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役員社宅の節税2026|賃貸料相当額の計算と国税庁ルールを税理士が解説
この記事の要点3点
- 会社が住宅を借り上げて役員に貸し、役員から「賃貸料相当額」以上を徴収すれば、家賃の大部分を会社の損金にしつつ、役員側に給与課税が生じません(2026年現在の取扱い)。
- 影響を受けるのは、自宅を個人で借りている中小企業のオーナー役員・従業員。役員報酬を増やすより手取りベースで有利になりやすい節税策です。
- まずやるべきは、賃貸借契約を「法人名義」に切り替え、賃貸料相当額を計算し、毎月の役員報酬から確実に徴収する仕組みを作ることです。
目次
「役員報酬を増やしても、所得税・住民税と社会保険料で半分近くが消えてしまう」——中小企業のオーナー経営者からよくいただくご相談です。そこで検討したいのが、会社名義で住宅を借り上げて役員に貸す「役員社宅」の仕組みです。一定のルールを守れば、家賃の大部分を会社の経費(損金)としながら、役員個人には給与としての課税が生じません。本記事では、国税庁が示す「賃貸料相当額」の計算方法と判定基準、中小企業がつまずきやすい論点までを、2026年6月時点の取扱いに基づいて税理士が具体的に解説します。
役員社宅の節税とは|制度の概要と賃貸料相当額の考え方
役員社宅とは、会社が貸主(大家)と賃貸借契約を結んで住宅を借り上げ、それを役員に住まいとして貸し付ける仕組みです。会社が支払う家賃は原則として「地代家賃」として損金になります。一方で、役員に無償または極端に安く貸すと、本来役員が負担すべき家賃を会社が肩代わりした「経済的利益」とみなされ、その分が役員の現物給与として給与課税の対象になってしまいます。
ここで基準となるのが、国税庁タックスアンサーNo.2600で定められた「賃貸料相当額」です。役員から毎月この賃貸料相当額以上を受け取っていれば、会社が支払う家賃との差額があっても給与課税は生じません。逆に、受け取る額が賃貸料相当額に満たない場合は、その差額が給与として課税されます。つまり「いくら徴収すれば課税されないか」を正しく計算することが、役員社宅による節税の出発点になります。
ポイント:役員社宅の節税の本質は「賃貸料相当額」が実際の家賃よりかなり低く設定できる点にあります。会社が支払う家賃と役員から徴収する賃貸料相当額との差額が、実質的な節税メリットになります。
小規模な住宅かどうかをまず判定する
賃貸料相当額の計算は、社宅が「小規模な住宅」に該当するかどうかで大きく変わります。小規模な住宅の判定は、建物の法定耐用年数によって次のように区分されます。
| 建物の法定耐用年数 | 小規模な住宅となる床面積 | 主な建物の例 |
|---|---|---|
| 30年以下 | 床面積132㎡以下 | 木造・軽量鉄骨造のアパート等 |
| 30年超 | 床面積99㎡以下 | 鉄筋コンクリート造のマンション等 |
区分所有のマンションでは、専有部分に共用部分を按分した面積を加えて判定します。多くの中小企業のオーナーが住むファミリータイプの賃貸住宅は、この「小規模な住宅」に収まるケースが少なくありません。小規模な住宅に該当すると、賃貸料相当額が低く算定され、節税メリットが大きくなります。
小規模な住宅の賃貸料相当額の計算式
小規模な住宅に該当する場合、賃貸料相当額は次の(1)〜(3)の合計額になります(国税庁No.2600)。
- (1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- (2)12円 × その建物の総床面積(㎡)÷ 3.3㎡
- (3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
計算の基礎が「実際の家賃」ではなく「固定資産税の課税標準額」である点が重要です。固定資産税評価額は時価より低く設定されているため、賃貸料相当額は実際の支払家賃の数分の一程度に収まることが多くなります。たとえば月20万円の家賃を会社が支払っていても、賃貸料相当額が月2万〜4万円程度に算定されれば、その差額が実質的なメリットになります(実際の額は物件ごとの課税標準額により異なります)。
小規模でない住宅・豪華社宅の扱い
小規模な住宅に当てはまらない、より広い住宅の場合は計算式が変わります。会社が借り上げて貸す場合の賃貸料相当額は、「会社が貸主に支払う家賃の50%に相当する額」と、自社所有の場合の計算式(建物の課税標準額×12%〈耐用年数30年超は10%〉+敷地の課税標準額×6%を12で割った額)で求めた額のいずれか多い方になります。
