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インボイス少額特例2026|1万円未満は帳簿のみで仕入税額控除

2026.06.10
インボイス少額特例で1万円未満を帳簿のみで仕入税額控除する実務を解説する道濟会計事務所の記事のアイキャッチ画像
この記事の要点3点

  • 少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスがなくても一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を認める事務負担の軽減措置で、令和11年(2029年)9月30日まで使えます。
  • 対象は基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者で、相手が免税事業者かどうかは問いません。
  • 「1万円未満」は1回の取引の合計額で判定します。売手の納税額を抑える「2割特例」とは別の制度なので、混同しないことが実務のポイントです。

インボイス制度が始まってから、少額の経費までインボイス(適格請求書)を1枚ずつ保存しなければならないのか、と負担を感じている事業者は少なくありません。そこで設けられているのが「少額特例」です。これは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を認める、事務負担の軽減措置です。本記事では、国税庁の取扱いをもとに、少額特例の対象となる事業者の要件、対象金額の判定方法、適用できる期間、そして売手側の「2割特例」との違いを整理し、中小企業が経理実務で迷わないための具体的なポイントを税理士の視点で解説します。期限のある特例だからこそ、いま正しく使いこなしておきましょう。

インボイス少額特例の概要

少額特例は、正式には「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」と呼ばれます。インボイス制度の下では、仕入税額控除を受けるために原則としてインボイスの保存が必要ですが、少額の取引についてまで毎回インボイスを保存するのは、買手である事業者にとって大きな事務負担となります。この負担を軽くするために、一定規模以下の事業者を対象に、少額の課税仕入れについてはインボイスの保存を不要とし、帳簿の保存だけで仕入税額控除を認めることとしたのが、この少額特例です。

対象となる事業者の要件

少額特例を使えるのは、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者です。基準期間とは、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度を指します。特定期間とは、個人事業者は前年の1月1日から6月30日まで、法人は前事業年度開始の日から6か月間を指します。いずれか一方の基準を満たせばよいため、基準期間の課税売上高が1億円を超えていても、特定期間の課税売上高が5,000万円以下であれば少額特例の対象となります。ここでいう金額は「課税売上高」であり、消費税の課税対象となる売上の合計である点に注意してください。

対象金額と効果

少額特例の対象となるのは、税込1万円未満の課税仕入れです。この要件を満たせば、インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿を保存するだけで仕入税額控除が認められます。記載すべき事項は、課税仕入れの相手方の氏名または名称、取引年月日、取引の内容、支払対価の額です。これらは通常の帳簿記載で足りるため、特別な様式を新たに用意する必要はありません。重要なのは、この特例が取引の相手方を問わない点です。相手がインボイス発行事業者であっても、免税事業者であっても、税込1万円未満であれば同様に帳簿のみの保存で控除ができます。少額の取引のたびに取引先がインボイス発行事業者かどうかを確認する手間が省けるため、経費精算や少額の備品購入が多い事業者ほど、その軽減効果を実感しやすいといえます。

なぜ少額特例が設けられているのか

インボイス制度の下では、仕入税額控除を受けるためにインボイスの保存が原則として必要になりました。しかし、自動販売機での購入や少額の消耗品の購入など、日常の少額取引でまで一枚ごとにインボイスを集めて保存するのは、とりわけ取引件数の多い事業者にとって過大な事務負担です。そこで、制度移行に伴う中小事業者の負担を緩和するため、一定規模以下の事業者に限って、少額の取引についてはインボイスの保存を不要とする経過措置が設けられました。これが少額特例です。あくまで移行期の負担軽減を目的とした時限的な措置である点が、制度の性格を理解するうえで重要です。

適用できる期間

少額特例には期限があります。適用できるのは、令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの間に行う課税仕入れです。インボイス制度の開始から6年間の経過措置という位置づけであり、令和11年10月1日以降は、税込1万円未満の取引であっても原則どおりインボイスの保存が必要になります。なお、これと混同しやすい制度として、税込1万円未満の値引きや返品について適格返還請求書(返還インボイス)の交付義務が免除される措置がありますが、こちらは売手側の交付義務に関する別の措置であり、期限のない恒久的な取扱いです。買手の仕入税額控除に関する少額特例とは目的も対象も異なるため、区別して理解しておきましょう。

中小企業への実務影響と2割特例との違い

少額特例は、日々発生する少額の経費精算や備品購入などの場面で、経理事務を大きく軽減します。とりわけ、相手が免税事業者かどうかを取引のたびに確認しなくても、税込1万円未満であれば一律に帳簿のみで控除できるため、取引先の登録状況の確認作業から解放される点が実務上の大きなメリットです。

