堺市で税理士に依頼するメリットとは?選び方のポイントと費用相場を解説
金型の無償保管2026|9月3日の勧告と取適法の保管費用ルール
SUMMARYこの記事の要点3点
- 1ポイント1:令和8年9月3日、公正取引委員会は株式会社ニチリンに対し、下請事業者25名に金型等1,048個を無償で保管させていたとして勧告を行いました。中小企業庁長官の措置請求を受けた案件です。
- 2ポイント2:対象は製造委託等を行う委託事業者(旧・親事業者)です。発注を長期間行わないにもかかわらず保管費用を負担しない行為は、不当な経済上の利益の提供要請の禁止に該当します。
- 3ポイント3:令和8年1月1日から下請法は取適法に変わり、禁止行為の条文番号も第4条第2項第3号から第5条第2項第2号へ移りました。社内の発注ルールと契約書の条文引用を更新する必要があります。
CONTENTS目次
令和8年9月3日、公正取引委員会は自動車用ホースなどを製造販売する株式会社ニチリンに対し、下請事業者に金型と治具を無償で保管させていたとして勧告を行いました。金型の保管は、製造業では「置いておくだけだから費用はかからない」と受け止められがちな部分です。しかし発注が止まったまま保管を続けさせれば、受注側は場所と管理の負担だけを負い続けることになります。
この論点は、令和8年1月1日に下請法が取適法へ改正されたことで、引用すべき条文番号そのものが変わっています。本記事では、公正取引委員会と中小企業庁が公表した勧告書の内容をもとに、何が違反と判断されたのか、発注側と受注側はそれぞれ何をすべきかを、改正前後の条文の対応関係まで含めて整理します。
令和8年9月3日の勧告の概要と、金型の無償保管が違反になる理由
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公表された事実関係
公正取引委員会と中小企業庁が公表した資料によると、事実関係は次のとおりです。中小企業庁及び近畿経済産業局がニチリンに対して調査を行った結果、改正前の下請法に違反する行為が認められたため、令和8年7月16日に中小企業庁長官が改正前の下請法第6条の規定に基づき公正取引委員会に対して措置請求を行いました。これを受けて公正取引委員会が調査を行い、令和8年9月3日、改正前の下請法第7条第3項の規定に基づき勧告を行っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 勧告日 | 令和8年9月3日(公正取引委員会) |
| 措置請求日 | 令和8年7月16日(中小企業庁長官) |
| 対象事業者 | 株式会社ニチリン(資本金21億5800万円・自動車用ホース等の製造販売) |
| 相手方 | 下請事業者25名 |
| 金型等の数 | 計1,048個(金型及び治具) |
| 対象期間 | 遅くとも令和6年9月1日から令和8年7月28日まで |
| 支払済額 | 令和8年7月31日までに計978万9525円 |
| 参照条文 | 改正前の下請法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止) |
違反事実の概要として、ニチリンは下請事業者25名に対し自社又は自社の顧客が所有する金型及び治具を貸与し、本件製品の製造を委託したところ、当該金型等を用いて製造する本件製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、当該25名に生じる計1,048個の金型等の保管に係る費用を負担することなく保管させたと記載されています。勧告書によれば、製造委託が行われていたのは平成25年11月から令和6年11月までの間です。
根拠となる条文が禁じている行為
参照条文である改正前の下請法第4条第2項第3号は、親事業者が下請事業者に対し製造委託等をした場合に、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」によって下請事業者の利益を不当に害してはならないと定めています。保管という役務を無償で提供させることが、この「経済上の利益を提供させること」に当たるという構造です。
注目すべきは、「無償であること」だけで判断されているのではない点です。公表文はいずれも「発注を長期間行わないにもかかわらず」という要素を併記しています。発注が続いている金型の保管と、発注が止まったまま置かれ続けている金型の保管は、同じ「無償」でも評価が分かれるという読み方になります。
勧告で命じられた内容
勧告書の主文は6項目にわたります。第1に、下請事業者25名に対し、金型等を保管させたことによる費用に相当する額のうち、令和8年7月31日までに支払った計978万9525円を除いた額を、公正取引委員会の確認を得た上ですみやかに支払うこと。第2に、当該行為が条文に違反するものであることなどを取締役会の決議により確認すること。第3に、自社の役員及び発注担当者に対して取適法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること。第4に、勧告を受けたこと等を役員及び従業員に周知徹底すること。第5に、取引先中小受託事業者に通知すること。第6に、採った措置をすみやかに公正取引委員会に報告することです。
