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商業登記電子証明書のリモート署名2026|スマホで署名する実務を解説

2026.07.09
この記事の要点3点

  • ポイント1:法務省・デジタル庁は、会社の「電子実印」である商業登記電子証明書について、令和8年(2026年)7月から、GビズIDアプリを使ってスマートフォンで署名できる「リモート署名方式」を導入します。
  • ポイント2:署名鍵を特定パソコンのファイルで保管する従来方式から、法務省の安全なクラウドに保管する方式へ変わり、パソコンの買い替えや事務所外でも電子署名ができるようになります。中小企業・スタートアップの手続き負担が軽くなります。
  • ポイント3:すぐやるべきは「GビズIDアカウントの整備」と「現在の電子証明書の有効期間・利用手続の棚卸し」。新方式は一部サービスが未対応のため、自社の申請先が対応済みかの確認も必要です。

会社の各種オンライン手続きに欠かせない「商業登記電子証明書」が、令和8年(2026年)7月から大きく変わります。これまでは特定のパソコンに署名鍵ファイルを保管し、専用ソフトを入れた端末でしか電子署名ができませんでした。新たに導入される「リモート署名方式」では、GビズIDアプリを入れたスマートフォンを使い、さまざまな端末からオンラインで署名できるようになります。本記事では、制度の中身と中小企業・スタートアップが受ける実務上の影響、そして今のうちに進めておきたい準備を、税理士の視点で具体的に解説します。

商業登記電子証明書のリモート署名とは(制度の概要)

まず前提として、商業登記電子証明書とは何かを整理します。これは登記所(法務局)が発行する、法人の代表者などの電子証明書です。紙の世界でいう「会社の実印+印鑑証明書」に相当し、オンライン上で「この意思表示は確かにこの会社の代表者が行った」ことを証明します。具体的には、e-Tax(国税の電子申告)やeLTAX(地方税)、各種の行政手続のオンライン申請、そして企業間の電子契約などで利用されます。取得には、証明期間に応じた手数料(法務省が定める料金)がかかり、期間を選んで発行を受ける仕組みです。

具体的な利用場面は、会社の規模を問わず日常業務の随所にあります。代表的なものを挙げると、次のとおりです。国税の電子申告(e-Tax)で申告データに電子署名する場面、地方税の電子申告(eLTAX)を行う場面、法人の各種オンライン申請や補助金の電子申請、取引先とクラウド型の電子契約サービスで契約書を締結する場面などです。いずれも「会社としての正式な意思表示」を伴うため、電子証明書による本人確認・改ざん防止が求められます。つまり、電子証明書の使い勝手は、会社のバックオフィス業務全体のスピードに直結する要素なのです。

従来の方式には、実務上の使いにくさがありました。署名に必要な「署名鍵」を、利用者のローカル環境(特定のパソコン)にファイル形式で保管する必要があったためです。その結果、次のような制約が生じていました。

  • 署名鍵ファイルを保存したパソコンでなければ電子署名ができない
  • パソコンの買い替えや故障時に、証明書の再取得・再設定が必要になりやすい
  • 専用の署名用ソフトのインストールや、動作環境の維持が求められる
  • テレワークや外出先など、事務所以外での署名が難しい

今回の改正で導入されるのが「商業登記リモート署名方式」です。法務省の特設ページ(令和8年4月10日更新)によれば、令和8年(2026年)7月の導入が予定されています。最大の変更点は、署名鍵を、法務省が構築した安全性の高いクラウド環境に保管する点です。これにより、特定のパソコンに縛られず、インターネットに接続できる多様な端末からオンラインで署名できるようになります。

署名のイメージ
リモート署名では、GビズID(事業者向けの共通認証サービス)と連携します。GビズIDアプリをインストールしたスマートフォンが「認可端末」となり、電子署名を行う際に「鍵パスワード」を入力したうえで、スマートフォンのGビズIDアプリで「認可コード」を入力することで署名を認可する仕組みです。手元のスマートフォンが、いわば署名を承認する鍵の役割を果たします。

新旧の方式の違いを整理すると、次のとおりです。

項目従来(ローカル署名方式)新方式(リモート署名方式)
署名鍵の保管場所利用者のパソコン(ファイル形式)法務省が構築したクラウド環境
署名できる端末署名鍵を入れた特定パソコンのみインターネットに接続できる多様な端末
署名の承認手段署名用ソフト・専用環境GビズIDアプリ(認可端末)+認可コード
導入時期現行方式令和8年(2026年)7月導入予定

利用にあたって必要になるものは、法務省の案内によれば主に次のとおりです。GビズIDアカウント(プライム・メンバー・エントリーのいずれか)、GビズIDアプリをインストールしたスマートフォン(認可端末)、インターネット接続環境です。なお、署名ドライバ方式を利用する場合には、Windows 11環境と提供ソフトが必要とされています。対象となる手続きは、行政手続のオンライン申請や企業間の電子契約などですが、行政サービスやアプリケーションによってはリモート署名に未対応の場合がある点に注意が必要です。

