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賃金引上げ等の実態調査2026|改定率4.4%と中小企業の賃上げ判断
SUMMARYこの記事の要点3点
- 1ポイント1:厚生労働省の令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査(10月21日公表)で、1人平均賃金の改定額は13,926円、改定率は4.4%でした。引き上げた・引き上げる企業の割合は92.0%です。
- 2ポイント2:調査の対象は常用労働者100人以上の企業で、100~299人規模の改定率は3.9%、改定額は11,279円です。改定率は所定内賃金の1人平均であり、賃上げ促進税制の判定とは基準が異なります。
- 3ポイント3:自社の改定率を同じ定義で計算して規模・業種の数値と比べ、事業年度末までに賃上げ促進税制の要件を試算しましょう。教育訓練費の上乗せは令和8年4月1日以後開始事業年度では使えません。
CONTENTS目次
厚生労働省は令和8年10月21日、令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の結果を公表しました。民間企業が今年どれだけ賃金を改定したかを示す調査で、来年度の賃上げ方針や冬の賞与を考える経営者にとって、最も手近な比較材料の一つです。ただし、調査の対象や改定率の定義を知らずに数値だけを使うと、自社の判断を誤るおそれがあります。本記事では、公表資料の数値を確認しながら、中小企業が押さえるべき読み方と、賃上げ促進税制との関係を整理します。
賃金引上げ等の実態に関する調査の概要:改定率4.4%
この調査は、民間企業における賃金・賞与の改定額、改定率、改定方法、改定に至るまでの経緯等を把握することを目的に、厚生労働省が毎年実施しているものです。令和8年調査の実施時期は令和8(2026)年7月20日~8月10日で、調査対象企業数は3,668社、有効回答企業数は1,862社、有効回答率は50.8%でした。
調査の対象は常用労働者100人以上の企業
中小企業の経営者がまず押さえたいのは、調査の範囲です。概況によれば、調査対象は15大産業に属する常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業から、産業、企業規模別に層化して無作為に抽出した企業です。常用労働者100人未満の企業は、この調査の対象に含まれていません。また、各調査事項の対象労働者は雇用期間を定めず雇用されている労働者で、日雇労働者や季節労働者など雇用期間に定めのある労働者は除かれています。
令和8年の主な結果
令和8(2026)年中における賃金の改定の実施状況(9~12月予定を含む)をみると、1人平均賃金を引き上げた・引き上げる企業の割合は92.0%(前年91.5%)でした。賃金の改定を実施しない企業は2.1%(同2.4%)、未定は5.1%(同3.9%)です。
| 項目 | 令和8年 | 令和7年 |
|---|---|---|
| 1人平均賃金の改定額 | 13,926円 | 13,601円 |
| 1人平均賃金の改定率 | 4.4% | 4.4% |
| 定昇制度ありの企業の割合 | 84.2% | 81.2% |
| 夏の賞与を支給した又は支給する(額決定)企業の割合 | 88.5% | 88.4% |
労働組合の有無による違い
労働組合の有無別にみると、労働組合ありでは1人平均賃金の改定額は14,757円(前年15,229円)、改定率は4.5%(同4.8%)でした。労働組合なしでは改定額は13,033円(同11,980円)、改定率は4.2%(同4.0%)です。労働組合がある企業の割合は23.3%にとどまります。中小企業の多くが該当する労働組合なしの区分でも、改定額・改定率はいずれも前年を上回りました。定期昇給制度のある企業についてみると、定昇を行った・行う企業の割合は81.2%(前年76.8%)でした。
年次推移について概況は、1人平均賃金の改定率は令和4(2022)年調査以降増加傾向で推移し、令和8(2026)年調査では前年と同率となったとしています。改定額は前年を上回りましたが、改定率は横ばいという結果です。
改定率の定義を確認する
調査でいう1人平均賃金は、所定内賃金(諸手当等を含むが、時間外・休日手当や深夜手当等の割増手当、慶弔手当等の特別手当を含まない)の1か月1人当たりの平均額です。改定率は、改定額の改定前1人平均賃金に対する割合で、平均値は常用労働者数による加重平均です。賞与や残業代の増減は、この改定率には反映されません。
