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相続財産の取得費加算2026|申告期限から3年以内の売却で譲渡税を軽減

相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例を解説する記事のタイトル画像
SUMMARYこの記事の要点3点
  • 1ポイント1:相続や遺贈で取得した土地、建物、株式などを、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すると、相続税額のうち一定金額を取得費に加算できます(租税特別措置法第39条)。
  • 2ポイント2:対象は相続税が課税された人の譲渡所得に限られ、加算額は財産ごとに計算して譲渡益が上限です。自社株を発行会社に譲渡する場合は、みなし配当課税の特例と併用できます。
  • 3ポイント3:適用には売却した年の確定申告で計算明細書などの添付が必要です。売却期限の確認、非上場株式の届出書の提出、空き家の特例との有利判定を早めに進めましょう。

相続した土地や建物、自社株などを、相続税の納税資金に充てるためや管理の負担を減らすために売却することは少なくありません。このとき売却益には譲渡所得の税金がかかりますが、相続税を納めた財産をすぐに売ると、同じ財産に相続税と所得税が続けて課されることになります。

この負担を調整するのが、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例、いわゆる取得費加算の特例です。本記事では、国税庁の資料に沿って、特例の要件、売却期限の数え方、計算式、自社株を発行会社に売る場合の扱い、確定申告の手続を解説します。

取得費加算の特例の概要と適用要件

取得費加算の特例の概要と売却期限を象徴する砂時計

特例の内容:相続税額の一部を取得費に上乗せできる

国税庁のタックスアンサーNo.3267は、相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができると説明しています。根拠法令等には『措法39』が挙げられており、これは租税特別措置法第39条を指します。

譲渡所得の金額は、売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費が増えればその分だけ譲渡所得が小さくなり、税額も下がります。相続財産を売る人にとっては、知っているかどうかで手取り額が変わる特例です。

ただし、この特例は譲渡所得のみに適用がある特例であり、株式等の譲渡による事業所得および雑所得については適用できないとされています。上場株式の売買を事業所得や雑所得として申告している人は対象外になる点に注意してください。

適用を受けるための3つの要件

No.3267は、特例の適用を受けるための要件を次のように定めています。

要件内容
(1)取得の原因相続や遺贈により財産を取得した者であること
(2)相続税の課税その財産を取得した人に相続税が課税されていること
(3)譲渡の時期その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

売却期限の数え方

期限の起点は相続税の申告期限です。No.4208によると、相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。この申告期限の翌日以後3年を経過する日までが売却期限ですので、相続開始からはおおむね3年10か月が目安になります(当事務所による計算)。

なお、遺産分割がまとまらなくても申告期限は延びません。No.4208は、分割されていないということで相続税の申告期限が延びることはありませんとしています。売却期限も申告期限を基準に進むため、分割協議が長引くほど売却に使える時間は短くなります。

二次相続が起きた場合の期限

第1次相続の申告書を提出する前に相続人が亡くなった場合(第2次相続)には、第1次相続の申告義務は第2次相続人に承継され、その申告期限は第2次相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内になります。国税庁の質疑応答事例は、この申告期限の日の翌日から3年以内に譲渡した場合には特例の適用が認められるとしています。

売買契約中に相続が開始した場合

土地や建物の売買契約を結んだ後、引渡しと代金決済が終わる前に売主が亡くなることもあります。国税庁の質疑応答事例は、売主に相続が開始した場合で、その相続人が譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期を引渡しがあった日として譲渡所得の申告をするときは、取得費加算の特例を適用して差し支えないとしています。この場合、相続税の課税価格には残代金請求権と受領済みの手付金に相当する額が算入されていると考えられるため、算式に当てはめる金額の取り方が通常と異なります。契約途中の相続は、計算方法まで確認してから申告してください。

中小企業経営者への実務影響:計算方法と株式・不動産の扱い

取得費に加算する相続税額の計算方法を象徴する天秤

取得費に加算する相続税額の計算式

取得費に加算する相続税額は、No.3267に示された次の算式で計算します。

その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の相続税評価額÷(その者の取得財産の価額+その者の相続時精算課税適用財産の価額+その者の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額)=取得費に加算する相続税額

ポイントは3つあります。第一に、使うのは相続人全体の相続税ではなく、売った人自身の相続税額です。第二に、相続税額のうち、売った財産が自分の相続財産全体に占める割合に対応する部分だけが加算されます。第三に、算出した金額が、この特例を適用しないで計算した譲渡益の金額を超える場合は、その譲渡益相当額が上限になります。したがって、この特例で譲渡損失を生じさせることはできません。また、加算額は譲渡した財産ごとに計算します。

