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労災保険法改正2026|令和9年4月から遺族年金の夫要件撤廃と時効5年

労災保険法改正と令和9年4月からの遺族年金の見直しを解説する記事のアイキャッチ画像
SUMMARYこの記事の要点3点
  • 1ポイント1:労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)が令和8年7月10日に可決成立し、同年7月17日に公布されました。多くの改正は令和9年4月1日から施行されます。
  • 2ポイント2:遺族補償年金等について、夫にのみ課せられていた支給要件が撤廃され、遺族が1人の場合の年金額が給付基礎日額の153日分から一律175日分に引き上げられます。
  • 3ポイント3:判断が容易でない疾病として政令で定めるものについて、療養補償給付等の請求権の消滅時効が2年から5年に延長されます。労働基準法の災害補償請求権も同様です。

労災保険は、従業員を一人でも雇えば必ず関係してくる制度です。その労災保険の給付内容そのものを変える法律が、令和8年7月に公布されました。遺族補償年金の受給資格から夫だけに課せられていた年齢要件がなくなり、遺族が1人の場合の年金額が引き上げられます。請求権の消滅時効も、一部の疾病について2年から5年に延びます。施行は令和9年4月1日が中心で、まだ先の話に見えますが、記録の保存や外注先の確認など、今から手を打てることがあります。改正の中身を厚生労働省の資料にそって整理します。

令和8年の労災保険法改正の概要

労働者災害補償保険法等の改正法が公布されたことを表した木槌のイラスト

成立から施行までの日程

厚生労働省労働基準局長が都道府県労働局長あてに発出した通達(令和8年7月17日付け基発0717第2号)によれば、「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)」は「本年4月7日に第221回国会に提出され、本年7月10日に可決成立し、本日公布された」とされています。通達自体の日付が令和8年7月17日ですので、「本年」は令和8年、「本日」は令和8年7月17日にあたります。厚生労働省の解説ページも、公布の日を令和8年7月17日と記載しています。厚生労働省が公表している改正法の概要は、改正の趣旨を「就業構造の変化や働き方の多様化等を踏まえ、労働災害に対する幅広いセーフティネットを整備するため」と説明しています。通達は改正の背景として、女性の労働参加の進展などを挙げています。

前提として、労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。厚生労働省は、労災保険における労働者とは「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ないとしています。その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。また、労災年金給付等の算定の基礎となる給付基礎日額は、労災保険法第8条の3等の規定に基づき、毎月勤労統計の平均給与額の変動等に応じて、毎年自動的に変更されています。今回の改正は、この仕組みの上に乗る給付の中身と請求の期間を変えるものだと捉えると分かりやすくなります。

段階日付
第221回国会に提出本年4月7日(=令和8年4月7日)
可決成立本年7月10日(=令和8年7月10日)
公布令和8年7月17日
原則的な施行期日令和9年4月1日
暫定措置の廃止等の施行期日公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日

改正されるのは労災保険法だけではない

今回の改正法は、複数の法律をまとめて改める形をとっています。通達の構成によれば、改正の対象は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)、石綿による健康被害の救済に関する法律(平成18年法律第4号)、労働基準法(昭和22年法律第49号)、および失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和44年法律第83号)です。概要資料では、船員保険法の遺族年金についても同様の改正を行うとされています。あわせて附則には検討規定が置かれ、政府は改正法の施行後5年を経過した場合において施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずるものとされています。

ポイント:関係政省令はこれから
通達は、改正法の施行のために必要な関係政省令等について、今後、労使等の関係者の意見を聴きつつ検討することとしている、としています。時効が延びる疾病の範囲や特別加入団体の具体的な要件は政令・省令に委ねられており、現時点で確定しているのは法律レベルの枠組みです。

