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価格交渉促進月間2026|9月の価格転嫁と取適法の5つの実務

価格交渉促進月間2026と取適法の実務対応を解説する記事のアイキャッチ画像
SUMMARYこの記事の要点3点
  • 1ポイント1:2026年9月は中小企業庁が設定する「価格交渉促進月間」です。価格改定が4月と10月に集中するため、その前月である3月と9月が交渉の山場に設定されています。
  • 2ポイント2:直近(2026年3月)のフォローアップ調査では、価格転嫁率は54.2%。コスト要素別では労務費が50.0%と最も低く、賃上げ分が最も転嫁しづらい状況が続いています。
  • 3ポイント3:令和8年1月1日に下請法は「取適法(中小受託取引適正化法)」へ。協議に応じない一方的な代金決定が禁止されたため、受注側は「協議を求めた記録」を残して9月に臨むべきです。

毎年9月は、中小企業庁が設定する「価格交渉促進月間」です。原材料費や電気代、そして人件費が上がり続けるなかで、その上昇分を取引価格に反映できているかどうかは、中小企業の利益をそのまま左右します。そして2026年の9月は、例年と決定的に違う点があります。令和8年1月1日に下請法が「取適法(中小受託取引適正化法)」へと生まれ変わり、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」が新たに設けられてから、初めて迎える9月の月間だという点です。本記事では、中小企業庁が公表した直近の転嫁率データと、施行された取適法の条文にさかのぼって、受注側・発注側それぞれが9月にとるべき実務を整理します。

制度・改正の概要

価格交渉促進月間の制度概要を象徴する、リボンで綴じられた公的資料のイラスト

価格交渉促進月間とは何か

価格交渉促進月間は、中小企業が適切に価格転嫁をしやすい環境をつくるため、2021年9月から中小企業庁が設定している取組です。中小企業庁は「毎年9月と3月」を月間と定めており、この期間に広報や講習会、業界団体を通じた価格転嫁の要請などを実施しています。

なぜ9月と3月なのか。中小企業庁は、価格の改定を半期に一度、4月と10月に行う企業が比較的多いことから、その前月である3月と9月を月間に設定したと説明しています。つまり9月は、10月からの新単価を決める交渉が実際に動く月であり、「月間だから交渉する」のではなく「交渉が起きる月だから月間に指定されている」という順序です。

月間に申請や届出は不要です。価格交渉促進月間は補助金や助成金ではなく、国が交渉を後押しし、その結果を調査・公表する仕組みです。受注側が費用を負担することも、手続を踏むこともありません。

フォローアップ調査と発注者リスト

月間の終了後、中小企業庁は受注側中小企業30万社に対してアンケート調査を行い、主な取引先との価格交渉・価格転嫁・支払条件の状況を集計します。直近の2026年3月月間についての調査は、2026年4月20日から6月3日まで実施され、69,625社が回答しました(回答から抽出される発注側企業数は延べ91,233社)。回答が発注者に知られないよう匿名性が徹底されている点が特徴です。

その結果は2026年6月26日に公表されました。主な数値は次のとおりです。

調査項目2026年3月調査の結果補足
価格交渉が行われた割合90.7%前回から微増
価格転嫁率(全体)54.2%前回から約1ポイント増
原材料費の転嫁率55.7%コスト要素別で最も高い
労務費の転嫁率50.0%賃上げ原資の確保が課題
エネルギーコストの転嫁率48.9%コスト要素別で最も低い
官公需における価格転嫁率48.4%前回から約4ポイント減
支払手段を「現金のみ」とした回答87.5%増加傾向
支払期日が60日を超過している割合6.6%残存

コスト上昇分の全額を転嫁できなかった企業のうち、発注企業から「納得できる説明があった」と回答したのは約6割でした。また、受注企業の取引階層が深くなるほど転嫁の割合が低くなる傾向は続いていますが、1次請けの企業と4次請け以上の企業の転嫁率の差は縮小しています。都道府県別では、上位と下位で価格転嫁率に20%以上の差が生じています。

