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賃上げ促進税制 中小企業の繰越控除5年活用ガイド【2026年版】
この記事の要点
- 制度の核:中小企業向け賃上げ促進税制(令和6年度改正版)は令和6年4月1日〜令和9年3月31日開始事業年度に適用。給与1.5%増で控除率15%、要件を全て満たせば最大45%の税額控除が可能。
- 令和6年度改正の目玉:控除しきれなかった税額控除限度超過額を5年間繰り越せる繰越控除制度を新設。赤字や法人税額20%上限に達した年度の中小企業も、翌年以降に控除を取り戻せます。
- 2026年5月時点でやるべきこと:①給与等支給額の対前期比を試算、②教育訓練費・くるみん/えるぼしの上乗せ要件を点検、③法人税申告書に明細書を必ず添付、④3月決算法人は5月末申告で要適用。
目次
令和6年度税制改正で大幅に拡充された「中小企業者等における賃上げ促進税制」は、雇用者給与等支給額を増やした中小企業に最大45%もの法人税額控除を認める強力な制度です。注目すべきは、控除しきれなかった金額を翌年以降5年間繰り越せる繰越控除制度の新設。これにより、赤字や法人税額が少ない年でも将来の黒字化時に控除を取り戻せるようになりました。本記事では、3月決算法人の申告期限(5月末)を控えたこの時期に、税理士が「賃上げ促進税制 中小企業 繰越控除」を最大限に活用するための制度概要、計算方法、上乗せ要件、申告書類、実務上の落とし穴まで2026年版として徹底解説します。
賃上げ促進税制 中小企業向け制度の全体像
1-1. 制度の根拠条文と適用期間
中小企業向け賃上げ促進税制は、租税特別措置法第42条の12の5第2項に規定されており、国税庁タックスアンサーNo.5927-2に公式解説があります。平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が現行制度の適用対象で、令和6年度税制改正で控除率の引き上げ、上乗せ要件の見直し、繰越控除制度の新設という大きな改正が行われました。
1-2. 「中小企業者等」の定義
本制度における中小企業者等とは、以下のいずれかに該当する青色申告法人を指します。
- 資本金または出資金が1億円以下の法人(一定の大規模法人による出資制限あり)
- 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下のもの
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主(所得税)
- 協同組合等
ただし、令和6年度改正で「過去3年間の所得平均が15億円超の中小企業者」(適用除外事業者)は対象から外れました。実質的に大企業並みの規模に成長した法人を中小企業税制から除外する措置で、適用判定の前提条件として重要です。
1-3. 通常要件:給与等支給額1.5%以上の増加で控除率15%
適用には、「雇用者給与等支給額」が前事業年度に比べて1.5%以上増加していることが必要です。計算式は次のとおりです。
通常要件の判定式
(当期の雇用者給与等支給額 − 前期の雇用者給与等支給額)÷ 前期の雇用者給与等支給額 ≧ 1.5%
(当期の雇用者給与等支給額 − 前期の雇用者給与等支給額)÷ 前期の雇用者給与等支給額 ≧ 1.5%
この通常要件を満たすと、雇用者給与等支給額の前期比増加額の15%を法人税額から控除できます。
中小企業への実務影響と繰越控除の革新性
2-1. 令和6年度改正で新設された「5年間の繰越控除」
令和6年度改正の最大の目玉は、繰越税額控除限度超過額の5年間繰越制度の新設です。従来は、税額控除限度額が「調整前法人税額の20%」を超えて控除しきれない部分や、赤字で当期の法人税額がない場合は、その時点で控除権が失われていました。改正後は、控除しきれなかった金額を5年間繰り越し、将来の黒字事業年度で控除できるようになっています。
繰越控除が画期的な理由
創業期や成長投資中の中小企業は、人材確保のため積極的に賃上げをしても法人税額が少なく、これまで制度のメリットを十分に享受できませんでした。繰越控除の新設により、「賃上げした年は赤字でも、3年後に黒字化したら過去の控除を使える」という設計が可能になり、賃上げのインセンティブが本質的に強化されました。
創業期や成長投資中の中小企業は、人材確保のため積極的に賃上げをしても法人税額が少なく、これまで制度のメリットを十分に享受できませんでした。繰越控除の新設により、「賃上げした年は赤字でも、3年後に黒字化したら過去の控除を使える」という設計が可能になり、賃上げのインセンティブが本質的に強化されました。
2-2. 繰越控除を受けるための要件
繰越控除の適用には、次の2つの手続要件が必須です。
- 繰越年度における給与増加要件
繰越税額控除を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていること(つまり、その年も給与総額が前期より増加していること)。 - 明細書の継続添付要件
