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金融行政方針2026|企業価値担保権と経営者保証なし融資の実務

2026事務年度金融行政方針と企業価値担保権による資金調達を解説する記事のアイキャッチ画像
SUMMARYこの記事の要点3点
  • 1ポイント1:金融庁は令和8年9月15日に2026事務年度金融行政方針を公表しました。中小企業に関係するのは「地域金融力の強化」で、企業価値担保権・経営者保証に依存しない融資・資金繰り支援の3点が並んでいます。
  • 2ポイント2:企業価値担保権は2026年5月25日に始まった制度で、設定できるのは株式会社と持分会社です。個人事業主や会社以外の法人は設定できず、事業承継や有形資産の少ない業種での活用が想定されています。
  • 3ポイント3:評価の軸が担保評価額から事業計画に移るため、月次決算と計画対実績の説明資料を先に整えてください。重要財産の処分等には金融機関の事前の同意が必要とされる点にも注意が必要です。

金融庁は令和8年9月15日、2026事務年度の金融行政における重点課題および金融行政に取り組む上での方針を「2026事務年度金融行政方針」として公表しました。金融機関向けの文書ですが、中小企業の資金調達に直接効いてくる項目が「地域金融力の強化」の中に置かれています。

具体的には、2026年5月に導入された企業価値担保権制度、経営者保証に依存しない融資の促進、そして資金繰り支援と早期の経営改善支援の3つです。この記事では、方針の記載を一次資料に沿って確認したうえで、企業価値担保権とは何か、自社が使えるのか、使うとしたら経理と決算の何を整えておく必要があるのかを整理します。

2026事務年度金融行政方針の概要

2026事務年度金融行政方針が示す地域金融力の強化の方向性を表す灯台のイラスト

中小企業に関係するのは「地域金融力の強化」

金融行政方針は毎年公表される金融庁の行動計画です。2026事務年度版は、
金融戦略に掲げられた施策の着実な具体化・実行、個別金融機関と金融システム全体を捉えたモニタリングの高度化、
金融機関のガバナンスの確保、金融犯罪・自然災害への対応、資本市場の信頼確保、
AIによる業務改革と人材・組織の強化を通じた金融行政の更なる進化という柱で構成されています。

このうち中小企業の資金調達に直結するのが、「金融機能の更なる発揮を促し、持続的な成長に貢献する」の中に置かれた
「地域金融力の強化」です。方針は、人口減少・少子高齢化や地域経済の担い手不足が進む中で、
成長投資やM&A・事業承継、事業再生等に取り組む地域企業に対し、資金供給に加え、
経営改善や人材確保等に関する支援を行うことが重要であるとしています。

企業価値担保権と経営者保証への言及

方針は、地域金融力の強化の具体策として次のように記載しています。
「2026年5月に導入された企業価値担保権制度について、金融庁と現場の担当者との勉強会等を通じ、
金融機関の組織的・継続的な取組を後押ししていく。あわせて、経営者保証に依存しない融資の促進に向け、
金融機関に対するフォローアップ等を通じ、着実に取組を進めていく。」

脚注では企業価値担保権制度について、
「事業性融資の推進等に関する法律(2026年5月施行)により、事業の実態や将来性に着目した融資を行う選択肢として創設された事業全体を担保とする制度」
と説明されています。制度そのものは既に動いており、方針の役割は金融機関側の取組を後押しすることにあります。

資金繰り支援は継続、ただし「早期かつ主体的な」支援へ

方針は事業者の置かれた状況についても言及しています。
「物価高や人手不足といった従来の経営課題への対応に加え、中東情勢や令和8年熊本地震をはじめとする災害等の影響により、
依然として厳しい状況に置かれている事業者が数多く存在する」としたうえで、
「金融機関に対して、事業者に寄り添ったきめ細かな資金繰り支援とともに、早期かつ主体的な経営改善・事業再生支援を促す」と述べています。

読み取れる方向性
資金繰りをつなぐ支援と、経営改善・事業再生の支援が並べて書かれています。
返済猶予だけで時間を稼ぐのではなく、早い段階で改善の道筋を立てることが金融機関に求められている、という読み方になります。