なお、調査でいう賃金の改定には、定期昇給(定昇)、ベースアップ(ベア)、諸手当の改定のほか、ベースダウンや賃金カット等による賃金の減額も含まれます。改定額は月額の差額であり、年収ベースの増加額ではない点にも注意してください。
中小企業への実務影響:100~299人規模と業種別の賃上げ
常用労働者100人未満の企業は調査の対象外ですが、最も規模の小さい区分である100~299人の数値は、地域の中小企業が自社の水準を考える際の目安になります。業種による差も大きいため、規模と業種の両方を確認することが大切です。以下の数値は、いずれも厚生労働省が公表した概況の統計表から転記したもので、改定額は月額です。
企業規模別の改定額・改定率
| 企業規模 | 改定額(令和8年) | 改定率(令和8年) | 改定率(令和7年) |
|---|---|---|---|
| 5,000人以上 | 16,680円 | 4.8% | 5.1% |
| 1,000~4,999人 | 15,402円 | 4.7% | 5.0% |
| 300~999人 | 12,912円 | 4.2% | 4.0% |
| 100~299人 | 11,279円 | 3.9% | 3.6% |
大企業の改定率が前年を下回る一方、300~999人と100~299人の区分は前年を上回りました。それでも、規模が小さいほど改定額・改定率が低い構図は変わっていません。人材の確保で大企業と競う中小企業にとっては、規模間の差が残っていることを前提に、自社の賃金水準を考える必要があります。
業種別にみると差が大きい
産業別の改定率は、建設業が5.5%(改定額20,599円)、学術研究、専門・技術サービス業が5.4%(同19,492円)と高い一方、医療、福祉は3.3%(同8,540円)、運輸業、郵便業は3.0%(同8,815円)でした。宿泊業、飲食サービス業は4.2%(同11,940円)、卸売業、小売業は4.3%(同13,173円)、製造業は4.7%(同15,134円)です。同じ規模でも、業種によって比べるべき水準は大きく異なります。
複数の事業を営んでいる会社は、売上や従業員数の多い主たる事業の産業の数値を中心に見ながら、部門ごとに採用競合となる業種の数値も確認するとよいでしょう。採用で競合する相手が同業の大企業なのか、地域の他業種なのかによって、意識すべき水準は変わります。調査の数値は、あくまで自社の位置を確認するための物差しとして使うことが大切です。
夏の賞与の支給状況
令和8(2026)年における夏の賞与を支給した又は支給する(額決定)企業の割合は88.5%でしたが、100~299人の区分では87.6%(前年86.7%)でした。業種別では、宿泊業、飲食サービス業が73.2%、教育、学習支援業が77.3%と、ほかの業種より低くなっています。月々の賃金は引き上げても、賞与で調整している企業があることも念頭に置いて比較してください。
定期昇給とベースアップの状況
賃金の改定を実施した又は予定している企業及び賃金の改定を実施しない企業のうち、定昇制度ありの企業は84.2%でした。定期昇給制度がある企業について、ベアを行った・行う企業の割合は57.9%(前年57.8%)で、100~299人の区分では52.7%です。中小企業では、定期昇給だけで賃上げに対応している企業も少なくないことがうかがえます。
業況とコストの状況
令和8(2026)年8月1日現在の企業活動では、業況が良いと回答した企業は40.3%(前年35.3%)でした。概況は、企業規模が大きくなるほど業況が良いとする企業が多く、規模が小さくなるほど業況が悪いとする企業が多いと分析しています。一方で、原材料費・経費が増加したとする企業は82.9%にのぼり、販売価格が上昇したとする企業は50.2%でした。賃金の改定に当たり最も重視した要素は、企業の業績が46.0%(前年41.7%)と最も多く、次いで労働力の確保・定着が12.1%(同17.0%)、雇用の維持が9.2%(同11.9%)です。賃上げの原資は業績であり、その業績はコストの増加と価格転嫁の状況に左右されていることが読み取れます。
当事務所の見解・実務上の注意点:調査の数値と賃上げ促進税制の違い
この調査は自社の賃上げ水準を考えるうえで有用ですが、使い方を誤ると判断を誤ります。当事務所が顧問先に説明している注意点は次の3つです。
注意点1:100人未満の企業の実態ではない
調査の対象は常用労働者100人以上の企業です。従業員数十人の会社が改定率4.4%を世間相場として受け止めると、自社の体力に見合わない水準を目標にしてしまうおそれがあります。また、改定額や改定率の平均値は常用労働者数による加重平均であるため、従業員数の多い企業の結果が強く反映されます。比較に使うなら、最も小さい100~299人の区分と自社の業種の数値を中心にし、地域の最低賃金の改定や採用市場の状況とあわせて判断するのが現実的です。
