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貸倒損失と貸倒引当金2026|回収不能の売掛金を経費にする要件を解説

貸倒損失と貸倒引当金2026|回収不能の売掛金を経費にする要件を解説
この記事の要点3点

  • 売掛金などの債権が回収不能になっても、貸倒損失として損金・必要経費にできるのは税法上の要件を満たした場合に限られます。
  • 法人の貸倒損失は「法律上」「事実上」「形式上」の3区分で要件が定められ、形式上の貸倒れは売掛債権のみが対象です。
  • 回収不能が見込まれる段階では、中小企業や青色申告の個人事業主は貸倒引当金の繰入れで一定額を先に費用化できます。

取引先の倒産や長期の未回収で売掛金が戻ってこない――中小企業や個人事業主にとって、これは資金繰りを直撃する深刻な問題です。「回収できないのだから経費(損金)にできるはず」と考えがちですが、税法上、貸倒損失として認められるための要件は厳格に定められています。要件を満たさないまま損金処理すると、税務調査で否認されるおそれもあります。本記事では、法人の貸倒損失の3区分と要件、回収不能が見込まれる段階で使える貸倒引当金、そして消費税の取扱いまで、中小企業と個人事業主の実務を堺市の税理士が整理します。物価高や倒産件数の動向が気になるいまだからこそ、いざというときに正しく経費化できる知識を備えておきましょう。

貸倒損失の概要|3つの区分と要件

法人税では、金銭債権が回収できなくなった場合に貸倒損失として損金算入できる場面を、大きく3つに区分して定めています(国税庁タックスアンサーNo.5320)。実務では一般に「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」と呼ばれます。それぞれ要件と対象となる債権の範囲が異なるため、自社の状況がどれに当たるかを正確に見極めることが出発点になります。要件が厳格に定められているのは、貸倒損失が利益を圧縮して税負担を減らす効果を持つため、恣意的な処理を防ぐ必要があるからです。区分ごとに「いつの事業年度の損金になるか」「損金経理が必要かどうか」も異なる点に注意が必要です。

1. 金銭債権が切り捨てられた場合(法律上の貸倒れ)

会社更生法や民事再生法などの法的手続による切捨て、債権者集会の協議決定や行政機関のあっせんによる切捨て、あるいは債務者の支払能力からみて回収できない金額についての書面による債務免除などにより、債権が法律的に消滅した場合です。これらにより切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金になります。この区分では、損金経理(帳簿上の費用処理)をしていなくても損金算入が認められる点が特徴です。

2. 金銭債権の全額が回収不能となった場合(事実上の貸倒れ)

債務者の資産状況・支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合です。この場合は、その明らかになった事業年度において、貸倒れとして損金経理することで損金算入できます。ポイントは「全額」が対象であること、そして担保物があるときはそれを処分した後でなければ貸倒れとして扱えないことです。一部だけを貸倒れにすることはできません。なお、保証人がいる場合には、保証人からの回収可能性も含めて全額が回収できないといえるかどうかを判断する必要があります。

3. 一定期間取引停止後に弁済がない場合等(形式上の貸倒れ)

継続的な取引を行っていた債務者との取引を停止した後、最後の弁済期や弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過した場合(担保物がある場合を除く)、または同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がない場合です。これらに当たるときは、その売掛債権の額から備忘価額(実務上は1円)を控除した残額を、損金経理によって貸倒れとして処理できます。あえて1円を残すのは、その後に万一回収できた場合に備え、債権の存在を帳簿上に記録しておくためです。この区分は売掛債権に限られ、貸付金などには適用できない点に十分注意してください。また、ここでいう「取引の停止」は、継続的な取引のあった相手との取引停止を指し、たまたま一度だけ取引した相手の売掛金は対象外とされています。

中小企業への実務影響と消費税の取扱い

貸倒損失は「回収できないと思った」という主観だけでは認められません。いずれの区分も、客観的な事実や証拠にもとづくことが前提です。安易に損金処理すると、税務調査で貸倒れが否認されたり、債務免除が相手への寄附金と認定されたりするリスクがあります。特に注意したいのが、まだ支払能力のある取引先や、グループ会社・関係会社に対する債務免除です。相手に返済能力があるにもかかわらず債権を放棄すると、貸倒損失ではなく寄附金として扱われ、損金算入が大きく制限されてしまうことがあります。「回収不能だから免除した」という事実関係を、相手の財務状況の資料とあわせて示せるかどうかが分かれ目になります。中小企業の経理実務では、次の点を押さえておく必要があります。

否認されないための実務ポイント

  • 債務免除を行うときは、内容証明郵便など書面で行い、相手の支払能力が乏しいことを示す資料を残す。
  • 回収のための督促状・交渉記録など、回収努力の事実を記録として保存する。
  • 形式上の貸倒れは売掛債権限定。貸付金や立替金には使えないことを確認する。
  • 事実上の貸倒れは全額が対象。担保があるときは処分後に判断する。