支払を済ませれば終わりではない、という点が実務上の要点です。既に約979万円を支払った後でも勧告は行われており、取締役会決議・研修・周知・取引先への通知・報告までが命じられています。
中小企業への実務影響:取適法で変わった条文と対象範囲
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下請法から取適法へ、名称と呼称の変更
下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号)は、下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律(令和7年法律第41号)により改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となりました。中小企業庁は、この改正法が令和7年5月16日に成立し同月23日に公布され、令和8年1月1日から施行されたと公表しています。あわせて下請中小企業振興法は受託中小企業振興法となりました。
| 改正前の下請法 | 改正後の取適法 |
|---|---|
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 不当な経済上の利益の提供要請の禁止=第4条第2項第3号 | 同=第5条第2項第2号 |
| 書面の交付義務=第3条 | 発注内容等の明示義務=第4条 |
| 書類等の作成・保存義務=第5条 | 同=第7条 |
どの製造委託等にどちらの法律が適用されるかは、行為の時期で決まります。公表文は、令和7年12月までになされた製造委託等にあっては改正前の下請法が適用され、令和8年1月以降になされた製造委託等にあっては改正後の取適法が適用されると明記しています。今回の勧告が「改正前の下請法」に基づいて行われたのは、対象となる製造委託が平成25年11月から令和6年11月までのものだったためです。
禁止行為の並びが入れ替わっている
条文番号がずれた理由は、禁止行為の一覧そのものが組み替えられたことにあります。改正前の下請法第4条第2項は、有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第1号)、割引困難な手形の交付の禁止(第2号)、不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第3号)、不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(第4号)の4つを並べていました。改正後の取適法第5条第2項は、有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第1号)、不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第2号)、不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(第3号)、協議に応じない一方的な代金決定の禁止(第4号)の4つです。手形に関する号が抜け、協議に関する号が加わったことで、番号が1つずつ繰り上がっています。
「型」の範囲と、対象になる事業者の範囲が広がった
製造委託の定義も変わりました。改正前の下請法第2条第1項は対象に「金型」を挙げていましたが、取適法第2条第1項は「専らこれらの製造に用いる金型、木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具」と書き下しています。今回問題になった治具のような保持具も、条文の文言として明確に含まれる形になりました。また製造委託等の範囲に特定運送委託が追加されています。
対象事業者の判定にも新しい軸が入りました。資本金基準は従来どおり、物品の製造・修理委託等では委託事業者が資本金3億円超、中小受託事業者が資本金3億円以下(個人を含む)などとされています。これに加えて取適法では従業員基準が設けられ、製造・修理・特定運送委託等では常時使用する従業員300人超が委託事業者、300人以下(個人を含む)が中小受託事業者、情報成果物作成・役務提供委託ではそれぞれ100人超・100人以下とされます。なお従業員基準については、資本金基準が適用されない場合に適用されます。資本金を1千万円以下に抑えていても、従業員数で委託事業者側に該当しうるという点が実務上の変化です。
自動車業界には繰り返し要請が出ている
中小企業庁は、公正取引委員会による勧告を踏まえ、業界団体に対して違反行為の是正及び未然防止等を行うよう要請しています。公表されている要請の宛先は、令和7年11月13日に一般社団法人日本自動車工業会、令和7年12月8日に日本自動車工業会・日本自動車部品工業会・日本自動車車体工業会、令和8年2月24日に一般社団法人日本自動車販売協会連合会です。今回の対象事業者も自動車用ホースの製造販売であり、自動車のサプライチェーンが継続して注視されている状況が読み取れます。