なお、労災補償をめぐる見直しはここ数年続いています。令和2年の改正では、複数の会社で働く方について、すべての会社の賃金を合算した額をもとに保険給付額が決まり、すべての会社の負荷を総合的に評価して労災認定の判断をするようになりました。令和6年11月からは、特定受託事業に従事する方が新たに特別加入制度の対象となっています。働き方が多様になるほど、労災の入口と出口の両方に手が加えられていくという流れの中に、今回の改正も位置づけられます。

中小企業への実務影響と5つの改正項目

労災保険が働く人を守る範囲を表した傘のイラスト

厚生労働省の概要資料は、改正の概要を5項目に整理しています。1が遺族補償年金における支給要件等の見直し、2が労災保険給付請求権等の消滅時効期間の見直し、3が労災保険の適用事業に関する暫定措置の廃止、4が特別加入団体の要件の法定化等、5が社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立てに係る審査請求先等の見直しです。以下では1から3を順に見たうえで、4は「よくある質問」で、5は次章で扱います。

1 遺族補償年金の支給要件の見直し

1つ目の柱の1点目は、遺族補償年金等の支給要件です。厚生労働省は、遺族補償年金等および石綿健康被害救済法の特別遺族年金等について、「夫にのみ課せられた支給要件(妻の死亡時に55歳以上又は一定の障害の状態にある者)」を撤廃すると説明しています。通達は同じ改正を条文に即して、遺族補償年金、複数事業労働者遺族年金及び遺族年金を受けることができる遺族の要件について、「夫が60歳以上であること又は厚生労働省令で定める障害の状態にあること」という要件を削る(第16条の2第1項関係)と記しています。概要資料が示す受給資格者の一覧では、次のように変わります。

順位見直し前見直し後
1妻又は60歳以上若しくは一定障害の夫妻又は夫
2から618歳以下又は一定障害の子、60歳以上又は一定障害の父母 ほか同左
755歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹55歳以上60歳未満の父母・祖父母・兄弟姉妹

受給資格者の全員がそれぞれ受け取れるわけではなく、そのうちの最先順位者(受給権者)だけが受けることができる点は変わりません。

1 遺族が1人の場合の年金額

1つ目の柱の2点目は年金額です。遺族補償年金等について、遺族が1人の場合の年金額を、現行の給付基礎日額の153日分(遺族が妻のみ、かつ55歳以上又は一定の障害の状態にある場合には175日分)から、一律で175日分に改めるとされています。厚生労働省の「労災保険給付の概要」によれば、遺族の数等に応じた現行の年金額は、1人が153日分、2人が201日分、3人が223日分、4人以上が245日分です。改正されるのは1人の場合の区分で、差額は22日分にあたります。なお、遺族特別支給金は遺族の数にかかわらず一律300万円、葬祭料等(葬祭給付)は330,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分)とされています。

2・3 消滅時効の延長と暫定措置の廃止

2つ目の柱は消滅時効です。労災保険法上の労災保険給付請求権は、障害補償給付・遺族補償給付等については5年間、療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付等については2年間で消滅するとされてきました。改正により、その疾病の性質上、災害補償の事由に該当するものかどうか等を容易に判断することができない疾病として政令で定めるものである場合には、これらの請求権の消滅時効期間が2年から5年になります。概要資料は、具体的には脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病を想定としています。労働基準法上の災害補償請求権についても、同様の改正が行われます。

3つ目の柱は、労災保険の適用事業に関する暫定措置の廃止です。労災保険は原則として労働者を使用する全ての事業に適用されますが、当分の間の暫定措置として、農林水産業の小規模な個人経営の事業の一部が任意適用とされてきました。概要資料は、農業については個人経営で常時5人未満の労働者を使用する事業(事業主が農業について特別加入している事業を除く)、林業については労働者を常時には使用せず、かつ年間使用延べ労働者数が300人未満の個人経営の事業、水産業については常時5人未満の労働者を使用する個人経営の水産動植物の採捕又は養殖の事業その他水産の事業を暫定任意適用事業の対象として挙げ、これらを廃止するとしています。農林水産業の小規模な事業でも重大事故が見られ、労働者の保護の必要性が高まっていることが背景に挙げられています。賃金台帳の整備までさかのぼって備える必要がありますので、記帳・経理代行とあわせてご相談ください。

