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在職老齢年金2026|基準額65万円へ・計算を税理士が解説
この記事の要点3点
- 令和8年(2026年)4月から、在職老齢年金の支給停止基準額が「51万円」から「65万円」(令和8年度の基準額)に引き上げられます。根拠は令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)です。
- 働きながら老齢厚生年金を受け取る60歳以上の方と、その方を雇用する中小企業に影響します。基準額の引き上げで、これまで年金が減額・停止されていた方の受給額が増える可能性があります。
- まず「基本月額」と「総報酬月額相当額」を確認し、合計が65万円を超えるかを試算しましょう。給与設計や再雇用契約の見直しの好機です。
「働きながら年金を受け取ると、年金が減らされて損をする」——長年そう言われてきた在職老齢年金の仕組みが、令和8年(2026年)4月から大きく変わります。年金が減額され始める基準額が、現行の月51万円から令和8年度は月65万円へと引き上げられるためです。人手不足が続くなか、経験豊富な60歳以上の従業員に長く活躍してもらいたい中小企業にとっても、給与設計や再雇用契約を見直す重要な転機となります。本記事では、在職老齢年金2026年改正の内容と計算方法、そして中小企業が今から準備すべき実務を、税理士の視点で具体的に解説します。数字の試算例や、給与・役員報酬との関係まで踏み込んで整理していますので、対象となる従業員・役員がいる経営者の方はぜひ最後までご確認ください。
1. 在職老齢年金の改正の概要
在職老齢年金とは、60歳以上の方が厚生年金保険に加入しながら(つまり働きながら)老齢厚生年金を受け取る場合に、給与や賞与の額に応じて年金の一部または全部が支給停止となる仕組みです。今回の改正は、令和7年6月13日に成立した「令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)」に基づくもので、この支給停止の基準額(支給停止調整額)が引き上げられます。
改正の背景と目的
改正の背景にあるのは、深刻化する人手不足と、高齢者の就労意欲を削がない制度への転換という国の方針です。従来の在職老齢年金は、一定額以上の給与を得ると年金が減額されるため、「これ以上働くと年金が減る」と就業を控える一因になっているとの指摘が長年ありました。実際に、支給停止を避けるために勤務時間や役割をあえて抑える「就業調整」が、企業の人員計画にも影を落としてきました。国は高齢者ができるだけ労働を抑制せず、働きたい人が働きやすい仕組みへ見直す観点から、基準額の引き上げを決定しました。
基準額はこれまでも段階的に見直されてきました。かつては60歳台前半(60〜64歳)と後半(65歳以上)で異なる低い基準額が設けられていた時期もありましたが、その後基準額は一本化され、令和5年度は48万円、令和6年度は50万円、令和7年度は51万円と、賃金や物価の動向に応じて改定されてきました。今回はこの流れをさらに進め、令和8年度に65万円へと大きく引き上げるものです。
支給停止基準額が51万円から65万円へ
現行制度(令和7年度)では、老齢厚生年金の「基本月額」と、給与・賞与から計算した「総報酬月額相当額」の合計が月51万円を超えると、超えた分の2分の1に相当する年金が支給停止となっていました。令和8年4月からは、この基準額が65万円(令和8年度の基準額)に引き上げられます。基準額は毎年度、賃金変動に応じて改定される点にも留意が必要です。
2つの用語を正しく理解する
「基本月額」は、受け取っている老齢厚生年金(加給年金額を除く)を12で割った月額です。「総報酬月額相当額」は、その月の標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を加えたものです。この2つの合計が基準額を超えるかどうかが判定の出発点になります。
「基本月額」は、受け取っている老齢厚生年金(加給年金額を除く)を12で割った月額です。「総報酬月額相当額」は、その月の標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を加えたものです。この2つの合計が基準額を超えるかどうかが判定の出発点になります。
