きやすいといえます。とはいえ最終的な有利・不利は財産構成や相続人の数で変わるため、必ず個別に試算することが大切です。
年110万円以内なら申告も不要
相続時精算課税の年110万円の基礎控除の範囲内であれば、贈与税の申告も原則として不要です。従来の相続時精算課税は、少額の贈与でも毎年申告が必要で手間がかかりましたが、改正後は110万円以内なら申告不要となり、実務上の負担が大きく軽くなりました。ただし、初めて相続時精算課税を選ぶ年には、金額にかかわらず「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。この最初の届出を忘れると制度自体を使えないため、初年度の手続きだけは確実に行いましょう。
どちらを選ぶかの比較
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 毎年の非課税枠 | 年110万円(基礎控除) | 年110万円(令和6年新設の基礎控除) |
| 相続財産への加算 | 相続開始前7年以内の贈与を加算(経過措置あり) | 110万円基礎控除分は加算不要、超過分は加算 |
| まとまった贈与 | 高額だと累進で税率が上がる | 累計2,500万円まで特別控除、超過は一律20% |
| 制度の変更 | 相続時精算課税へ切替可能 | 一度選ぶと暦年課税に戻れない |
重要:相続時精算課税は「相続時精算課税選択届出書」を提出して一度選択すると、その贈与者からの贈与については以後すべて相続時精算課税が適用され、暦年課税へ戻すことはできません。選択は慎重に判断してください。
当事務所の見解・実務上の注意点
「精算課税は損」という古い常識は捨てる
かつて相続時精算課税は「贈与財産が全額相続財産に足し戻されるだけで、節税にならない」と敬遠されてきました。実際、改正前は年間の非課税枠がなく、いくら少額でも贈与のたびに申告が必要で、しかも贈与した財産はそのまま相続財産に加算される仕組みでした。しかし年110万円の基礎控除が新設された今、その評価は根本から変わりました。特に相続開始までの年数が読みにくい高齢の方にとって、毎年非課税で確実に財産を移せる相続時精算課税は、有力な選択肢です。当事務所では、年齢・財産規模・相続までの見込み年数を踏まえ、両制度を横並びで比較したうえで提案しています。とりわけ、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を上回り相続税が見込まれる家庭では、毎年の非課税枠を長く使えるかどうかが、最終的な相続税額を大きく左右します。
選択は不可逆——必ずシミュレーションを
相続時精算課税は一度選ぶと元に戻せません。将来値上がりが見込まれる資産(自社株や収益不動産など)を早めに移すには有効な一方、選択後は暦年課税の年110万円贈与が使えなくなります。どちらが有利かは財産構成や家族構成で変わるため、選択前に相続税額まで試算することが欠かせません。届出書の提出期限(贈与を受けた年の翌年の申告期限)を過ぎると選択できない点にも注意が必要です。特に自社株の承継では、株価が低いタイミングを狙って精算課税で一気に移すことで、将来の株価上昇分に相続税がかからないよう設計できます。ただし業績が悪化して株価が下がった場合は不利になり得るため、事業の見通しとあわせた判断が求められます。加えて、非上場株式の承継には事業承継税制など別の特例が使える場合もあり、相続時精算課税との組み合わせを含めて総合的に検討する価値があります。
早期着手が最大の対策
暦年課税の加算期間が7年に延びたことで、生前対策は「早く始めた人ほど有利」という性格が強まりました。相続はいつ発生するか分かりません。健康で判断能力があるうちに、贈与契約書の作成や資金移動の記録など、形式面もきちんと整えて計画的に進めることが、後の税務調査での否認リスクを避けるうえでも重要です。認知判断能力が低下してからでは贈与そのものが難しくなり、選択肢が一気に狭まります。「まだ早い」と先延ばしにせず、元気なうちに家族で方針を話し合っておくことを強くおすすめします。
今すぐやるべきこと(生前贈与の進め方)
これから生前贈与や制度選択を考える方に向けて、実務の手順を整理します。
- ステップ1:財産と家族の状況を棚卸しする
誰に、どの財産を、いつ渡したいかを整理します。将来値上がりしそうな資産や、収益を生む資産があるかも確認しましょう。あわせて、相続財産の総額が基礎控除を上回り相続税が見込まれるかどうかを把握しておくと、対策の必要性が明確になります。 - ステップ2:暦年課税と相続時精算課税を比較する
相続までの見込み年数や財産規模を踏まえ、どちらが有利かを試算します。年齢が高く相続が近い場合は精算課税、まだ若く年数を確保できる場合は暦年課税が有利になりやすい傾向があります。判断が難しいため、税理士による相続税シミュレーションが有効です。 - ステップ3:制度を選び、必要な届出を行う