そして2026年8月4日には、発注者ごとの価格交渉・価格転嫁・支払条件の評価を記載した「発注者リスト」が公表されました。状況の芳しくない発注者に対しては、振興法に基づき事業所管大臣名で指導・助言が行われます。自社の主要取引先がこのリストにどう掲載されているかを見ておくと、9月の交渉の温度感がつかめます。

令和8年1月1日、下請法は取適法になった

「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」は令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。これにより下請法は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)となり、下請中小企業振興法は「受託中小企業振興法」となりました。施行期日は令和8年1月1日で、同日以降に行う製造委託等について適用されます。「下請Gメン」「下請かけこみ寺」の名称も、同日から「取引Gメン」「取引かけこみ寺」に変わっています。

主な改正内容は、特定運送委託の対象取引への追加従業員基準の追加協議に応じない一方的な代金決定の禁止手形払等の禁止事業所管大臣等による指導及び助言に係る規定の整備の5点です。

中小企業への実務影響

価格転嫁の中小企業への実務影響を象徴する、中小の町工場を表したイラスト

自社の取引が取適法の対象かを確かめる

取適法は、①取引当事者の資本金または常時使用する従業員の数と、②取引の内容の両面から適用範囲を定めています。この2つの条件を満たす取引に適用されます。従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。

取引の内容委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
物品の製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラムの作成委託、運送・倉庫保管・情報処理の役務提供委託資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
同上資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
同上(資本金基準が適用されない場合)常時使用する従業員300人超常時使用する従業員300人以下(個人を含む)
上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託資本金5千万円超資本金5千万円以下(個人を含む)
同上資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
同上(資本金基準が適用されない場合)常時使用する従業員100人超常時使用する従業員100人以下(個人を含む)

従業員基準の追加は、資本金を小さく設定している発注側との取引が新たに規制の対象に入りうることを意味します。「相手の資本金が小さいから下請法の対象外」と整理していた取引は、令和8年1月1日以降の発注分から見直しが必要です。

新設された「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」

取適法第5条第2項第4号は、中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合に、中小受託事業者が代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、その協議に応じず、または協議において求められた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、一方的に代金の額を決定することを禁止しています。ここでいう「決定」には、引き上げ・引き下げのほか、据え置くことも含まれます

「費用の変動その他の事情」には、労務費・原材料価格・エネルギーコスト等の高騰のほか、納期の短縮、納入頻度の増加、発注数量の減少といった取引条件の変更、需給状況の変化、発注側から従前の代金の引下げを求められた場合が含まれます。また「協議を求めた」は書面か口頭かを問わず、従来の単価を引き上げて計算した見積書を提示した場合のように、協議を希望する意図が客観的に認められる場合も含まれます。

禁止行為に該当する典型として、中小企業庁と公正取引委員会が示しているのは次のような対応です。

  • ☑ 引上げの協議を求められたのに、拒否・無視・回答の引き延ばしにより協議に応じない
  • ☑ 引上げを求められたのに、合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、それを協議に応じる条件とする
  • ☑ 合理的な理由を示した引上げの求めに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をせずに一部を拒む、または従前の額を提示する
  • ☑ 引下げを要請する場面で、説明を求められたのに具体的な理由や根拠資料を示さず引下げ後の額を提示する

手形払等の禁止と支払期日

支払遅延の禁止(第5条第1項第2号)には、代金の支払について「手形を交付すること」、および「金銭及び手形以外の支払手段であって支払期日までに代金額に相当する金銭と引き換えることが困難であるものを使用すること」が含まれることが明記されました。手形での支払は、期日に現金が入らない以上、支払遅延そのものとして扱われます。

支払期日は、給付を受領した日(役務提供委託・特定運送委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内、かつできる限り短い期間内に定めなければなりません(第3条)。支払期日を定めなかったときは受領日が、60日を超えて定めたときは受領日から起算して60日を経過した日の前日が、それぞれ支払期日とみなされます。支払が遅れた場合、受領後60日を経過した日から支払日までの日数に応じ、未払金額に年率14.6%を乗じた額を遅延利息として支払う義務が発注側に生じます。

振込手数料を代金から差し引く実務は、取適法違反として問題になります。中小受託取引適正化法テキストは、代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させ代金の額から差し引くことは、「当該手数料を中小受託事業者が負担する旨の合意の有無にかかわらず」本法違反として問題となる、としています。契約書に記載していても、また長年の商慣行であっても、結論は変わりません。