回収不能が「確定」する前の段階、つまり相手が経営不振に陥り回収が危ぶまれる段階では、貸倒引当金の繰入れという選択肢があります。貸倒引当金は、将来の貸倒れの見込額をあらかじめ費用(損金)として計上しておく制度で、適用できる法人は中小法人等に限られています。具体的には、資本金1億円以下で大法人の100%子会社等に当たらない普通法人、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等です。ただし、過去3年の所得金額の年平均が15億円を超える適用除外事業者は対象外となります(国税庁タックスアンサーNo.5501)。

貸倒引当金は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に区分して計算します。一括評価は、売掛金・貸付金などの債権をまとめて評価する方法で、繰入限度額は原則として「期末の一括評価金銭債権の帳簿価額×貸倒実績率(過去3年の貸倒れ実績)」で求めます。中小法人等は、貸倒実績率に代えて業種ごとの法定繰入率を選択することもできます。なお、一括評価の対象となる金銭債権は、売掛金・貸付金のほか、未収の譲渡代金や立替金など益金に算入済みの債権が中心で、預貯金やその未収利子、保証金・敷金、手付金・前渡金などは対象になりません(国税庁タックスアンサーNo.5500)。

これに対して個別評価金銭債権は、特定の債務者ごとに回収不能のおそれを見積もる方法です。たとえば、更生計画認可の決定などにより弁済が猶予・棚上げされた場合には、おおむね5年以内に弁済される金額などを除いた部分を繰り入れることができます。また、債務超過の状態が相当期間継続して事業好転の見通しがない場合には回収できないと見込まれる金額を、更生手続や再生手続、破産手続の開始の申立て、手形交換所の取引停止処分などの形式的な事実が生じた場合には、債権額の原則50%を繰り入れることが認められています。回収不能の確からしさに応じて、引き当てられる金額が変わる仕組みです。

消費税の貸倒れに係る控除も忘れずに

課税売上げに係る売掛金などが貸倒れになった場合、課税事業者は、その貸倒れが生じた課税期間の消費税額から、貸倒れに係る消費税額を控除できます(消費税法第39条)。法人税・所得税の貸倒損失の処理に気を取られて消費税の控除を失念すると、本来取り戻せる消費税を取りこぼすことになります。売上計上時の税率区分にもとづいて、貸倒れとなった金額に対応する消費税額を正しく計算しましょう。

貸倒損失と貸倒引当金の比較

「回収不能が確定したかどうか」で、使える制度は変わります。確定していれば貸倒損失、まだ見込みの段階なら貸倒引当金、という整理が基本です。両者の違いを表にまとめます。

項目貸倒損失貸倒引当金
使う場面回収不能が確定・明らかになった回収不能の見込み・将来への備え
対象者法人・個人を問わない中小法人等/青色申告の個人事業主
金額要件に応じた損失額(全額または残額)繰入限度額の範囲内
翌期の扱い原則として一度きりの損失原則として翌期に全額戻入れ(洗替え)

一括評価の貸倒引当金で中小法人等が選べる法定繰入率は、業種ごとに次のように定められています。

業種法定繰入率
卸売業・小売業(飲食店業・料理店業を含む)1,000分の10
製造業1,000分の8
金融業・保険業1,000分の3
割賦販売小売業等1,000分の7
その他の事業1,000分の6

個人事業主の場合も、青色申告者であれば一括評価の貸倒引当金を必要経費に算入できます。繰入限度額は、その年の12月31日現在の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に5.5%(金融業は3.3%)を掛けた金額です(所得税法第52条)。たとえば年末の売掛金・受取手形などの一括評価債権の合計が500万円ある小売業の青色申告者であれば、500万円×5.5%=27万5,000円を貸倒引当金として必要経費に算入でき、その分だけ所得を圧縮できます。回収不能が現実化していなくても、債権を多く抱える事業者にとっては有効な節税・備えの手段となります。なお、一括評価の貸倒引当金は青色申告者に限られるため、白色申告の場合は回収不能のおそれが具体化した債権についての個別評価が中心となります。

当事務所の見解・実務上の注意点

貸倒れの税務は「いつ・いくら・どの区分で」を誤ると否認につながりやすい論点です。当事務所が中小企業の経理担当者・経営者にお伝えしている要点を3つ挙げます。

1. 「回収できない」と「税務上の貸倒れ」は別物

経営判断として回収を諦めることと、税務上の貸倒損失の要件を満たすことは、まったく別の話です。要件を満たさない段階で損金処理すると、税務調査で否認され、過少申告加算税や延滞税の対象になりかねません。処理の前に、自社の状況がどの区分に当たるのか、証拠は揃っているのかを必ず確認してください。

2. 証拠書類を残す習慣をつける

債務免除通知(内容証明)、督促状、交渉記録、相手方の登記情報や財務状況の資料など、回収不能を裏づける書類は、貸倒処理の正当性を支える生命線です。後から作成することは難しいため、回収が滞り始めた段階から時系列で記録を残しておきましょう。