超過額が生じた事業年度以後、繰越控除の適用を受けない事業年度も含めて毎期、確定申告書に「繰越税額控除限度超過額の明細書」を添付して申告すること。
注意:明細書の添付を1期でも忘れると繰越権利が消滅します。「今年は繰越控除を使う予定がないから明細書を出さなくていい」というのは誤解です。超過額の発生年度から控除年度まで、毎期連続して明細書を添付し続ける必要があります。
2-3. 中小企業の戦略的活用シーン
中小企業が繰越控除を戦略的に活用できる典型シーンは以下のとおりです。
- 赤字決算年に賃上げを実施:当期の法人税はゼロでも、黒字化した翌期以降に控除を取り戻せる
- 設備投資と賃上げが重なる年:減価償却が大きく法人税額が少ないとき、賃上げ控除を繰り越して将来に活用
- 研究開発税制と併用する年:他の税額控除と組み合わせて20%上限に達した分を繰り越し
控除率の計算と上乗せ要件(比較表)
3-1. 通常控除率+3種類の上乗せ要件
令和6年度改正後の中小企業向け賃上げ促進税制の控除率は、通常控除15%に最大3種類の上乗せを加えて最大45%となります。
| 区分 | 要件 | 控除率 |
|---|---|---|
| 通常要件 | 雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増 | 15% |
| 上乗せ① | 雇用者給与等支給額が前期比2.5%以上増 | +15% |
| 上乗せ② | 教育訓練費が前期比5%以上増、かつ給与等支給額の0.05%以上 | +10% |
| 上乗せ③ | くるみん認定、えるぼし認定等の取得(女性活躍推進・子育てサポート) | +5% |
| すべて達成時 | 最大控除率 | 45% |
3-2. 控除上限:調整前法人税額の20%
計算した税額控除額は、その事業年度の調整前法人税額の20%を上限として控除します。20%を超える部分は当期は控除できませんが、令和6年度改正による繰越制度により5年間の繰越が可能です。
3-3. 具体的な計算例
【ケースA:通常要件のみ達成】従業員10名、当期給与総額4,000万円、前期3,900万円
- 給与増加額:4,000万円 − 3,900万円 = 100万円
- 増加率:100万円 ÷ 3,900万円 ≒ 2.56%(1.5%以上 → 通常要件◯、2.5%以上 → 上乗せ①も◯)
- 控除率:15% + 15% = 30%
- 税額控除額:100万円 × 30% = 30万円
- 当期法人税額200万円なら控除上限は40万円 → 30万円全額控除可能
【ケースB:教育訓練費+くるみん認定も達成】当期給与増加額200万円、教育訓練費前期比10%増(給与の0.1%)、くるみん認定取得済み
- 控除率:15%(通常) + 15%(給与2.5%増) + 10%(教育訓練費) + 5%(くるみん) = 45%
- 税額控除額:200万円 × 45% = 90万円
- 当期法人税額300万円なら控除上限は60万円 → 60万円控除+30万円を繰越
3-4. 控除対象となる「雇用者給与等支給額」の範囲
計算の基礎となる雇用者給与等支給額は、国内の雇用者(役員や役員の特殊関係者を除く)に対して支給した給与等で、損金算入されたものを指します。実務上の注意点は以下のとおりです。
- 雇用調整助成金等の控除:給与の支給を補填する助成金を受けている場合、その金額は給与等支給額から控除する
- 出向受入給与の取扱い:出向先で負担する給与は、給与負担金の支払者側で集計する
- 役員の親族:役員の特殊関係者(配偶者・親族など)に対する給与は除外
- 退職給与・通勤手当等:賃金台帳に記載される給与所得課税の対象部分が原則として算入対象
当事務所の見解・実務上の注意点
4-1. 「申告漏れ」が最も多い落とし穴
当事務所が中小企業の決算をサポートする中で、賃上げ促進税制の適用漏れは決して珍しくありません。理由は主に次のとおりです。
- 給与システムと法人税申告書の連携が手作業で、増加率の試算自体を見落としている
- 「うちは賃上げしていない」という思い込みで、実際は定期昇給で1.5%以上増加していたケースを見逃す
- 教育訓練費の集計が雑で、上乗せ要件を満たしていても証憑が揃わず適用断念
賃上げ促進税制は「適用すべきだったのに忘れた」場合、原則として更正の請求では取り戻せません(適用には確定申告書での明細書添付が必須)。決算前に必ず試算することを強くおすすめします。
4-2. 教育訓練費の集計方法
教育訓練費の上乗せ要件は、研修費や外部講師謝礼、e-learning利用料などが対象です。社内で内製化した研修については、講師となった従業員の給与は原則対象外(教育訓練の目的で給与を区分管理していない限り)です。研修費用を別勘定で管理し、領収書・カリキュラム・受講者名簿を保存しておくことが税務調査対応の鉄則です。
4-3. くるみん・えるぼし認定の取得は計画的に