金融犯罪への対応も事業者に関係する

方針の主なポイントには「金融犯罪・自然災害への対応」という項目も置かれています。
「特殊詐欺や不正アクセスによる不正取引等について、警察庁をはじめとした関係省庁や民間事業者と連携し、
金融犯罪の被害発生・拡大の防止等に取り組む」としたうえで、
「令和8年熊本地震等の被災者に対し、生活・なりわいの再建に向けた金融上の支援を進める」と記載されています。

法人口座の不正利用対策が強化されれば、送金の確認や本人確認の手続が増える場面も想定されます。
振込の実行に想定外の時間がかかると、支払期日や納期限の管理に影響します。
納付や決済のスケジュールには、従来より余裕を持たせておくのが現実的です。

企業価値担保権が中小企業の資金調達に与える実務影響

経営者保証に依存しない企業価値担保権による資金調達を表す盾のイラスト

2026年5月25日に始まった「資金調達のあたらしい選択肢」

金融庁が事業者向けに作成したチラシは、企業価値担保権を「資金調達のあたらしい選択肢」と呼び、
2026年5月25日スタートと明記しています。制度の位置づけは
「不動産担保や経営者保証等に過度に依存しない、事業の将来性に着目した融資を後押しする制度です」というものです。

根拠法である事業性融資の推進等に関する法律(令和六年法律第五十二号)第一条は、目的として
「不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正及び会社の事業に必要な資金の調達等の円滑化を図り、
これらにより会社の事業の継続及び成長発展を支え、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と定めています。

使える会社と、想定されている場面

項目内容
設定できる法人株式会社・持分会社(個人事業主や会社以外の法人は設定できない)
担保の対象総財産(将来性を含めた事業全体)
公示商業登記簿に登記される
想定される活用例有形資産を有しない業種・スタートアップ企業/事業拡大・再生のためにリスクをとろうとする企業/事業承継を考えている企業/M&A、プロジェクトファイナンス
融資額との関係企業価値は融資時に算定されない場合も多く想定され、融資額に直結するものではない

金融庁・中小企業庁が連名で公表した資料は、中小企業向け融資での主な活用例として
「有形資産を持たない中小企業に対する資金調達の円滑化」と
「経営者保証により事業承継や思い切った事業展開を躊躇している中小企業の資金調達の円滑化」の2つを挙げています。
後継者が個人保証を引き継ぐことに抵抗があって事業承継が進まない、という場面が明示的に想定されています。

借り手側に生じる手間と制約

メリットだけの制度ではありません。金融庁のチラシは借り手の手間について、
「金融機関による伴走支援を充実させるため、事業計画等の資料提出などの機会は増えると想定されます」としたうえで、
「従来と比べ、複数の金融機関と折衝していた事務負担は軽減される可能性等もあります」と両面を示しています。

重要財産の処分には事前の同意が必要とされている
同じチラシは「融資審査において前提とされた事業の将来性が変化し得るため、
「通常の事業活動の範囲」を超える行為(重要財産の処分等)を行おうとする場合、
金融機関との事前のコミュニケーション・同意が必要となります」と述べ、
これを「事業理解を促す機会にもなると考えられます」と位置づけています。

信用保証制度との併用には手続がある

金融庁・中小企業庁の資料は、既に信用保証付き融資が実行済みまたは見込みの場合に企業価値担保権を利用しようとするときは、
「企業価値担保権の設定に際して、金融機関から信用保証協会に対して事前の報告・相談が必要」としています。
逆に企業価値担保権を利用している状態で信用保証を申し込む場合は、
金融機関から信用保証協会へ「将来性展望シート」の提出が必要とされています。
このシートは、企業の事業性や資金使途を把握したうえで、当該案件において信用保証協会による保証が必要な理由を説明するために記載するものです。

金融庁は令和8年9月18日、事業性融資の推進等に関する法律第232条第1項に基づき、全国銀行協会・全国地方銀行協会・第二地方銀行協会・
全国信用金庫協会・全国信用組合中央協会・商工組合中央金庫・信金中央金庫・全国信用協同組合連合会・日本政策金融公庫・日本政策投資銀行・
沖縄振興開発金融公庫・商事法務研究会を、令和16年6月30日までの間、
相互に連携して事業性融資推進支援業務を行う者として認定しました。実務の受け皿が整いつつある段階です。