支給停止額の計算式
令和8年4月以降の支給停止額は、次の式で計算します。基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下であれば、年金は全額支給されます。合計が65万円を超える場合のみ、次のとおり一部が支給停止となります。
支給停止額(月額)=(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷ 2
実際に受け取れる年金額(月額)= 基本月額 - 支給停止額
実際に受け取れる年金額(月額)= 基本月額 - 支給停止額
重要なのは、支給停止の対象となるのは老齢厚生年金(報酬比例部分)のみで、老齢基礎年金(国民年金部分)は在職老齢年金の仕組みによって停止されることはなく、全額が支給されるという点です。国民年金部分まで減るわけではありません。
また、判定の対象となるのはあくまで厚生年金保険の被保険者としての給与・賞与です。厚生年金に加入していない働き方(たとえば個人事業主としての収入や、加入要件を満たさない短時間労働)による収入や、不動産所得・配当などの資産性所得は、総報酬月額相当額には含まれません。つまり在職老齢年金の判定は「厚生年金に加入して働いていること」が前提であり、退職して厚生年金の被保険者でなくなれば、この支給停止の仕組みは適用されず年金は全額支給されます。
2. 中小企業と高齢従業員への実務影響
今回の改正は、高齢の従業員本人の手取りだけでなく、その方を雇用する中小企業の給与設計・再雇用制度にも直結します。基準額が14万円引き上げられることで、これまで「年金が減るから給与を抑えてほしい」「勤務日数を減らしたい」と希望していた従業員が、より多く働いても年金が減りにくくなるためです。
改正前後で受給額はどう変わるか(試算例)
具体的な数字で見てみましょう。老齢厚生年金の基本月額が15万円、給与と賞与から計算した総報酬月額相当額が55万円の方(合計70万円)を例にとります。
| 項目 | 改正前(基準額51万円) | 改正後(基準額65万円) |
|---|---|---|
| 合計額 | 70万円 | 70万円 |
| 支給停止額(月) | (70万-51万)÷2=9.5万円 | (70万-65万)÷2=2.5万円 |
| 受け取れる年金(月) | 15万-9.5万=5.5万円 | 15万-2.5万=12.5万円 |
| 年間の差額 | 月7万円×12か月=年間約84万円の増加 | |
このケースでは、給与水準が同じでも、改正によって受け取れる年金が月5.5万円から12.5万円へと増えます。年間では約84万円もの差が生じる計算です。逆に言えば、合計額が65万円以下であれば年金は全く減額されないため、多くの再雇用者が「減額を気にせず働ける」状態になります。
「年金が減るから」という理由での就業調整が過剰だった可能性
これまで「年金が減るのが嫌だから短時間勤務にとどめたい」という声は少なくありませんでした。改正後は基準額が65万円まで上がるため、フルタイム勤務でも年金が減らない、あるいは減額が小幅にとどまる方が増えます。就業調整を前提にした人員計画は、改正を機に見直す価値があります。
これまで「年金が減るのが嫌だから短時間勤務にとどめたい」という声は少なくありませんでした。改正後は基準額が65万円まで上がるため、フルタイム勤務でも年金が減らない、あるいは減額が小幅にとどまる方が増えます。就業調整を前提にした人員計画は、改正を機に見直す価値があります。
企業側の社会保険手続きは変わらない
誤解しやすい点ですが、支給停止額を計算・適用するのは日本年金機構であり、企業が年金額を計算したり天引きしたりするわけではありません。企業側で必要なのは、従来どおり厚生年金保険料の適正な控除と、標準報酬月額に関する届出(算定基礎届、月額変更届、賞与支払届など)を正確に行うことです。とはいえ、標準報酬月額や賞与額は総報酬月額相当額の基礎となるため、給与・賞与の設計が従業員の年金額に影響することは理解しておく必要があります。
人員戦略・継続雇用制度の見直しにつながる