「2割特例」との違いを整理する

少額特例と混同されやすいのが「2割特例」です。両者は名前が似ていますが、対象も効果もまったく異なります。少額特例は、買手が仕入税額控除を受ける際の「インボイス保存・帳簿保存」に関する事務負担の軽減措置です。一方の2割特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった売手が、納付する消費税額を売上に係る消費税額の2割に抑えられる、納税額の計算に関する経過措置です。立場(買手か売手か)も、効果(保存要件の緩和か納税額の軽減か)も違うことを押さえてください。

比較項目少額特例2割特例
立場買手(仕入れる側)売手(免税から登録した側)
効果帳簿のみで仕入税額控除が可能納付税額を売上税額の2割に軽減
主な対象基準期間1億円以下等の事業者登録で課税事業者になった小規模事業者
対象金額税込1万円未満の課税仕入れ金額の制限なし

「1万円未満」の判定単位に注意

少額特例で最も間違えやすいのが、1万円未満かどうかの判定単位です。これは、商品1個ごとの金額ではなく、1回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)の合計で判定します。たとえば、1個6,000円の商品を2個購入して合計1万2,000円を支払った場合、1回の取引の合計額が1万円以上となるため、少額特例の対象にはなりません。逆に、合計が9,800円の取引であれば、その中に複数の商品が含まれていても、取引全体として1万円未満なので対象となります。単価だけを見て判断すると誤るため、取引単位での合計額を基準に考える習慣をつけましょう。

ポイント:「1万円未満」は商品ごとではなく、1回の取引の税込合計額で判定します。継続的な役務提供で1か月分をまとめて請求される場合などは、その合計額で判定する点にも注意が必要です。

帳簿への記載と経理処理

少額特例を適用する取引については、インボイスを保存しなくても、相手方の氏名または名称・取引年月日・取引の内容・支払対価の額を帳簿に記載しておけば仕入税額控除が認められます。会計ソフトで通常どおり仕訳を入力していれば、これらの事項は自然に記録されることが多いため、過度に身構える必要はありません。ただし、自社が少額特例の対象事業者に該当するかどうかは、基準期間または特定期間の課税売上高で毎期確認する必要があります。前々期や前期上半期の売上が伸びて要件を外れた年度は、少額特例が使えなくなる点に留意してください。

免税事業者からの仕入れに関する経過措置との関係

インボイス制度には、少額特例とは別に、免税事業者など適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについて、一定割合を仕入税額控除できる経過措置も設けられています。これは、制度開始後の一定期間は仕入税額相当額の一定割合を控除できるという段階的な仕組みで、相手方からの区分記載請求書等の保存などが前提となります。少額特例は、税込1万円未満であればこうした割合計算を経ることなく全額を帳簿のみで控除できる点で、より簡便です。したがって、税込1万円未満の取引については少額特例を優先して適用するのが、実務上わかりやすい整理になります。1万円以上の取引や少額特例の対象外となる事業者の場合に、この割合控除の経過措置を検討することになります。

当事務所の見解・実務上の注意点

制度の取り違えが最大のリスク

当事務所が実務で多く目にするのは、少額特例と2割特例、さらには8割控除の経過措置を取り違えてしまうケースです。少額特例は買手の保存要件、2割特例は売手の納税額、そして免税事業者からの仕入れに関する一定割合の控除はまた別の経過措置です。それぞれ対象と期限が異なるため、自社が「買手としてどの特例を使えるのか」「売手としてどの特例を使えるのか」を切り分けて把握することが、誤った申告を防ぐ第一歩になります。判断に迷う場合は、取引ごとに「自社は買手か売手か」「金額は税込1万円未満か」「適用できる期間内か」を順に確認してから、どの取扱いを使うかを決めることをお勧めします。チェックの順序を社内で統一しておくと、担当者が替わっても判断のぶれが生じにくくなります。

少額特例があっても請求書は受け取っておく

少額特例によりインボイスの保存が不要になるとはいえ、取引の事実を裏付ける証ひょうとして、請求書やレシートは受け取って保管しておくのが安全です。少額特例は消費税の仕入税額控除に関する取扱いであり、法人税や所得税の経費の証明はまた別の観点で求められます。また、自社が対象事業者の要件を外れた年度には少額特例が使えなくなるため、その場合に備えてインボイスを受領・保存する習慣を残しておくと、要件を満たさなくなったときの混乱を避けられます。