当事務所の見解・決算と経理で備えること

決算と経理で備えるために事業計画と実績を突き合わせることを表す天秤のイラスト

評価対象が「過去の担保」から「将来の計画」に移る

不動産担保であれば、担保評価額という客観的な数字が先にあります。企業価値担保権はそうではありません。
金融庁のチラシが「企業価値は、融資時に算定されない場合も多く想定されるなど、融資額に直結するものではありません」と書いているとおり、
判断の軸は事業計画とその実現に必要な資金額の評価に移ります。

ここで効いてくるのが、計画と実績を突き合わせられる状態になっているかどうかです。
決算書が年度末にしか出てこない会社では、計画の達成度をその場で説明できません。
月次で数字を締め、計画との差異とその理由を言葉にできることが、事実上の前提条件になります。
融資支援・資金調達のサポートでも、まず月次決算の周期を決めるところから始めています。

既存の借入れと経営者保証を先に棚卸しする

企業価値担保権を検討するかどうかにかかわらず、先にやっておく価値があるのが既存借入れの棚卸しです。
借入先・残高・返済期限・信用保証の有無・経営者保証の有無を1枚の表にまとめておくと、
どの借入れが保証を外す交渉の対象になるのかが見えます。

法律の目的条文が「個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正」を掲げている以上、
保証を外す方向の相談は制度の趣旨に沿ったものです。
そのとき金融機関から見られるのは、法人と経営者個人の資金のやり取りが整理されているかどうかです。
役員貸付金や仮払金が決算書に残ったままでは、法人と個人が分かれていないと判断されかねません。
決算書に載っている勘定科目を、交渉材料として先に片付けておいてください。

会計のルールを明文化しておく

中小企業庁の中小会計要領のページは、策定に参画した中小企業、金融機関、税理士、公認会計士の各関係団体などと、
中小企業庁や金融庁が連携し、一丸となって普及・活用を進めていくとしています。
どの会計のルールに拠って決算書を作っているかを明らかにしておくことは、
将来性の評価を受ける側として、最低限の準備にあたります。

決算対策としての資産処分は、実行前に相談する運用へ

実務上いちばん影響が大きいと考えているのは、重要財産の処分等について事前の同意が必要とされている点です。
期末に利益が出そうだからと遊休不動産を売却する、含み益のある保険を解約する、といった判断は、
企業価値担保権を設定している会社では、税務上の効果だけで決められなくなります。

どこまでが「通常の事業活動の範囲」に当たるかは個別の契約によりますから、
一般論で線引きをするのではなく、自社の契約内容を確認したうえで、
決算対策を検討する段階で金融機関に相談する運用に切り替えるのが安全です。
税額の試算と金融機関への説明を並行して進める必要があるため、
堺市の税務顧問としては、決算3か月前の着手をおすすめしています。

今すぐやるべきこと

企業価値担保権の検討を今すぐ段階的に進めることを表す階段のイラスト

企業価値担保権をすぐ使う予定がなくても、準備そのものは融資条件の改善につながります。次の順番で進めてください。

  1. ステップ1:自社が企業価値担保権を設定できる法人かを確認する
    対象は株式会社と持分会社です。持分会社には合同会社・合資会社・合名会社が含まれます。個人事業主や会社以外の法人は設定できません。
  2. ステップ2:どの局面で必要になるかを整理する
    金融庁のチラシは想定される主な活用例として、有形資産を有しない業種・スタートアップ企業、事業拡大・再生のためにリスクをとろうとする企業、事業承継を考えている企業、M&A・プロジェクトファイナンスの4つを挙げています。自社がこの局面に近づいているかどうかが、検討を始める合図です。
  3. ステップ3:事業計画と月次決算の精度を上げる
    融資可否・融資額は事業の将来性(事業計画等)を踏まえて判断されると説明されています。過去の決算書だけでなく、計画と実績の差異を説明できる状態が前提になります。月次決算を締める周期と、計画の更新頻度を先に決めてください。
  4. ステップ4:会計のルールを明文化する
    中小企業庁の中小会計要領のページは、策定に参画した中小企業・金融機関・税理士・公認会計士の各関係団体などと、中小企業庁や金融庁が連携して普及・活用を進めていくとしています。拠っている会計のルールをはっきりさせることが、将来性の評価を受ける土台になります。
  5. ステップ5:取引金融機関に取扱いの有無を確認する
    金融庁は令和8年9月18日、事業性融資の推進等に関する法律第232条第1項に基づき、全国銀行協会・全国信用金庫協会・商工組合中央金庫・日本政策金融公庫などの団体を、令和16年6月30日までの間、相互に連携して事業性融資推進支援業務を行う者として認定しました。
  6. ステップ6:資産処分と信用保証の扱いを事前に相談する
    重要財産の処分等を行おうとする場合は金融機関との事前の同意が必要とされ、信用保証との併用にも信用保証協会への事前の報告・相談が必要とされています。
  • ☑ 自社の法人形態が株式会社または持分会社か
  • ☑ 月次決算を締める周期が決まっているか
  • ☑ 事業計画と実績の差異を説明できる資料があるか
  • ☑ 既存の借入れに経営者保証が付いているかを一覧にしているか
  • ☑ 信用保証付き融資の残高と保証条件を把握しているか