中小企業にとって、経験と技能を持つ60歳以上の従業員は貴重な戦力です。これまでは、支給停止を避けるために本人が短時間勤務を希望し、結果として現場の戦力が不足するというジレンマが生じていました。基準額の引き上げにより、この制約が緩むため、継続雇用者に責任ある役割やフルタイム勤務を打診しやすくなります。定年後再雇用の賃金テーブルや、嘱託・パートといった雇用区分のあり方も、改正を前提に組み直す余地が出てきます。
また、特別支給の老齢厚生年金(生年月日により60歳台前半で受給する年金)を受け取っている方についても、同じ考え方で支給停止の判定が行われます。対象となる方は年々限られてきていますが、該当者がいる企業では、こちらも合わせて確認しておくと安心です。
「働き控え」を前提にした賃金設計を見直す好機
基準額が51万円から65万円へ上がることで、月給と年金の合計が65万円以下に収まる従業員は、年金が一切減額されません。年収ベースでいえば、賞与を含めても総報酬月額相当額が抑えられる層は幅広く該当します。改正を機に、対象者ごとの試算に基づいた賃金・勤務設計を検討しましょう。
基準額が51万円から65万円へ上がることで、月給と年金の合計が65万円以下に収まる従業員は、年金が一切減額されません。年収ベースでいえば、賞与を含めても総報酬月額相当額が抑えられる層は幅広く該当します。改正を機に、対象者ごとの試算に基づいた賃金・勤務設計を検討しましょう。
3. 当事務所の見解・実務上の注意点
今回の改正は「高齢者が働きやすくなる」という前向きなものですが、実務では見落とされがちな論点がいくつかあります。当事務所が特に注意すべきと考えるポイントを整理します。
基準額は毎年度改定される「変動値」である
令和8年度の基準額は65万円ですが、これは固定ではなく、毎年度の賃金変動に応じて改定されます。前述のとおり基準額は令和6年度50万円、令和7年度51万円と1万円単位で動いてきました。今回は制度改正による大幅な引き上げですが、翌年度以降も1万円単位の改定が続く可能性があります。「65万円」という数字だけを覚えて長期の給与設計を固定してしまうと、翌年度以降にズレが生じるおそれがあります。毎年1月下旬から2月ごろに公表される翌年度の基準額を確認し、賃金・報酬設計を毎年見直す運用にしておくことが安全です。
加給年金・繰下げ受給との関係を混同しない
在職老齢年金による支給停止は、あくまで老齢厚生年金(報酬比例部分)が対象です。配偶者等がいる場合の加給年金や、受給開始を遅らせる繰下げ受給の増額など、他の制度との組み合わせで手取りは変わります。特に繰下げ受給を検討している方は、在職中に支給停止となっていた部分は繰下げによる増額の対象にならない点に注意が必要です。基準額の引き上げで支給停止額が減れば、その分繰下げ時の増額対象も変わってきます。「基準額が上がったから必ず得」と単純化せず、加給年金や繰下げの有無を含め、個々の年金構成に応じた試算が欠かせません。
給与か、賞与か、役員報酬かで結果が変わる
総報酬月額相当額は、標準報酬月額と直近1年の標準賞与額から計算されます。同じ年収でも、月給に厚く配分するか賞与に配分するかで判定が変わり得ます。特に高齢の役員が在職している中小企業では、役員報酬の設計(定期同額給与のルールとの整合を含む)と年金の受給可否を一体で検討することで、会社と本人双方にとって合理的な報酬設計が可能になります。役員報酬は法人税法上、定期同額給与や事前確定届出給与といった損金算入の要件があり、期の途中で自由に増減できません。年金の受給を意識して報酬額を調整する場合は、事業年度開始後3か月以内という改定のタイミングや、株主総会での決議など、税務上の手続きと整合させる必要があります。年金の最適化だけを狙って報酬を動かすと、かえって損金不算入という思わぬ税負担を招くこともあるため、法人税・所得税・社会保険・年金を横断した検討が欠かせません。
4. 今すぐやるべきこと
令和8年4月の施行に向けて、中小企業と対象となる従業員・役員が準備すべきステップを、順を追って整理します。年度が替わってから慌てるのではなく、令和7年度のうちに対象者の状況を把握しておくと、賃金改定や再雇用契約の更新に間に合わせやすくなります。
- ステップ1:対象者を洗い出す
60歳以上で、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している(またはまもなく受給開始する)従業員・役員をリストアップします。継続雇用者や高齢の役員が主な対象です。 - ステップ2:基本月額と総報酬月額相当額を把握する