令和6年1月1日以後に生前贈与を受けている場合

分母の金額には、生前贈与の扱いに関する注記があります。No.3267は、令和6年1月1日以後に被相続人である特定贈与者から贈与により取得した相続時精算課税適用財産の価額は、贈与により取得した財産の価額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額になるとしています。

また、令和6年1月1日以後に被相続人から暦年課税による贈与により財産を取得したことがある場合には、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額になります。生前贈与を受けている相続人は、分母の金額を相続税申告書の数字から正しく拾うことが必要です。

株式を売る場合の扱い

相続や遺贈により取得した株式と同一銘柄の株式を以前から保有している場合に、売却期限内にその株式の一部を譲渡したときは、その譲渡は相続や遺贈により取得した株式の譲渡からなるものとして特例を適用して差し支えないとされています。

相続で取得した株式のほかに、被相続人から贈与で取得した同じ銘柄の株式があり、どちらも相続税の課税価格に算入されている場合について、国税庁の質疑応答事例は、算入された株式の価額(1株当たりの価額)が高い方から譲渡したものとして取り扱うことができるとしています。

自社株を発行会社に売る場合はみなし配当の特例と併用できる

中小企業の経営者が亡くなると、相続人が納税資金を確保するために、相続した自社株を会社に買い取ってもらうことがあります。通常、非上場株式を発行会社に譲渡して受け取った対価が、発行会社の資本金等の額のうちその株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分は配当所得とみなされます。

しかし、タックスアンサーNo.1477によると、納付すべき相続税額がある個人が、相続の開始があった日の翌日からその相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税の対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当課税を行わずに全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とする特例があります。この場合、譲渡所得金額の15.315パーセントに相当する所得税および復興特別所得税(令和9年分以後は所得税、復興特別所得税および防衛特別所得税)が課税されます。さらにNo.1477は、取得費を計算する際に、取得費加算の特例を併用することも可能としています。

この特例を受けるには、非上場株式をその発行会社に譲渡する日までに、届出書を発行会社に提出する必要があります。発行会社は、譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長に届出書を提出し、写しを5年間保存しなければなりません。

土地・建物を売る場合の取得費と税率

相続した土地建物の取得費は、被相続人がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算し、取得の時期も被相続人から引き継がれます。取得費が分からない場合は、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。所有期間が5年を超える土地や建物の譲渡は長期譲渡所得となり、税額は課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)で計算します。取得費加算の特例は、こうして計算した取得費にさらに相続税額の一部を上乗せする仕組みです。

当事務所の見解・取得費加算で損をしないための注意点

取得費加算の特例で損をしないための注意点を象徴する虫眼鏡

相続税がかからなかった人は使えない

要件の(2)にあるとおり、この特例は財産を取得した人に相続税が課税されていることが前提です。同じ遺産分割の中でも、配偶者の税額の軽減などで納める相続税がない人は、加算する相続税額がありません。誰がどの財産を相続し、誰が売るのかによって特例の効果は変わります。また、算式の分子は売った財産の相続税評価額ですから、同じ人が複数の財産を相続している場合、どの財産を売るかによっても加算額は変わります。売却を予定している財産があるなら、遺産分割の段階から、売る人の相続税額と売却期限を踏まえて検討しておくことをおすすめします。

売却した年の確定申告で必ず適用する

No.3267は、この特例の適用を受けるためには、一定の書類を添えて確定申告をすることが必要としています。平成23年度税制改正では、当初申告の際に適用金額を記載した場合に限り適用できるとされていた措置の一部について、更正の請求で事後的に適用を受けられるようになりました。しかし、国税庁が公表している当初申告要件が廃止された措置の一覧には、租税特別措置法第39条は掲げられていません。後から更正の請求で追加できると考えず、売却した年の確定申告で確実に適用しておくことが安全です。確定申告の準備では、相続税の申告書の控えを譲渡所得の資料と一緒に保管し、担当者が替わっても特例の検討が引き継がれるようにしておきましょう。株式を一般口座で売った場合や、相続から時間がたってから売った場合は、特例の検討そのものが漏れやすいため注意が必要です。

空き家の特例とは選択になる

相続した空き家を売ったときの3,000万円の特別控除(タックスアンサーNo.3306)には、売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないことという要件があります。被相続人の自宅を売る場合は、どちらの特例が有利かを試算して選ぶ必要があります。

相続税の修正申告をした後の計算

譲渡所得の申告で特例を適用した後に相続税の修正申告をした場合、計算の基礎となる相続税額は修正申告後の税額によってよいとする質疑応答事例があります。相続税額が変われば加算額も変わるため、相続税の修正申告や更正の請求をしたときは、譲渡所得の申告への影響もあわせて確認してください。相続財産の評価から売却後の譲渡所得の申告まで一貫して確認したい場合は、当事務所の相続税申告のサポートもご活用ください。