同様に、事前に「歩引き5%」と契約書に書いていても代金の減額として問題となり、既に発注済みの分に引下げ後の新単価を遡及適用することも代金の減額に当たります。9月の交渉で新単価に合意した場合は、いつ発注する分から適用するのかを必ず書面で確定させてください。

当事務所の見解・実務上の注意点

発注側と受注側の対等な価格協議を象徴する、水平に釣り合った天秤のイラスト

価格交渉の相談を受けていて最も多いのが、「値上げを言い出したら取引を切られるのではないか」という不安です。この不安自体はもっともですが、取適法の施行によって前提が変わりました。受注側が協議を求めたのに応じないこと自体が違反行為になった以上、「交渉を持ちかけること」は角の立つ要求ではなく、法が想定している通常の手続になったということです。実際、直近の調査でも価格交渉が行われた割合は90.7%に達しており、交渉すること自体はもはや例外ではありません。

交渉の成否を決めるのは、交渉術ではなく自社の数字

発注側が説明や根拠資料の提供を求められる立場になった以上、受注側も同じ土俵に立つ準備が要ります。「原材料が上がったので上げてほしい」では、上げ幅の根拠がありません。品目ごとに、いつと比べていくら上がったのかを示せるかどうかで結果は変わります。そのためには月次で原価が見える状態、少なくとも主要品目の原価計算が動いている状態が前提になります。月次決算が2か月遅れているという状態では、9月の交渉に使える数字がそもそも手元にありません。数字づくりの体制から見直したい場合は、堺市の税理士による税務顧問として月次の数字づくりからご相談を承っています。

労務費の50.0%をどう読むか

コスト要素別で労務費の転嫁率が50.0%と最も低い水準にあることは、中小企業にとって重い意味を持ちます。最低賃金は10月に改定されるため、9月の交渉は「これから確実に発生する人件費増」を織り込む最後の機会です。最低賃金の改定額や社会保険料率の改定は、自社の経営判断ではなく制度によって決まるコストです。公的な改定資料を根拠として示せば、発注側も「合理的な理由を示した引上げの求め」として扱わざるを得ません。労務費こそ、公的資料で武装しやすい項目だと考えています。

値上げが通っても、手元に残るとは限らない

見落とされがちなのが、値上げが実現した後の税負担です。売上が増えれば消費税の納付額も増えます。課税売上高が1,000万円を超えれば、その2年後には課税事業者になります。簡易課税や2割特例を使っている事業者は、みなし仕入率の関係で増収分がそのまま納税額に響くこともあります。利益が増えれば法人税・所得税も増え、役員報酬を上げれば社会保険料も増えます。「いくら値上げすれば、税・社会保険料を払った後にいくら残るのか」を先に試算しておくと、交渉の目標額そのものが変わります。

逆に、交渉が実らず資金繰りが厳しくなる場合もあります。その場合は値上げ交渉と並行して、運転資金の調達を早めに検討してください。決算書が固まってからでは選択肢が狭まるため、資金調達・融資支援のように、交渉と資金繰りを同時に走らせる進め方が現実的です。

今すぐやるべきこと

9月の価格交渉に向けて今すぐやるべき手順を象徴する、上りの階段のイラスト

9月中に着手すべき手順を、順番に整理します。

  1. ステップ1:取引先ごとにコスト上昇額を数値化する
    9月上旬までに、主要取引先ごとの受注単価と直近の原価を突き合わせ、原材料費・労務費・エネルギーコストの上昇額を金額で示せる状態にします。根拠のない「一律◯%アップ」より、品目別の増加額のほうが協議は進みます。
  2. ステップ2:労務費は公的な改定資料を根拠にする
    最も転嫁が進んでいない労務費については、地域別最低賃金の改定額や社会保険料率の改定通知など、第三者が確認できる資料を添付します。自社だけの事情ではなく制度改定による不可避のコスト増だと示すことが有効です。
  3. ステップ3:協議の申入れは形に残る方法で行う
    協議を求めた事実は、口頭でも成立しますが、後日の認識のずれを避けるためメールや書面など記録に残る方法で行い、その控えを保存します。従来の単価を引き上げて計算した見積書の提示も、協議を求めた意思表示に含まれます。
  4. ステップ4:交渉の経過と結果を保存する
    協議の日時、提示した資料、発注側からの回答と理由をメモに残します。発注側には受注記録の作成・保存義務がありますが、受注側にも自社を守る記録が必要です。合意した新単価は、いつ発注する分から適用するのかまで書面で確認します。
  5. ステップ5:自社が発注側になる取引も点検する
    自社より小さな外注先がある場合、自社が委託事業者として取適法の義務を負います。支払期日が受領日から60日以内か、手形払をしていないか、振込手数料を差し引いていないかを、9月のうちに点検します。