くるみん認定(厚生労働省、子育てサポート企業)、えるぼし認定(同、女性活躍推進企業)は、申請から取得まで通常3〜6ヶ月かかります。決算間際に「+5%控除がほしい」と思っても間に合いません。事業年度開始時から認定を視野に入れ、行動計画の策定・実施・申請を計画的に進める必要があります。社労士と税理士の連携が効果的です。
4-4. 繰越控除で見落としがちな「明細書添付の連続性」
前述のとおり、繰越控除を受けるには超過額が発生した事業年度以後、毎期連続して明細書を添付する必要があります。決算期に税理士が交代した、システムを変えた、といった事情で明細書添付が漏れると、せっかく発生した繰越控除権利が消滅します。引継書類への明記と申告チェックリストでの確認を徹底してください。
4-5. 競合差別化:他税制との併用判断
賃上げ促進税制は、研究開発税制(試験研究費の特別控除)、所得拡大促進税制の旧版(経過措置)、地方拠点強化税制、雇用促進税制などと一部排他の関係があります。当事務所では、各税制のシミュレーションを行い、御社にとって最も有利な選択を支援しています。
今すぐやるべきこと(チェックリスト)
- ステップ1:給与等支給額の対前期比を試算
当期と前期の雇用者給与等支給額を集計し、増加率を計算。1.5%以上で通常要件、2.5%以上で上乗せ①が適用可能。 - ステップ2:教育訓練費の年間集計
研修費、外部講師謝礼、e-learning利用料、書籍購入費等を集計し、給与の0.05%以上+前期比5%以上増を確認する。 - ステップ3:くるみん・えるぼし認定の有無を確認
認定を取得している場合は厚労省の認定通知書を準備。未取得なら次年度以降の取得を計画化。 - ステップ4:適用除外事業者の判定
過去3年の所得平均が15億円超でないかを確認。該当する場合は中小企業向け制度は適用不可で、別途中堅企業向け制度の検討が必要。 - ステップ5:法人税申告書への明細書添付
別表六(二十四)「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」と付表を作成し、確定申告書に必ず添付する。 - ステップ6:繰越控除のための翌期以降の準備
当期で控除しきれない部分が発生した場合、「繰越税額控除限度超過額の明細書」を作成し、5年間毎期添付する仕組みを構築。
よくある質問
- Q. 賃上げ促進税制の繰越控除は何年間繰り越せますか?
- A. 令和6年度改正で新設された繰越控除制度では、控除しきれなかった税額控除限度超過額を5年間繰り越しできます。中小企業者等の青色申告法人が対象で、繰越年度において給与等支給額が前期比で増加していることと、毎期確定申告書に明細書を添付し続けることが要件です。
- Q. 賃上げ促進税制で中小企業の控除率は最大何%ですか?
- A. 通常要件15%+給与2.5%増の上乗せ15%+教育訓練費要件10%+くるみん/えるぼし認定5%を全て満たすと、最大45%の税額控除が可能です。控除額は雇用者給与等支給額の前期比増加額に各控除率を掛けて算出し、その合計額が調整前法人税額の20%を上限として控除されます。
- Q. 赤字でも賃上げ促進税制は使えますか?
- A. 当期が赤字で法人税額がゼロの場合、当期に控除はできませんが、令和6年度改正の繰越控除制度を使えば翌期以降5年間で控除可能です。ただし、超過額発生年度の確定申告書から毎期連続して「繰越税額控除限度超過額の明細書」を添付する必要があります。1期でも漏れると権利が消滅するので注意してください。
- Q. 教育訓練費の上乗せ要件はどう判定しますか?
- A. ①教育訓練費が前事業年度比で5%以上増加、かつ②当期の教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上、という2つの要件を「両方」満たす必要があります。両要件を満たすと控除率が10%上乗せされます。研修費・外部講師謝礼・e-learning利用料などが対象で、領収書とカリキュラムの保存が必須です。
- Q. 賃上げ促進税制の適用期間はいつまでですか?
- A. 中小企業向け制度は令和9年(2027年)3月31日までに開始する事業年度まで適用可能です。例えば3月決算法人なら令和8年度(2026年4月開始)と令和9年度(2027年3月開始までの事業年度)が現行制度の対象期間となります。なお、令和8年度税制改正大綱では中堅企業向けの一部見直し等が検討されています。
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参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5927-2:給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)
- 中小企業庁:中小企業向け「賃上げ促進税制」
- 中小企業庁:中小企業向け賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック
- 中小企業庁:賃上げ促進税制パンフレット(令和6年度改正版)
- 経済産業省ミラサポplus:中小企業庁担当者に聞く賃上げ促進税制
本記事は道濟会計事務所が監修しました。