今すぐやるべきこと:相続財産を売る前後の手順

相続財産を売る前後の手順を象徴する階段

相続財産の売却を検討している方は、次の順番で準備を進めてください。

  1. ステップ1:相続税申告書で売る財産の評価額と自分の相続税額を確認する
    相続税の申告書から、売却を予定している財産の相続税評価額と、売る人自身の相続税額、取得財産の価額などを書き出します。生前贈与を受けている場合は、相続時精算課税適用財産や暦年課税分の贈与財産の価額も確認します。この数字が算式の分子と分母になるため、相続税の申告書の控えは売却が終わるまで手元に保管しておきます。
  2. ステップ2:売却期限の日付を確定させる
    相続税の申告期限を確認し、その翌日以後3年を経過する日を具体的な日付で記録します。二次相続が起きている場合は、申告期限そのものが変わっていないかもあわせて確認します。
  3. ステップ3:自社株を会社に売るなら譲渡日までに届出書を出す
    非上場株式を発行会社に譲渡する場合は、譲渡する日までに、相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書を発行会社に提出します。会社側の提出期限と写しの保存も確認します。届出書は売買の前に準備する書類ですので、株式の買取りを決めた段階で会社と相続人の双方で段取りを共有します。
  4. ステップ4:他の特例との有利判定をする
    被相続人の自宅を売る場合は、空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例のどちらが有利かを試算します。譲渡益が上限になる点も踏まえて比較します。空き家の特例には別の要件と期限があるため、両方の要件を満たすかを先に確認します。
  5. ステップ5:売却した年の確定申告で計算明細書を添付する
    確定申告書に、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書と、譲渡所得の内訳書や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書を添えて提出します。
売却期限を1日でも過ぎると特例は使えません。売買契約の締結日や引渡し日がいつになるかで判断が分かれる場合もあるため、期限が近い売却は早めに専門家へ相談してください。

よくある質問

Q. 相続税を払っていない相続人でも取得費加算の特例は使えますか?
A. 使えません。No.3267は要件の一つとして、その財産を取得した人に相続税が課税されていることを挙げています。基礎控除以下で申告不要だった場合や、配偶者の税額の軽減によって納める相続税がない人は、加算する相続税額がないため特例の対象になりません。相続人ごとに判定する点に注意してください。
Q. 売却期限はいつまでですか?
A. 相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内ですので、相続開始から見るとおおむね3年10か月が目安です(当事務所による計算)。正確な日付は申告期限から確認し、売買契約の日程はその日付から逆算して組んでください。
Q. 相続した上場株式を売った場合も使えますか?
A. 株式も対象です。ただし、この特例は譲渡所得のみに適用があり、株式等の譲渡による事業所得や雑所得には適用できません。また、相続で取得した株式と同じ銘柄の株式を以前から持っている場合でも、期限内に一部を譲渡したときは、相続で取得した株式の譲渡からなるものとして特例を適用して差し支えないとされています。
Q. 取得費に加算される金額に上限はありますか?
A. あります。算式で計算した金額が、この特例を適用しないで計算した譲渡益の金額を超える場合は、その譲渡益相当額が上限になります。そのため、特例を使って譲渡損失を作ることはできません。また、加算額は譲渡した財産ごとに計算するため、複数の財産を売る場合はそれぞれについて計算します。売る財産の順番や組み合わせも含めて試算しておくと安心です。
Q. 自社株を会社に買い取ってもらう場合も取得費加算は使えますか?
A. 使えます。タックスアンサーNo.1477は、相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例について、取得費の計算で取得費加算の特例を併用することも可能としています。ただし、みなし配当の特例を受けるには、譲渡する日までに届出書を発行会社に提出する必要があります。
Q. 相続税の修正申告をした場合、加算額はどうなりますか?
A. 国税庁の質疑応答事例では、譲渡所得の申告で特例を適用した後に相続税の修正申告をした場合、計算の基礎となる相続税額は修正申告後の税額によってよいとされています。相続税額が増えれば加算額も増える可能性があるため、譲渡所得の申告内容を見直す必要があるかを確認してください。
Q. 確定申告ではどの書類が必要ですか?
A. No.3267は、確定申告書に、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書と、譲渡所得の内訳書(土地・建物用)、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書または譲渡所得の内訳書(総合譲渡用)を添えて提出するとしています。計算明細書を使うと、取得費に加算される相続税額を計算できます。

参考資料・出典

本記事は道濟会計事務所が監修しました。




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