重要:床面積が240㎡を超え、取得価額や内外装などから「社会通念上、一般の社宅とは認められない」いわゆる豪華社宅に該当すると、賃貸料相当額は「通常支払うべき使用料(=時価)」になります。豪華社宅では節税メリットがほぼ消えるため注意が必要です。プールなど特別な設備がある場合は240㎡以下でも該当することがあります。
従業員(使用人)の社宅は「50%ルール」が使える
同じ社宅でも、役員と従業員ではルールが異なります。従業員に貸す場合は、賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば、差額は給与課税されません(国税庁No.2597)。一方、役員にはこの50%ルールは適用されず、賃貸料相当額の全額以上を徴収する必要があります。役員と従業員で徴収すべき下限が異なる点を、給与計算の担当者と共有しておきましょう。
中小企業への実務影響|社宅導入で手取りはどう変わるか
役員社宅がなぜ「手取りで有利」になるのか、役員報酬を増やす場合と比較して整理します。仮に、オーナー役員が個人で月20万円の家賃を払っている状況を考えます。
このとき、住居費20万円を自分の手取りから払うためには、所得税・住民税・社会保険料を差し引かれる前の役員報酬で見れば、20万円以上の「額面」を稼ぐ必要があります。所得税・住民税と社会保険料の負担を合わせると、額面の3割前後(人によってはそれ以上)が公的負担に回るためです。
これに対して、会社が同じ住宅を借り上げて役員に貸し、役員から賃貸料相当額(仮に月3万円)だけを徴収する形にすれば、会社は家賃20万円を地代家賃として損金にできます。役員が負担するのは賃貸料相当額の3万円のみで、しかも賃貸料相当額以上を徴収しているため給与課税は生じません。住居費の大部分を「税引き前の会社の経費」でまかなえることになり、同じ住まいでも家計のキャッシュフローが大きく改善します。
数字でみる手取りの違い(イメージ)
イメージをつかむために、月20万円の家賃を例に試算します。あくまで考え方を示すための概算で、実際の税率・社会保険料率や賃貸料相当額は各人の状況により異なります。
個人で家賃20万円(年240万円)を負担するために役員報酬を増額する場合、所得税・住民税・社会保険料の負担を合わせて額面のおよそ3割が公的負担に回ると仮定すると、手取りで240万円を確保するには、額面で約340万円前後の報酬を上乗せする必要がある計算になります。差額の約100万円は、住まいのためだけに支払う「税・社会保険のコスト」です。
一方、役員社宅にして賃貸料相当額を月3万円(年36万円)と徴収する場合、会社は家賃240万円を損金にでき、役員の自己負担は36万円のみ。役員報酬を増額しないため、所得税・住民税・社会保険料も増えません。同じ「家賃20万円の住まい」を、はるかに少ない手取り負担で実現できることになります。家賃が高い都市部の物件ほど、この差は大きくなる傾向があります。
役員報酬を増やす場合との比較
| 比較項目 | 役員報酬を増やして家賃を払う | 役員社宅にする |
|---|---|---|
| 会社の経費 | 増やした役員報酬が損金 | 支払家賃が地代家賃として損金 |
| 役員の所得税・住民税 | 増やした報酬に課税される | 賃貸料相当額以上の徴収で課税なし |
| 社会保険料 | 標準報酬月額が上がり負担増 | 報酬を据え置けば負担は変わらない |
| 実質的な住居費負担 | 税・社会保険控除後の手取りから支出 | 賃貸料相当額のみの自己負担で済む |
さらに、すでに支払っている役員報酬の一部を社宅家賃の負担に振り替える設計にすれば、役員報酬そのものを引き下げられる場合があります。報酬が下がれば標準報酬月額も下がり、会社・役員双方の社会保険料の軽減につながることもあります。ただし、社会保険における社宅(現物給与)の評価は、税務上の賃貸料相当額とは異なり、厚生労働大臣が定める都道府県別の価額(住宅の利益)で行われます。税務上は課税されなくても社会保険上は現物給与として扱われる部分があり得るため、社会保険料への影響は顧問の社会保険労務士・税理士に確認することをおすすめします。
注意:水道光熱費・町内会費・駐車場の個人利用分などは社宅家賃とは別で、会社が負担すると別途給与課税の対象になり得ます。社宅としてカバーするのは「住宅の貸与」部分に限られると考えておきましょう。
固定資産税の課税標準額をどう確認するか