注意点2:調査の改定率と賃上げ促進税制の判定は別物
調査の改定率は、所定内賃金の1人平均の改定率です。これに対して、国税庁のタックスアンサーNo.5927-2が説明する中小企業者等の賃上げ促進税制は、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額から1.5%以上増加しているかで判定します。雇用者給与等支給額は、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額であり、比較雇用者給与等支給額は前事業年度の同じ支給額です。1人当たりの賃金を上げても、退職者が出て人数が減れば支給総額は増えないことがあります。反対に、採用により人数が増えれば支給総額は増えます。また、国内雇用者は法人の使用人のうち国内の事業所の賃金台帳に記載された者をいい、役員と特殊の関係のある者等の一定の者は除かれます。調査の数値と同じ率で昇給したからといって、税制の要件を満たすとは限りません。
注意点3:令和8年4月1日以後開始事業年度は上乗せ要件が変わっている
中小企業者等の賃上げ促進税制は、控除対象雇用者給与等支給増加額の15パーセント(上乗せ要件を満たす場合は最大45パーセント)を法人税額から控除できる制度です。ただし、教育訓練費が増加した場合の上乗せ措置は、令和8年4月1日以後開始する事業年度において適用することはできません。控除額は調整前法人税額の20パーセント相当額が上限で、控除しきれない金額は5年間の繰越しができます。決算直前に要件を確認しても打てる手は限られるため、事業年度の途中で支給総額の見込みを試算しておくことが重要です。堺市の税務顧問として当事務所が関与する会社では、賞与の支給前にこの試算を行っています。
今すぐやるべきこと:賃上げ判断のための5ステップ
来年度の賃金改定や冬の賞与を決める前に、次の順番で確認を進めてください。事業年度の途中で行うほど、賃上げ促進税制の要件を満たすための選択肢が残ります。
- ステップ1:自社の改定額と改定率を同じ定義で計算する
時間外・休日手当や深夜手当等の割増手当、慶弔手当等の特別手当を除いた所定内賃金について、改定前と改定後の1か月1人当たりの平均額を出し、その差額と改定率を計算します。 - ステップ2:規模と業種の数値と比べる
比較には100~299人の区分(改定額11,279円・改定率3.9%)と、自社が属する産業の数値を使います。100人未満の企業は調査の対象外であることを前提に、目安として扱います。労働組合なしの区分の数値もあわせて確認します。 - ステップ3:コストと価格転嫁の状況を確認する
原材料費・経費の増加と販売価格の改定状況を確認し、賃上げの原資を確保できているかを検討します。取引先との価格交渉が必要な場合は、賃上げの方針とあわせて計画を立てます。 - ステップ4:賃上げ促進税制の要件を試算する
当期の雇用者給与等支給額の見込みを、前事業年度の支給額と比べます。1.5%以上の増加が見込めるか、2.5%以上で上乗せが受けられるかを、退職や採用による人数の変動も含めて確認します。 - ステップ5:賞与と来年度の改定方針を決めて記録する
試算の結果をもとに、冬の賞与と来年度の賃金改定の方針を決めます。賃上げ促進税制の適用を受ける場合は、確定申告書等に控除額の計算に関する明細を記載した書類の添付が必要になるため、給与台帳など計算の根拠資料を整理しておきます。
税額控除は申告書への添付が条件
国税庁のNo.5927-2によれば、賃上げ促進税制の税額控除は、確定申告書等に控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額およびその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用されます。要件を満たしていても、明細書の添付がなければ控除を受けられません。
国税庁のNo.5927-2によれば、賃上げ促進税制の税額控除は、確定申告書等に控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額およびその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用されます。要件を満たしていても、明細書の添付がなければ控除を受けられません。
よくある質問
- Q. 従業員が100人未満の会社も、この調査の対象になっていますか?