当事務所の見解・実務上の注意点

労災保険給付の請求権の消滅時効が2年から5年に延びることを表した砂時計のイラスト

金額の増加より、請求される期間が延びることの影響が大きい

報道では遺族年金の引上げが見出しになりますが、中小企業の労務管理に効いてくるのは消滅時効の延長だと考えています。脳・心臓疾患や精神障害の労災は、発症から請求までに時間がかかることが少なくありません。時効が2年から5年になれば、退職から数年が経ってから請求が行われる場面が増えます。そのとき会社に求められるのは、当時の労働時間、業務内容、配置転換の経緯といった事実関係の説明です。記録が残っていなければ、会社にとって不利な事実認定を覆す材料がありません。労働基準法上の保存年限とは別に、労災の請求に備えた記録の保存方針を決めておくことをお勧めします。

「夫だから受け取れない」がなくなる意味

共働きが当たり前になった現在、妻が業務災害で亡くなったときに夫が年金を受け取れないという現行の取扱いは、実態と合わなくなっていました。今回の改正で、配偶者については妻と夫の区別がなくなります。経営者としては、女性従業員の労災についても遺族への補償が同じ水準になると理解しておけば十分です。なお、厚生労働省の説明文と通達では要件の書き方が異なります。説明文は「妻の死亡時に55歳以上又は一定の障害の状態にある者」という要件の撤廃と表現し、通達は条文に即して「夫が60歳以上であること又は厚生労働省令で定める障害の状態にあること」という要件を削るとしています。概要資料の一覧を見ると、順位1の「60歳以上若しくは一定障害の夫」という限定と、順位7の「55歳以上60歳未満の夫」という区分の双方から夫が外れることが分かります。どちらの資料も同じ改正を指していますので、社内で説明する際は、参照した資料の表現をそのまま使うのが安全です。

不服申立ての窓口が一本化される

目立たない改正ですが、社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立ての扱いも変わります。現行では、労災保険給付に関する決定は労働保険審査官及び労働保険審査会法に基づく審査請求・再審査請求の対象である一方、社会復帰促進等事業の給付に関する決定は行政不服審査法に基づく審査請求の対象とされています。厚生労働省は、業務上外の判断など共通する同一事案の同一の争点について異なる判断がなされ得ることを問題として挙げ、改正後は社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立ても労働保険審査官及び労働保険審査会法の対象とし、審査請求先及び再審査請求先を労災保険給付に関する決定への不服申立てと同様とするとしています。不支給決定を争う場面で、窓口が分かれて結論が食い違うという不合理が解消されます。

注意:確定しているのは法律の枠組みまで
時効が延びる疾病の範囲は政令で、特別加入団体の具体的な要件は省令で定められます。暫定措置の廃止の施行日も政令待ちです。制度の細部を前提にした社内規程の改定は、政省令の公布を待ってから行うのが安全です。