3. 引当金と消費税控除を取りこぼさない

回収不能が確定する前でも、中小企業や青色申告の個人事業主は貸倒引当金で一定額を先に費用化できます。また、貸倒れが生じたら消費税の貸倒れに係る控除も忘れないことが大切です。法人税・所得税だけでなく、消費税まで含めて一体で対応することで、取り戻せる税金を最大限に活かせます。

4. 計上のタイミングを翌期に持ち越さない

貸倒損失で見落とされがちなのが、計上時期の問題です。事実上の貸倒れや法律上の貸倒れは、回収不能が明らかになった事業年度、あるいは切捨ての事実が生じた事業年度に処理すべきものとされています。「来期に回そう」と判断を先送りすると、本来計上すべき年度に損金算入しなかったとして、後から修正が必要になることもあります。逆に、まだ要件を満たしていない段階で前倒し計上すれば否認されます。事実が生じた事業年度に、過不足なく処理することが重要です。判断に迷う事案ほど、決算前に税理士へ相談しておくと安心です。

今すぐやるべきこと

売掛金の回収が滞り始めたときに、順番に確認・対応したい手順を整理します。

  1. ステップ1:滞留債権を洗い出す
    売掛金・受取手形・貸付金などの残高を取引先ごとに確認し、回収が遅れている債権をリストアップします。
  2. ステップ2:相手の状況を把握する
    取引先の支払能力・資産状況、法的整理の有無を確認し、回収不能が「確定」か「見込み」かを見極めます。
  3. ステップ3:該当する区分を判定する
    確定なら貸倒損失(法律上・事実上・形式上のどれか)、見込みなら貸倒引当金、と方針を決めます。
  4. ステップ4:証拠書類を整える
    債務免除通知や督促状、交渉記録など、処理を裏づける書類を時系列で保存します。
  5. ステップ5:法人税・所得税・消費税を一体で処理する
    損金・必要経費の計上に加え、消費税の貸倒れに係る控除も忘れずに行い、税理士に最終確認を依頼します。
  • ☑ 滞留している債権を取引先ごとに洗い出した
  • ☑ 回収不能が確定か見込みかを判定した
  • ☑ 該当する貸倒れの区分を特定した
  • ☑ 証拠書類を保存し、消費税の控除も確認した

よくある質問

Q. 取引先が倒産したらすぐに貸倒損失にできますか?
A. 倒産の形態によります。会社更生法や民事再生法などの法的手続で債権の切捨てが決まれば、その事業年度に損金算入できます。一方、法的整理に至らず事実上回収不能というだけの場合は、債務者の資産状況・支払能力からみて全額が回収できないことが明らかになった事業年度に、損金経理して処理します。倒産=即時に全額貸倒れ、とは限らない点に注意が必要です。
Q. 売掛金の一部だけを貸倒損失にできますか?
A. 事実上の貸倒れ(全額が回収不能となった場合)は、その全額が対象であり、一部だけを貸倒れにすることはできません。回収不能が確定していない見込みの段階で一部を費用化したい場合は、貸倒損失ではなく貸倒引当金の繰入れを検討することになります。
Q. 貸付金にも形式上の貸倒れは使えますか?
A. 使えません。取引停止後1年以上経過による形式上の貸倒れは、売掛債権に限って認められる取扱いです。貸付金については、法律上の貸倒れ(切捨て・債務免除)や事実上の貸倒れ(全額回収不能が明らか)の要件を満たすかどうかで判断します。
Q. 個人事業主でも貸倒引当金を使えますか?
A. 青色申告をしている個人事業主であれば、一括評価の貸倒引当金を必要経費に算入できます。繰入限度額は、その年の12月31日現在の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に5.5%(金融業は3.3%)を掛けた金額です。白色申告の場合は個別評価の貸倒引当金が中心となります。
Q. 貸倒れになったとき消費税はどうなりますか?
A. 課税売上げに係る売掛金などが貸倒れになった場合、課税事業者は、その貸倒れが生じた課税期間の消費税額から貸倒れに係る消費税額を控除できます。法人税・所得税の処理だけでなく、消費税の控除も併せて行うことで、過大な納税を防げます。
Q. 貸倒損失の処理にはどんな書類が必要ですか?
A. 区分により異なりますが、法律上の貸倒れなら更生計画や債務免除を示す書面、事実上の貸倒れなら債務者の資産状況・支払能力を裏づける資料、形式上の貸倒れなら取引停止の時期や最後の弁済時期がわかる記録などが必要です。いずれも回収不能を客観的に示す証拠として、督促状や交渉記録とあわせて保存しておくことが大切です。
Q. 繰り入れた貸倒引当金は翌期にどうなりますか?
A. 一括評価の貸倒引当金は、原則として翌事業年度に全額を戻し入れ(益金算入)、あらためてその期末の債権額にもとづいて繰り入れ直します。これを洗替えといいます。引き当てた金額がそのまま永久に費用になるわけではなく、毎期見直す点を理解しておきましょう。

参考資料・出典

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