中小企業・スタートアップへの実務影響

今回の変更は、単なる技術的なアップデートにとどまりません。日々の会社運営で電子証明書を使う中小企業・スタートアップにとって、実務の流れそのものに影響します。想定される主な影響を、場面ごとに見ていきましょう。

1. 事務所外・複数拠点での署名がしやすくなる

従来は署名鍵を保存したパソコンが手元にないと電子署名ができず、代表者が出張中や在宅勤務中には手続きが止まりがちでした。リモート署名方式では、クラウドに保管された鍵をスマートフォンのアプリで認可するため、場所を選ばずに署名できるようになります。代表者が外出の多い会社や、複数拠点で申請業務を分担している会社ほど、恩恵は大きいといえます。

2. パソコンの買い替え・故障時の手間が減る

これまでは、パソコンを新調するたびに署名鍵の移行や証明書の再設定が必要で、担当者の負担になっていました。鍵をクラウドで管理する新方式では、端末に鍵を保存しないため、端末の入れ替えに伴う再設定の手間が軽減されると考えられます。バックオフィスの人員が限られる中小企業にとって、地味ですが実務的なメリットです。

3. 起業・会社設立直後の手続き負担の軽減

法務省・デジタル庁は、今回の導入目的の一つに「起業後の手続き負担の軽減とスタートアップの後押し」を挙げています。会社設立後は、法人口座の開設、各種許認可、税務・社会保険の届出など、電子的な手続きが立て続けに発生します。専用パソコンの準備というハードルが下がることで、創業期の事務負担が軽くなることが期待されます。これから会社を立ち上げる方は、会社設立・創業のサポートとあわせて、電子証明書の取得計画も早めに検討しておくとよいでしょう。

4. GビズID運用の重要性が高まる

新方式はGビズIDと連携するため、GビズIDアカウントの整備・管理が今まで以上に重要になります。GビズIDは、補助金申請(jGrants)や社会保険の電子申請など、他の行政手続でも広く使われる共通IDです。すでに補助金申請などで取得済みの会社も多い一方、アカウントの管理者や権限設定が曖昧なまま放置されているケースも見られます。この機会に、誰がどの権限を持っているかを整理しておくことをおすすめします。

なお、電子証明書の利用範囲は広く、クラウド会計や電子契約サービスとも関わります。日常の経理・申告のデジタル化を進めたい場合は、クラウド会計・DXの導入支援もあわせてご検討ください。制度変更を、社内の電子化を一段進めるきっかけにできます。

5. 「対応・未対応」の見極めが必要

注意したいのは、すべての手続きがすぐにリモート署名へ対応するわけではない点です。法務省も、行政サービスやアプリケーションによっては未対応の場合があると明記しています。自社が日常的に利用している申請先(e-Tax、eLTAX、電子契約サービスなど)が、いつからリモート署名に対応するのかを個別に確認する必要があります。移行期には、従来方式と新方式が併存する場面も想定しておきましょう。

当事務所の見解・実務上の注意点

ここからは、税理士としての実務経験を踏まえた見解と、見落としやすい注意点をお伝えします。制度の便利さだけでなく、移行期特有のリスクにも目を向けることが大切です。

移行を急ぐより「現状把握」を優先する

新方式は便利ですが、導入直後は各サービス側の対応状況が読みにくい時期です。私たちは、まず「自社が今どの手続きで、どの有効期間の電子証明書を、どの端末で使っているか」を棚卸しすることをおすすめしています。現在の証明書の有効期間が残っているうちは、慌てて切り替える必要はありません。有効期間の満了や、パソコンの更新のタイミングに合わせて移行を検討するのが、無理のない進め方です。

セキュリティは「便利さの裏返し」で管理する

どの端末からでも署名できるということは、裏を返せば、GビズIDアプリの入ったスマートフォンと認可コードが、そのまま会社の署名権限に直結するということです。スマートフォンの紛失・盗難時の対応ルール、パスワードや認可コードの管理、退職者のアカウント権限の速やかな停止など、運用ルールを明文化しておくことが欠かせません。便利さと引き換えに、管理の甘さがそのままリスクになる点は、経営者として押さえておくべきです。

移行期は「二重運用」を前提に段取りする

制度の切り替え時期には、対応済みのサービスと未対応のサービスが混在します。たとえば、電子契約サービスは新方式に対応したが、ある行政手続の申請先はまだ従来方式のまま、という状況が起こり得ます。この場合、しばらくは従来の署名環境(署名鍵を入れたパソコンや専用ソフト)を残しつつ、対応済みの手続きから順にリモート署名へ移すという二重運用が現実的です。移行の順番を決めずに一気に切り替えようとすると、「この手続きだけ署名できない」という事態に陥りがちです。利用頻度の高い手続きから優先的に確認していきましょう。