対象者ごとに、年金の基本月額(ねんきん定期便や年金事務所で確認)と、標準報酬月額・直近1年の賞与額から総報酬月額相当額を算出します。 - ステップ3:合計額と65万円を比較する
2つの合計が65万円以下なら年金は全額支給、超える場合は「(合計-65万円)÷2」で支給停止額を試算します。改正前(51万円)との差額も確認しましょう。 - ステップ4:給与・報酬設計を見直す
就業調整の必要性が下がる方については、勤務日数や役割の拡大を検討します。役員は報酬配分(月額と賞与)と年金受給のバランスを再設計します。 - ステップ5:本人へ丁寧に説明する
「働くと年金が減る」という思い込みが根強いため、改正内容と自身の試算結果を本人に共有し、安心して働ける環境を整えます。
実際の支給停止額の確定計算や、個々の年金構成に応じた試算は、年金事務所や専門家への確認をおすすめします。金額の判定を誤ると、給与設計そのものが的外れになりかねません。
5. よくある質問
在職老齢年金の改正について、経営者や高齢の従業員から寄せられることの多い質問をまとめました。
- Q. 在職老齢年金の改正はいつから始まりますか。
- A. 令和8年(2026年)4月からです。根拠は令和7年6月に成立した令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)で、支給停止の基準額が現行の月51万円から令和8年度は月65万円に引き上げられます。
- Q. 老齢基礎年金(国民年金部分)も減らされるのですか。
- A. いいえ。在職老齢年金による支給停止の対象は老齢厚生年金(報酬比例部分)のみです。老齢基礎年金は在職老齢年金の仕組みでは停止されず、全額が支給されます。
- Q. 65万円という基準額はずっと変わらないのですか。
- A. いいえ。65万円は令和8年度の基準額であり、毎年度の賃金変動に応じて改定されます。長期の給与設計を行う際は、毎年度公表される最新の基準額を確認してください。
- Q. 合計額が65万円ちょうどの場合、年金は減りますか。
- A. 基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下であれば、年金は全額支給されます。65万円を超えた部分についてのみ、その2分の1が支給停止となる計算です。
- Q. 企業側で年金額の計算や手続きは必要ですか。
- A. 支給停止額の計算・適用は日本年金機構が行います。企業は従来どおり、厚生年金保険料の適正な控除と、算定基礎届・月額変更届・賞与支払届などの正確な届出を行えば足ります。ただし、これらの届出で決まる標準報酬月額や標準賞与額が総報酬月額相当額の基礎になるため、届出の正確性は従業員の年金額にも影響します。誤った等級での届出は年金の過不足につながるため注意が必要です。
- Q. 70歳以上の従業員にも在職老齢年金は関係しますか。
- A. 70歳以上で働く方も、老齢厚生年金を受給していれば在職老齢年金の支給停止の対象となり得ます。基準額の引き上げは、この年齢層にも同様に適用されます。詳細は年金事務所にご確認ください。
- Q. 自分の基本月額や総報酬月額相当額は、どこで確認できますか。
- A. 基本月額(老齢厚生年金の月額)は、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や、年金事務所・ねんきんネットで確認できます。総報酬月額相当額は、直近の標準報酬月額と、直近1年間の標準賞与額をもとに計算します。判定に迷う場合は、勤務先の給与担当者や年金事務所、税理士・社会保険労務士に相談すると確実です。特に賞与の支給時期や金額が年によって変動する場合は、総報酬月額相当額も変わるため、直近の実績で試算し直すことをおすすめします。
6. 参考資料・出典
本記事は、以下の公的機関の公表資料に基づいて作成しています。制度の詳細や最新の基準額は、必ず一次情報をご確認ください。
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本記事は税理士 道濟寛樹(税理士登録番号152615・近畿税理士会所属)が監修しました。
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