2029年9月の期限を見据えた準備

少額特例は令和11年(2029年)9月30日で終了します。期限が来れば、税込1万円未満の取引であっても原則どおりインボイスの保存が必要になります。終了直前になって慌てないよう、少額の経費についてもインボイスやレシートを保存・整理できる仕組みを、いまのうちから少しずつ整えておくことが望まれます。とくに、経費精算の電子化や会計ソフトでの証ひょう管理を進めておけば、特例終了後もスムーズに原則的な保存へ移行できます。あわせて、電子的に受け取ったインボイスは電子帳簿保存法の電子取引データ保存の対象にもなるため、少額特例の終了を見据えた準備は、電子データの保存体制の整備と一体で進めると効率的です。制度の期限は、社内の経理体制を見直す好機と捉えるとよいでしょう。

今すぐやるべきこと

少額特例を正しく活用するために、次の5つのステップで自社の状況を点検しましょう。

  1. ステップ1:対象事業者に該当するか確認する
    基準期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が1億円以下か、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下かを確認します。いずれかを満たせば少額特例の対象です。
  2. ステップ2:判定単位を社内で周知する
    「1万円未満」は商品ごとではなく1回の取引の税込合計額で判定することを、経理担当者や経費精算を行う従業員に共有します。
  3. ステップ3:帳簿の記載事項を点検する
    相手方の氏名・取引年月日・取引内容・支払対価の額が帳簿に記録されているかを確認します。会計ソフトの入力項目で足りる場合がほとんどです。
  4. ステップ4:2割特例など他の特例と切り分ける
    自社が売手として使える特例と、買手として使える少額特例を区別し、申告時に取り違えないよう整理しておきます。
  5. ステップ5:2029年9月の期限に備える
    特例終了後を見据え、少額の取引でもインボイスやレシートを保存・整理できる体制を段階的に整えます。
重要:少額特例は令和11年(2029年)9月30日までの取引が対象です。期限後は税込1万円未満でも原則どおりインボイスの保存が必要になるため、終了時期を前提に経理体制を準備してください。

よくある質問

Q. 少額特例はいつまで使えますか?
A. 令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの間に行う課税仕入れが対象です。インボイス制度開始からの6年間の経過措置という位置づけで、令和11年10月1日以降は、税込1万円未満の取引であっても原則どおりインボイスの保存が必要になります。期限のある特例であることを前提に、終了後の保存体制を早めに準備しておくと安心です。
Q. 相手が免税事業者でも少額特例は使えますか?
A. はい、使えます。少額特例は取引の相手方がインボイス発行事業者であるかどうかを問いません。相手が免税事業者であっても、税込1万円未満の課税仕入れであれば、一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます。そのため、少額の取引については相手の登録状況を毎回確認する必要がなく、経理事務の負担を大きく減らすことができます。
Q. 「1万円未満」は商品ごとに判定してよいですか?
A. いいえ、商品ごとではありません。1回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)の合計で判定します。たとえば1個6,000円の商品を2個買って合計1万2,000円を支払った場合は、取引の合計額が1万円以上となるため対象外です。単価だけで判断すると誤りやすいため、取引単位の合計額で1万円未満かどうかを確認するようにしてください。
Q. 少額特例を使える事業者の規模を教えてください?
A. 基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象です。基準期間は個人事業者なら前々年、法人なら前々事業年度を指し、特定期間は個人事業者なら前年1月1日から6月30日まで、法人なら前事業年度開始から6か月間を指します。いずれか一方を満たせばよく、毎期の課税売上高で該当するかを確認します。
Q. 少額特例と2割特例は併用できますか?
A. 両者は対象も立場も異なる別の制度なので、それぞれの要件を満たせば同じ事業者が場面に応じて利用できます。少額特例は買手として仕入税額控除を受ける際の保存要件の軽減措置、2割特例は売手として納付税額を売上税額の2割に抑える計算上の経過措置です。買手の場面では少額特例、売手として納税額を計算する場面では2割特例、というように立場ごとに使い分けて理解してください。
Q. 少額特例を使うとき、帳簿には何を記載すればよいですか?
A. 課税仕入れの相手方の氏名または名称、取引を行った年月日、取引の内容、支払対価の額の4項目を帳簿に記載します。これらは通常の経理で記録する内容と重なるため、会計ソフトに日々の取引を入力していれば、特別な様式を新たに用意する必要はありません。インボイスの保存は不要ですが、取引の事実を確認できるようレシートや請求書は受け取って保管しておくと、税務調査や法人税・所得税の経費確認の際にも安心です。

参考資料・出典

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