よくある質問

Q. 企業価値担保権は個人事業主でも使えますか?
A. 使えません。金融庁のチラシは「企業価値担保権を設定できるのは株式会社・持分会社です(個人事業主や会社以外の法人は設定できません)」と注記しています。持分会社には合同会社・合資会社・合名会社が含まれます。個人事業で借入れを行っている場合は、従来どおり不動産担保や信用保証、日本政策金融公庫の制度融資などが選択肢になります。法人成りを検討している事業者にとっては、資金調達の選択肢が増えることが法人化の判断材料のひとつになります。
Q. 企業価値担保権を設定すると、経営者保証は必ず外れるのですか?
A. 必ず外れると書かれているわけではありません。事業性融資の推進等に関する法律には第12条(個人保証等の制限)が置かれており、金融庁・中小企業庁の資料は、信用保証協会の求償権に係る債務を経営者等の個人が保証している場合などについて「金融機関は、代位弁済請求等の権利を行使できない」と整理しています。そのうえで金融機関には個人保証を解除することが求められるとされています。個別の借入れごとに扱いが変わるため、金融機関への確認が必要です。
Q. 担保にできる企業価値の範囲内でしか借りられないのですか?
A. そうではありません。金融庁のチラシは「融資可否・融資額は、事業の将来性(事業計画等)を踏まえ、その実現に必要な資金額の評価等に基づいて判断されます」としたうえで、「企業価値は、融資時に算定されない場合も多く想定されるなど、融資額に直結するものではありません」と明記しています。不動産担保のように担保評価額が先にあって融資枠が決まる仕組みとは、考え方が異なります。
Q. 企業価値担保権を設定すると、取引先から見え方が悪くなりませんか?
A. 金融庁のチラシは、取引先からの見え方について「金融機関に事業の将来性を評価・期待されており、資金・経営支援を受けやすい緊密な関係にある等、前向きな見方がされるものと考えております」と回答しています。ただし同じ資料に「企業価値担保権は商業登記簿に登記されます」との注記があり、設定の事実自体は誰でも確認できる状態になります。主要な取引先や他の金融機関には、自社から先に説明しておくのが無難です。
Q. 信用保証付き融資を受けていても、企業価値担保権は使えますか?
A. 併用は想定されていますが、手続が必要です。金融庁・中小企業庁の資料は、既に信用保証付き融資が実行済みまたは見込みの場合に企業価値担保権を利用しようとするときは、「企業価値担保権の設定に際して、金融機関から信用保証協会に対して事前の報告・相談が必要」としています。逆に企業価値担保権を利用している状態で信用保証を申し込む場合は、金融機関から信用保証協会へ「将来性展望シート」の提出が必要とされています。
Q. 企業価値担保権を設定した後、会社の資産を売るのに制限はありますか?
A. 金融庁のチラシは、借り手の手間に関する説明の中で「融資審査において前提とされた事業の将来性が変化し得るため、「通常の事業活動の範囲」を超える行為(重要財産の処分等)を行おうとする場合、金融機関との事前のコミュニケーション・同意が必要となります」と述べています。同じ資料はこれを「事業理解を促す機会にもなると考えられます」とも位置づけています。決算期末の資産売却を検討する場合は、実行前に金融機関へ相談する運用を前提にしてください。

参考資料・出典

本記事は道濟会計事務所が監修しました。




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