賃貸料相当額の計算には、建物と敷地の固定資産税の課税標準額が必要です。自社所有でない借り上げ社宅の場合、この情報は本来は所有者(貸主)が把握しています。もっとも、住宅を借りている賃借人は、地方税法の規定により、市区町村に対して固定資産課税台帳のうち自分が借りている部分の記載事項の証明(いわゆる賃借人の閲覧・証明請求)を求めることができます。実務上は、まず不動産会社や貸主に確認し、難しい場合は法人名義で証明を取得する流れになります。課税標準額が確認できないまま「家賃の○割」といった概算で済ませると、税務調査で否認される恐れがあるため、根拠資料を必ず保存しておきましょう。
当事務所の見解・実務上の注意点
役員社宅は、追加の支出を伴わずに役員の手取りを改善できる、中小企業にとって即効性の高い節税策です。一方で、形式を整えないと税務調査で否認されやすい論点でもあります。当事務所が関与先にお伝えしている実務上の勘所を3点に絞ってお伝えします。
1. 契約は必ず「法人名義」で締結する
もっとも多い失敗が、役員個人名義で契約したまま会社が家賃を払っているケースです。これは社宅ではなく「会社が役員個人の家賃を負担した」と評価され、家賃全額が役員給与として課税されかねません。新規契約はもちろん、既存の個人契約も、可能な限り法人名義へ切り替える(貸主の承諾を得て契約者を会社に変更する)ことが大前提です。
2. 賃貸料相当額の「徴収」を給与天引きで仕組み化する
賃貸料相当額を計算しても、実際に役員から徴収していなければ意味がありません。徴収漏れがあると、その分が経済的利益として給与課税の対象になります。毎月の役員報酬から賃貸料相当額を天引きする処理を給与計算ソフトに組み込み、賃金台帳・給与明細に「社宅使用料」として明示しておくと、調査時の説明もスムーズです。
3. 役員報酬と一体で設計し、定期同額給与のルールを崩さない
社宅導入に合わせて役員報酬を見直す場合は、定期同額給与のルールに注意が必要です。役員報酬の改定は原則として事業年度開始から3か月以内に行う必要があり、期中に不用意に金額を変えると損金不算入のリスクがあります。社宅の導入と報酬設計はセットで、できれば期首のタイミングに合わせて検討するのが安全です。なお、居住用住宅の家賃は消費税が非課税のため、会社が支払う家賃・受け取る家賃ともに仕入税額控除の対象にはなりません。
当事務所の見解:役員社宅は「派手な節税」ではありませんが、毎年・恒久的に効果が続き、否認リスクも形式を整えれば低い、費用対効果の高い王道の手法です。新たに賃貸住宅へ引っ越す予定がある経営者ほど、契約時点から法人名義で進める価値があります。
今すぐやるべきこと(導入チェックリスト)
役員社宅を導入・点検する際の手順を、順番に整理しました。上から順に確認してください。
- ステップ1:契約名義を確認・変更する
現在の賃貸借契約が個人名義か法人名義かを確認します。個人名義であれば、貸主・管理会社に相談し、契約者を会社へ変更するか、法人名義で再契約します。名義変更には貸主の承諾が必要なため、更新時期に合わせて交渉するとスムーズです。新規に住み替える場合は、内見・申込みの段階から法人契約である旨を不動産会社に伝え、最初から法人名義で契約します。 - ステップ2:建物・敷地の固定資産税課税標準額を入手する
貸主・不動産会社に確認するか、賃借人として市区町村で固定資産課税台帳の記載事項の証明を取得します。建物の構造(耐用年数)と床面積もあわせて確認し、「小規模な住宅」に当たるかを判定します。課税標準額は毎年見直されるため、計算に用いた年度を記録しておくと、翌年以降の再計算の際に役立ちます。 - ステップ3:賃貸料相当額を計算する
小規模な住宅であれば、建物課税標準額×0.2%+12円×(総床面積÷3.3㎡)+敷地課税標準額×0.22%の合計で算定します。広い住宅や豪華社宅に該当する場合は計算式が変わり、節税効果も大きく変わるため、判定に迷う物件は契約前に税理士へ確認するのが安全です。 - ステップ4:徴収額を決め、給与天引きを設定する
役員からは賃貸料相当額以上(従業員は50%以上)を毎月徴収します。給与計算ソフトで「社宅使用料」として天引きする処理を設定し、賃金台帳・給与明細に明示します。徴収漏れがあるとその分が給与課税の対象になるため、毎月確実に控除される仕組みにしておくことが重要です。 - ステップ5:役員報酬の設計と書類を整える
報酬を見直す場合は期首(事業年度開始から3か月以内)に合わせ、定期同額給与のルールを守ります。賃貸借契約書・社宅規程・課税標準額の根拠資料・賃貸料相当額の計算書を一式そろえて保管します。これらは税務調査の際に「形式が整った社宅」であることを示す証拠になります。
よくある質問(FAQ)
- Q. 役員社宅にすると、役員はいくら会社に払えばよいのでしょうか?