電子証明書と「印鑑」の役割を混同しない

電子署名は法的に有効な意思表示の手段ですが、社内では「誰が署名を実行できるのか」という内部統制の視点が抜け落ちがちです。紙の実印であれば金庫で物理的に管理できますが、クラウド署名では権限の設計がそのまま統制になります。特に、経理担当者に署名を任せる場合は、承認フロー(申請内容を代表者が確認してから署名する等)を決めておくべきです。税務・法務の手続きは会社の意思表示そのものであり、権限管理は顧問税理士と相談しながら整えることをおすすめします。

専門家からの一言
「便利になるから急いで導入」ではなく、「便利になる制度を、自社の管理体制に合わせて計画的に取り入れる」という姿勢が、結果的に手戻りとリスクを減らします。制度の導入時期(令和8年7月予定)はあくまで予定であり、最新の情報は法務省の特設ページで必ず確認してください。

今すぐやるべきこと(準備チェックリスト)

リモート署名方式の導入を見据えて、今の時期に進めておきたい準備を、順番に整理しました。上から順に着手すると、移行期に慌てずに済みます。

  1. ステップ1:現在の電子証明書を棚卸しする
    自社が保有する商業登記電子証明書の有効期間と、どの手続き(e-Tax・eLTAX・電子契約など)で使っているかを一覧にします。有効期間の満了日を確認し、次回の更新時期を把握しておきましょう。
  2. ステップ2:GビズIDアカウントを整備する
    GビズIDアカウント(プライム等)を取得済みか確認します。未取得の場合は取得を、取得済みの場合は管理者・権限設定・登録情報が最新かを点検します。補助金申請などで既に使っている場合は、そのアカウントの管理状況も見直します。
  3. ステップ3:署名に使う端末とアプリを確認する
    認可端末となるスマートフォンを誰が管理するかを決め、GビズIDアプリの導入方針を固めます。署名ドライバ方式を併用する可能性がある場合は、Windows 11環境が用意できるかも確認します。
  4. ステップ4:利用中サービスの対応状況を確認する
    日常的に使う申請先・電子契約サービスが、リモート署名にいつ対応するのかを調べます。移行期は従来方式と新方式が併存しうるため、当面は現行の署名環境も維持しておきます。
  5. ステップ5:社内の署名・権限ルールを決める
    誰が署名を実行できるのか、承認フロー、端末紛失時の対応、退職者の権限停止など、運用ルールを文書化します。担当者任せにせず、経営者が関与して決めることが重要です。

よくある質問

Q. 商業登記電子証明書のリモート署名はいつから使えますか?
A. 法務省の特設ページ(令和8年4月10日更新)では、令和8年(2026年)7月の導入が予定されています。ただし、これは予定であり、対象となる行政サービスやアプリケーションによっては開始時期が異なる場合があります。利用前に法務省の最新情報を必ず確認してください。
Q. 今使っている電子証明書は使えなくなりますか?
A. リモート署名方式の導入によって、現在有効な電子証明書がただちに無効になるわけではありません。まずは現在の証明書の有効期間を確認し、更新や端末の入れ替えのタイミングで新方式への移行を検討するのが実務的です。
Q. リモート署名を使うために必要なものは何ですか?
A. 法務省の案内によれば、GビズIDアカウント(プライム・メンバー・エントリーのいずれか)、GビズIDアプリをインストールしたスマートフォン(認可端末)、インターネット接続環境が必要です。署名ドライバ方式を利用する場合はWindows 11環境と提供ソフトが必要とされています。
Q. スマートフォンだけで会社の署名ができるのは、セキュリティ上心配ないですか?
A. 署名鍵は法務省が構築した安全性の高いクラウド環境で保管され、署名時には鍵パスワードとGビズIDアプリでの認可コード入力が求められます。一方で、認可端末となるスマートフォンの管理は会社側の責任です。紛失・盗難時のルールや権限管理を社内で整備しておくことが重要です。
Q. 中小企業にとって、結局どんなメリットがありますか?
A. 特定パソコンに縛られず場所を選ばず署名できること、端末の買い替え時の再設定の手間が減ること、起業後の手続き負担が軽くなることが主なメリットです。GビズIDを軸に、補助金申請や社会保険手続なども含めて電子化を進める好機といえます。
Q. GビズIDを持っていないと商業登記電子証明書は使えないのですか?
A. 従来のローカル署名方式は引き続き利用できますが、リモート署名方式を使うにはGビズIDとの連携が前提となります。GビズIDは補助金や社会保険の電子申請でも共通して使う事業者向けの認証サービスのため、まだ取得していない場合は、この機会に整備しておくと他の手続きにも役立ちます。
Q. 電子証明書の取得に費用はかかりますか?
A. 商業登記電子証明書の取得には、証明期間に応じた手数料(法務省が定める料金)がかかります。証明期間は複数の区分から選べるため、利用予定の手続きの頻度や更新のタイミングを踏まえて、無駄のない期間を選ぶことをおすすめします。具体的な料金は法務省の案内でご確認ください。

参考資料・出典

本記事は道濟会計事務所が監修しました。




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