- A. なっていません。調査の対象は、15大産業に属する常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業から抽出した企業です。100人未満の会社が参考にする場合は、最も規模の小さい100~299人の区分(改定額11,279円・改定率3.9%)と、自社の業種の数値を目安として使い、自社の業績や地域の採用状況とあわせて判断することをおすすめします。
- Q. 改定率4.4%には、残業代や賞与の増加も含まれていますか?
- A. 含まれていません。調査でいう1人平均賃金は所定内賃金の1か月1人当たりの平均額で、諸手当等は含みますが、時間外・休日手当や深夜手当等の割増手当、慶弔手当等の特別手当は含みません。賞与は別に調査されており、令和8年の夏の賞与を支給した又は支給する(額決定)企業の割合は88.5%でした。
- Q. ベースアップと定期昇給は、どう違うのですか?
- A. ベースアップは、賃金表の改定により賃金水準を引き上げることです。定期昇給は、あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給のことで、一定の時期に毎年増額するものをいいます。令和8年調査では、定期昇給制度がある企業のうちベアを行った・行う企業の割合は57.9%でした。
- Q. 賃上げ促進税制の1.5%は、1人当たりの賃上げ率で判定するのですか?
- A. いいえ。中小企業者等の賃上げ促進税制は、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額から1.5%以上増加しているかで判定します。雇用者給与等支給額は損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額で、比較雇用者給与等支給額は前事業年度の同じ支給額です。人数の増減によって結果が変わるため、1人当たりの率とは一致しません。
- Q. 令和8年4月以後に始まる事業年度でも、教育訓練費の上乗せは使えますか?
- A. 使えません。国税庁のNo.5927-2は、教育訓練費が増加した場合の上乗せ措置について、令和8年4月1日以後開始する事業年度において適用することはできないとしています。令和8年4月1日以後開始事業年度は、雇用者給与等支給額の2.5%以上増加による上乗せや、くるみん認定・えるぼし認定等による上乗せを中心に検討することになります。
- Q. 税額控除額が大きく、法人税から引ききれない場合はどうなりますか?
- A. 控除額は調整前法人税額の20パーセント相当額が上限です。控除しきれなかった金額は5年間の繰越しができますが、繰り越した金額を控除する事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えることが必要です。繰越しを受けるには、各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付する必要もあります。
- Q. 社長の家族に支払う給与も、賃上げ促進税制の計算に含まれますか?
- A. 国内雇用者からは、法人の役員と特殊の関係のある者等の一定の者が除かれます。国内雇用者は、法人の使用人のうち、国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます。同族会社で役員の親族が従業員として働いている場合は、計算の対象から外れることがあるため、支給総額を試算する際に区分しておく必要があります。
参考資料・出典
- 厚生労働省 令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況(令和8年10月21日公表)
- 厚生労働省 令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況(PDF・全体版)
- 厚生労働省 同調査 2 賃金の改定額及び改定率(PDF)
- 厚生労働省 同調査 3 定期昇給制度、ベースアップ等の実施状況(PDF)
- 厚生労働省 同調査 4 賃金の改定事情(PDF)
- 厚生労働省 同調査 5 夏の賞与の支給状況(PDF)
- 国税庁 No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)(令和8年4月1日現在法令等)
本記事は道濟会計事務所が監修しました。
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