当事務所の見解・実務上の注意点
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所有者が自社でなくても、発注者の責任として問われる
見落としやすいのは、公表文が「自社又は自社の顧客が所有する金型及び治具を貸与し」と書いている点です。金型の所有権が自社ではなく取引先の完成品メーカーにある場合でも、製造委託を行って保管させているのは自社であり、責任が所有者に移るわけではないという整理になります。「うちの金型ではないから」という説明は成り立ちません。自動車部品のように多層の取引が重なる業界では、中間に立つ事業者ほどこの点を確認しておく必要があります。
「長期間発注していない金型」を把握できているか
公表文はいずれも違反の要素として「発注を長期間行わないにもかかわらず」を挙げています。つまり実務上の分岐点は、どの金型がいつから発注のないまま置かれているかを発注側が把握しているかどうかにあると考えます。今回の事案では1,048個という数量が公表されており、個々の金型の稼働状況を台帳で追える状態になければ、同じ問題が静かに積み上がることになります。
当事務所としては、金型台帳に「最終発注日」の列を設け、一定期間発注のない金型を毎年洗い出す運用をおすすめします。発注の見込みがないものは返却または廃棄の可否を協議し、保管を続けてもらうものは保管費用の取扱いを書面で定める、という切り分けです。勧告主文に社内体制の整備が含まれていることからも、仕組みとして残る形にしておく意味があります。
受注側は「請求してよいもの」として認識する
受注側の中小企業にとって重要なのは、保管費用の負担を求めることが取引上のわがままではなく、法律が発注側に禁じている行為の裏返しだという点です。今回の勧告では、公正取引委員会の確認を得た上で未払分をすみやかに支払うことが命じられています。保管を続けている金型があるなら、その数量と保管期間を自社で記録しておくことが、協議の出発点になります。保管費用を受け取った場合の売上計上や請求書の様式で迷う場面もあるため、記帳・経理代行をご利用の場合は担当者に取引の性質を共有しておくと処理が安定します。
相談先は公的な窓口が用意されている
中小企業庁は取適法の申告・情報提供窓口を設けており、委託事業者の義務・禁止行為の違反に関する情報提供・申告を受け付けています。また中小受託事業者が匿名で情報を提供できる「違反行為情報提供フォーム」も設置されています。取引の継続を心配して声を上げにくい構造があることを前提にした仕組みです。契約全体の見直しや社内規程の整備を含めて検討したい場合は、堺市の税務顧問として継続的にご相談いただくこともできます。
今すぐやるべきこと:発注側と受注側の手順
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発注側と受注側で見るべき順序が違います。次の5ステップで確認してください。
- ステップ1:金型・治具の貸与先と数量を棚卸しする
発注側は、自社又は自社の顧客が所有する型・治具を誰にいくつ貸与しているかを一覧にします。受注側は、預かっている型・治具の数量と預かり開始日を確認します。所有者が自社でないものも対象に含めて数える点が重要です。 - ステップ2:最終発注日を突き合わせて「長期間発注のないもの」を抽出する
型ごとに、その型を用いて製造する製品の最終発注日を記録します。発注が止まっているものが今回の問題の中心です。抽出結果は件数と保管期間がわかる形で残します。 - ステップ3:返却・廃棄・有償保管のいずれかに振り分ける
発注の見込みがない型は、返却または廃棄の可否を相手方と協議します。保管を継続してもらう場合は、保管費用を負担する前提で条件を決めます。無償のまま保管を続けさせる選択肢を残さないことが要点です。 - ステップ4:契約書と社内規程の条文引用を取適法に更新する
令和8年1月1日以降になされた製造委託等には取適法が適用されます。契約書や社内マニュアルに「下請法第4条第2項第3号」等の旧条文が残っていれば、「取適法第5条第2項第2号」など改正後の表記に改めます。呼称も委託事業者・中小受託事業者・製造委託等代金へ置き換えます。 - ステップ5:発注担当者への研修と判定基準の共有を行う
勧告主文では、役員及び発注担当者に対する取適法の研修など社内体制の整備のために必要な措置を講ずることが命じられています。従業員基準の新設により対象範囲が広がっているため、自社が委託事業者に該当するかどうかの判定も含めて共有します。
- ☑ 貸与中・預かり中の型と治具の数量を一覧にした
- ☑ 型ごとの最終発注日を記録し、発注のないものを抽出した
- ☑ 返却・廃棄・有償保管の振り分けを相手方と協議した
- ☑ 契約書と社内規程の条文引用を取適法の表記に更新した
- ☑ 資本金基準と従業員基準の両方で自社の該当性を判定した
よくある質問
- Q. 金型を無償で保管させると、必ず取適法違反になるのですか?