今すぐやるべきこと

労災保険法改正に向けて中小企業が進める準備の手順を表した階段のイラスト

施行は令和9年4月1日ですが、記録の整備は早いほど効きます。次の順番で進めてください。

  1. ステップ1:労災保険の適用漏れがないかを確認する
    労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。労災保険における労働者とは職業の種類を問わず事業に使用される者で賃金を支払われる者をいい、アルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。短時間勤務の方だけを雇っている場合も対象です。
  2. ステップ2:遺族となりうる方の構成を把握しておく
    遺族補償年金は、受給資格者のうち最先順位者だけが受け取ります。従業員の家族構成を会社が調べる必要はありませんが、万一のときに誰が請求できるのかという仕組みを知っておくと、遺族への説明で迷いません。改正後は配偶者について妻と夫の区別がなくなります。
  3. ステップ3:脳・心臓疾患や精神障害の労災について、記録の保存年限を見直す
    消滅時効が5年になるのは、判断が容易でない疾病として政令で定めるものです。請求が数年後に行われる可能性が高まるため、労働時間の記録や健康診断の結果、業務内容の変更履歴などは、時効の延長を前提とした期間で保存しておくと、事実関係の確認がしやすくなります。
  4. ステップ4:一人親方に外注している場合は団体の運営状況を確かめる
    建設業などで一人親方に業務を委託している場合、その方の労災保険は特別加入団体を通じて成立しています。改正後は団体が業務改善命令の対象となり、命令違反があれば保険関係が消滅させられることがあります。取引先の安全体制を確認する一環として、加入団体の名称と加入状況を確かめておきます。
  5. ステップ5:農林水産業を個人で営んでいる場合は適用開始に備える
    暫定任意適用の廃止は、公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。対象となる可能性のある方は、保険料の負担がいつから生じるのか、政令の内容を注視してください。労働保険料は年度更新で申告・納付します。
  6. ステップ6:労働保険の年度更新と給与計算の体制を整える
    適用事業となれば、毎年の労働保険の年度更新が必要になります。賃金総額の集計を誤ると保険料の計算がずれますので、給与計算と帳簿づけを一体で整えておくことが結局は近道です。

労働保険と社会保険の負担を織り込んだ資金繰りや、人を増やす際の判断については、堺市の税務顧問として毎月の面談の中でご一緒に検討しています。

よくある質問

Q. 従業員が業務災害で亡くなった場合、会社が遺族年金を負担するのですか?
A. 遺族補償年金は労災保険から支給されるもので、会社が年金額を直接負担するものではありません。労災保険の費用は原則として事業主が負担する保険料によってまかなわれています。会社が行うのは、労働基準監督署への報告と、遺族が請求手続をする際の事業主証明などです。ただし労災保険給付とは別に、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を求められる場面はありますので、給付があるから会社の責任が終わるわけではありません。
Q. 改正で遺族の受け取る金額はどのくらい変わりますか?
A. 遺族が1人の場合の年金額が、現行の給付基礎日額の153日分から一律175日分に改められます。差は22日分です。現行制度では、遺族が妻のみで、かつ55歳以上又は一定の障害の状態にある場合に限って175日分とされていましたが、この特例が廃止され、遺族が1人であれば一律175日分になります。遺族が2人の場合は201日分、3人の場合は223日分、4人以上の場合は245日分という現行の区分について、厚生労働省の改正資料は見直しの対象として挙げていません。
Q. 消滅時効が5年になるのは、すべての労災保険給付ですか?
A. すべてではありません。厚生労働省は、その疾病の性質上、災害補償の事由に該当するものかどうか等を容易に判断することができない疾病として政令で定めるものである場合に、療養補償給付等の請求権等の消滅時効期間を2年から5年にするとしています。具体的には脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病が想定されています。障害補償給付や遺族補償給付等は、改正前から5年です。対象となる疾病の範囲は政令で定められることになっています。
Q. 農業や林業を個人で営んでいますが、労災保険に入る必要が出てきますか?
A. 将来的にその可能性があります。労災保険は原則として労働者を使用する全ての事業に適用されますが、当分の間の暫定措置として、農林水産業の小規模な個人経営の事業の一部は任意適用とされてきました。今回の改正でこの暫定措置が廃止されます。ただしこの部分の施行日は、公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、厚生労働省の資料は施行までに5年程度の準備期間を設ける想定としています。
Q. 一人親方の特別加入団体に入っていますが、何か変わりますか?
A. 団体側の規律が強まります。特別加入団体について、現在は通達等で定められている労災保険に係る業務や業務災害の防止に関する活動を適切に実施すること等の要件が法令に規定されます。あわせて、政府は業務の運営に関し改善が必要と認めるときは業務改善命令を出すことができ、団体が命令に違反したときはその団体についての保険関係を消滅させることができるものとされます。具体的な要件は省令に別途規定されるとされています。

参考資料・出典

本記事は道濟会計事務所が監修しました。




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