相続時精算課税を選ぶ場合は、贈与を受けた年の翌年の申告期限(原則として翌年3月15日)までに「相続時精算課税選択届出書」を贈与税申告とあわせて提出します。この初年度の届出を忘れると制度を使えません。 - ステップ4:贈与の証拠を残す
贈与契約書を作成し、銀行振込など記録の残る方法で資金を移します。名義預金と疑われないよう、受贈者本人が口座を管理し、通帳や印鑑も受贈者が保管することが大切です。未成年の孫へ贈与する場合は、親権者が管理しつつも贈与の意思が明確に残る形にしておきましょう。 - ステップ5:毎年見直し、記録を保管する
非課税枠の使い方や申告の要否を毎年確認し、贈与契約書や振込記録などの証明書類を保管します。家族構成や財産状況の変化、制度改正の動向もあわせてチェックしましょう。
ポイント:生前贈与は「毎年・少額・長期」で積み上げるほど効果が高まります。相続時精算課税を選ぶ場合は初年度の届出を忘れず、暦年課税を続ける場合は加算期間を意識して早めに着手することが鍵です。どちらが有利かは相続税額を試算してみないと分からないケースが大半のため、判断に迷ったら早い段階で税理士へご相談ください。
よくある質問(FAQ)
- Q. 相続時精算課税の年110万円は、毎年使えるのですか?
- A. はい。令和6年1月1日以後の贈与について、相続時精算課税を選んでいても毎年110万円までの基礎控除が使えます。この範囲内の贈与は贈与税がかからず、相続時に相続財産へ加算する必要もありません。年110万円以内であれば原則として贈与税の申告も不要です。従来の相続時精算課税にはなかった大きなメリットで、毎年コツコツ非課税で財産を移せるようになりました。
- Q. 暦年課税と相続時精算課税は併用できますか?
- A. 同じ贈与者からの贈与については、どちらか一方しか選べません。一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与は以後すべて相続時精算課税が適用され、暦年課税には戻せません。ただし、父からは相続時精算課税、母からは暦年課税というように、贈与者ごとに使い分けることは可能です。誰からどの制度で受けるかを事前に設計することが重要です。
- Q. 生前贈与加算が7年になると、暦年贈与は意味がなくなりますか?
- A. そうとは限りません。加算されるのは相続開始前の一定期間の贈与だけで、それより前の贈与は加算対象外です。健康なうちから早く長く続けるほど、加算されない贈与を積み上げられます。また、相続で財産を取得しない孫などへの贈与は加算対象外となる場合もあります。相続まで年数が見込める場合は、暦年課税による計画的な贈与が依然として有効です。
- Q. 相続時精算課税を選ぶと、必ず得になりますか?
- A. 一概には言えません。年110万円の基礎控除分は有利ですが、それを超える贈与は特別控除を使いつつ相続財産に加算されるため、相続税の総額次第では暦年課税のほうが有利なケースもあります。値上がりが見込まれる資産を早く移したい場合は精算課税が向く一方、選択は不可逆です。財産構成に応じて相続税額まで試算し、慎重に判断してください。
- Q. どのくらい前から生前贈与を始めればよいですか?
- A. 早ければ早いほど有利です。暦年課税の加算期間が7年に延びたため、相続直前の贈与は効果が薄くなりました。逆に、相続まで十分な年数があれば、加算対象から外れる贈与を多く積み上げられます。相続時精算課税の年110万円枠も、使える年数が長いほど累計の非課税額が増えます。健康で判断能力があるうちに計画的に始めることをおすすめします。
- Q. 贈与するときに気をつけることはありますか?
- A. 贈与の事実を客観的に残すことが重要です。贈与契約書を作成し、銀行振込など記録の残る方法で行い、もらった側が自分で口座を管理しましょう。親が管理したままだと「名義預金」とみなされ、贈与が否認されて相続財産に含められるおそれがあります。毎年同じ時期に同じ額を贈与し続ける「定期贈与」と認定されないよう、贈与のたびに契約書を作成するといった工夫も有効です。形式を整えておくことが、後の税務調査での否認リスクを避けるうえで欠かせません。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.4103「相続時精算課税の選択」
- 国税庁 タックスアンサー No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税の生前贈与加算)」
- 国税庁 タックスアンサー No.4402「贈与税がかかる場合」
本記事は道濟会計事務所が監修しました。