なお、5つのステップはいずれも9月中に完結させる前提で組んでいます。10月からの新単価に間に合わせるには、遅くとも9月中旬までに協議の申入れを済ませておく必要があるためです。協議が長引いて10月に食い込んだ場合でも、合意した新単価を9月以前の発注分に遡って適用することはできません。

9月の交渉で最も効くのは、「協議を求めた事実」と「示した根拠」が記録として残っていることです。結果として希望額に届かなかったとしても、記録があれば次回以降の交渉でも、取引Gメンや取引かけこみ寺への相談でも、そのまま使えます。

よくある質問

Q. 価格交渉促進月間は2026年もありますか?
A. あります。中小企業庁は2021年9月以降、毎年9月と3月を価格交渉促進月間として設定しており、2026年も9月が対象です。月間そのものに申請や届出は必要ありません。月間の終了後に中小企業庁が受注側中小企業へフォローアップ調査を行い、その回答をもとに発注者ごとの評価が公表され、状況の芳しくない発注者には事業所管大臣名で指導・助言が行われます。受注側としては、調査への回答が発注者に知られない仕組みになっている点を押さえておくとよいでしょう。
Q. 取適法は下請法と何が変わりましたか?
A. 令和7年5月16日に成立した改正法により、令和8年1月1日から下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」になりました。主な改正内容は、特定運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止、事業所管大臣等による指導及び助言に係る規定の整備です。適用されるのは令和8年1月1日以降に行う製造委託等からです。あわせて下請中小企業振興法も受託中小企業振興法へ改称され、「下請Gメン」「下請かけこみ寺」の名称も「取引Gメン」「取引かけこみ寺」に変わりました。
Q. 資本金1千万円以下の当社でも取適法の保護を受けられますか?
A. 受けられます。物品の製造委託・修理委託・特定運送委託などでは、資本金3億円超の事業者から資本金3億円以下の事業者への委託、または資本金1千万円超3億円以下の事業者から資本金1千万円以下の事業者や個人事業者への委託が対象です。改正で従業員基準も加わり、資本金基準が適用されない場合には常時使用する従業員300人超(一部の委託は100人超)かどうかで判定します。常時使用する従業員の数は、賃金台帳の調製対象となる労働者の数で算定します。
Q. 振込手数料を代金から差し引かれていますが、問題はないのでしょうか?
A. 取適法上は問題となります。中小受託取引適正化法テキストでは、代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させて代金の額から差し引くことは、その負担についての合意の有無にかかわらず本法違反として問題となる、と明記されています。契約書に「振込手数料は受注側負担」と書いてあっても同じ扱いです。なお、売手が振込手数料相当額を自ら負担して売上値引きとして処理する場合は、消費税では売上げに係る対価の返還等となり、税込1万円未満なら返還インボイスの交付は不要です。
Q. 値上げを認めてもらえなかったら、それだけで法違反になりますか?
A. なりません。協議に応じない一方的な代金決定に当たるかどうかは、実質的な協議が行われたかどうかで判断されます。協議の結果として要請額の全部または一部が受け入れられなかったとしても、それ自体は違反ではありません。ただし発注側が要請額を受け入れられない場合には、その理由や考え方の根拠を十分に説明することが必要とされています。逆に、コスト上昇分に十分見合う引上げを一律に決定し、受注側の申入れ額を上回る額が定められた場合などは、個別協議がなくても利益を不当に害するものとはいえないとされています。

参考資料・出典

本記事は道濟会計事務所が監修しました。




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