- A. 公表文は違反の要素として「発注を長期間行わないにもかかわらず」保管に係る費用を負担せずに保管させたことを挙げています。無償という一点だけで判断されているわけではなく、発注が止まっているかどうかが併せて示されています。そのため実務では、その型を用いた製品の発注状況と保管の継続を組み合わせて確認することになります。
- Q. 金型の所有者が当社ではなく取引先の場合はどうなりますか?
- A. 今回の公表文は「自社又は自社の顧客が所有する金型及び治具を貸与し」と記載しており、所有者が自社でない型も対象に含めて事実認定されています。製造委託を行い保管させている主体が問われる構造であるため、所有権が取引先にあることを理由に責任を免れるという整理にはなりません。多層の取引では中間の事業者ほど確認が必要です。
- Q. 保管費用をすでに支払っていれば勧告は行われないのですか?
- A. 今回の事案では、対象事業者が令和8年7月31日までに計978万9525円を支払った旨が公表文に記載されていますが、それでも令和8年9月3日に勧告が行われています。勧告主文では、未払分の支払に加えて取締役会決議による確認、役員及び発注担当者への研修などの社内体制の整備、従業員への周知徹底、取引先への通知、公正取引委員会への報告が命じられています。
- Q. 下請法と取適法は、どちらが適用されるのですか?
- A. 公表文は、令和7年12月までになされた製造委託等にあっては改正前の下請法が適用され、令和8年1月以降になされた製造委託等にあっては改正後の取適法が適用されると明記しています。判定の基準は製造委託等がなされた時期です。今回の勧告が改正前の下請法に基づくのは、対象の製造委託が令和6年11月までのものだったためです。
- Q. 資本金が1千万円以下なら取適法の対象外ですか?
- A. 取適法では資本金基準に加えて従業員基準が設けられました。製造・修理・特定運送委託等では常時使用する従業員300人超が委託事業者、300人以下が中小受託事業者とされ、情報成果物作成・役務提供委託ではそれぞれ100人超・100人以下です。従業員基準は資本金基準が適用されない場合に適用されるため、資本金が小さくても従業員数で委託事業者に該当する可能性があります。
- Q. 治具や木型も金型と同じ扱いになりますか?
- A. 改正前の下請法第2条第1項は製造委託の対象として「金型」を挙げていましたが、取適法第2条第1項は「専らこれらの製造に用いる金型、木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具」と書き下しています。今回の事案でも金型と治具が併せて「金型等」として扱われており、型や保持具を含めて棚卸しの対象にするのが安全です。あわせて取適法では、製造委託等の範囲に特定運送委託が追加されている点も確認しておきましょう。
参考資料・出典
- 経済産業省・中小企業庁「株式会社ニチリンに対する下請法に基づく勧告が行われました」(令和8年9月3日)
- 公正取引委員会・中小企業庁「株式会社ニチリンに対する勧告について」(令和8年9月3日)
- 中小企業庁「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)概要・相談窓口」
- 中小企業庁「取引適正化、価格交渉・価格転嫁、官公需対策」
- 中小企業庁「取適法(下請法)に関する業界団体への要請」
本記事は道濟会計事務所が監修しました。
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