- A. 役員の場合は、国税庁の計算式で求めた「賃貸料相当額」の全額以上を毎月会社に支払う必要があります。賃貸料相当額以上を徴収していれば、会社が払う家賃との差額があっても給与課税は生じません。従業員に貸す場合は賃貸料相当額の50%以上で課税されませんが、役員にはこの50%基準は使えない点に注意してください。徴収を忘れると、その分が経済的利益として給与課税の対象になるため、毎月の役員報酬から「社宅使用料」として天引きする仕組みにしておくのが安全です。
- Q. 持ち家でも役員社宅の節税はできますか?
- A. 役員個人がすでに所有している自宅を社宅にすることはできません。役員社宅は、会社が貸主から借り上げて役員に貸す、または会社が所有する物件を役員に貸す形が前提です。これから賃貸住宅に住む、または住み替える予定のある経営者が、契約の時点から法人名義にすることで活用しやすい仕組みです。なお、個人所有の自宅を会社に売却して社宅化する手法もありますが、譲渡所得課税や時価評価など別の論点が生じるため、実行前に税理士へご相談ください。
- Q. 賃貸料相当額の計算に必要な固定資産税の課税標準額が分かりません。どうすればよいですか?
- A. まずは貸主や管理会社に確認するのが基本です。難しい場合は、住宅を借りている賃借人として、市区町村で固定資産課税台帳のうち自分が借りている部分の記載事項の証明を請求できます。概算の「家賃の○割」で代用すると、税務調査で計算根拠を問われた際に否認される恐れがあります。建物と敷地それぞれの課税標準額、建物の構造(耐用年数)、床面積といった根拠資料を取得し、計算過程とあわせて必ず保存しておきましょう。
- Q. 豪華な住宅でも役員社宅にすれば節税になりますか?
- A. 床面積240㎡超など、社会通念上一般の社宅とは認められない「豪華社宅」に該当すると、賃貸料相当額は通常支払うべき使用料(時価)となり、節税メリットはほぼなくなります。プールなど特別な設備がある場合は、240㎡以下でも豪華社宅と判断されることがあります。役員個人の嗜好を強く反映した内外装なども判断材料になります。一般的なファミリータイプの賃貸住宅であれば問題になりにくいですが、高級物件を検討する際は事前に判定の見通しを確認してください。
- Q. 水道光熱費や駐車場代も会社負担にできますか?
- A. 社宅としてカバーされるのは「住宅の貸与」部分です。水道光熱費や個人利用の駐車場代、町内会費などを会社が負担すると、その分は別途、役員の給与として課税される可能性があります。社宅家賃と日常の生活費は明確に切り分け、生活に係る実費は個人負担とするのが安全です。駐車場についても、住宅と一体で賃貸借契約に含まれているか、別契約かによって扱いが変わるため、契約内容を確認しておきましょう。
- Q. 役員社宅にすると社会保険料も下がりますか?
- A. 役員報酬の一部を社宅家賃の負担に振り替えて報酬額そのものを引き下げれば、標準報酬月額が下がり、社会保険料の軽減につながる場合があります。ただし、社会保険における社宅(現物給与)の評価は、税務上の賃貸料相当額とは異なり、厚生労働大臣が定める都道府県別の価額で行われます。税務上は課税されなくても社会保険上は現物給与として一部が報酬に算入されることがあるため、社会保険料への影響は社会保険労務士・税理士に確認することをおすすめします。
参考資料・出典
本記事は道濟会計事務所が監修しました。