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厚生年金の標準報酬月額の上限引上げ2027年|65万円から75万円・企業実務

2026.06.04
厚生年金の標準報酬月額の上限が65万円から75万円へ引き上げられることを示す解説画像
この記事の要点3点

  • 2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法により、厚生年金の標準報酬月額の上限が現行の65万円から75万円へ引き上げられます。
  • 2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と、3段階で引き上げられます。影響を受けるのは月給がおおむね66万円台後半以上の従業員・役員です。
  • 高い給与水準の従業員がいる中小企業では会社負担の社会保険料が増えます。誰が対象になるかを早めに把握し、人件費計画に織り込みましょう。

厚生年金の保険料は、従業員の給与をそのまま使うのではなく「標準報酬月額」という区切りのよい金額に当てはめて計算します。この標準報酬月額には上限があり、現在は65万円が天井です。2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法によって、この上限が段階的に75万円まで引き上げられることが決まりました。引き上げが始まるのは2027年9月からですが、影響を受けるのは高い給与を支払っている中小企業です。会社負担の保険料が増えるため、対象となる従業員・役員を早めに洗い出し、人件費の計画に反映しておくことが大切です。本記事では、改正の中身と中小企業の実務対応を堺市の税理士事務所の視点で整理します。

1. 制度・改正の概要

厚生年金保険料は、毎月の給与(報酬)に保険料率18.3%を掛けて計算し、会社と従業員が原則として半分ずつ(それぞれ9.15%)負担します。ただし、給与をそのまま計算に使うと事務が煩雑になるため、報酬を等級に区切った「標準報酬月額」を用います。厚生年金の標準報酬月額は現在、下限8万8千円から上限65万円までの32等級に分かれています。月給が65万円を超える人は、いくら高くても標準報酬月額は65万円として扱われ、保険料はその水準で頭打ちになっていました。

そもそも標準報酬月額に上限が設けられているのは、保険料が際限なく高くならないようにするためです。一方で、上限が長く据え置かれると、高い給与を受け取る人ほど収入に対する保険料の割合が低くなり、負担の公平性や将来の年金額との見合いに課題が生じます。賃金水準が上昇するなかで上限を引き上げる今回の改正は、こうした課題に対応するものです。健康保険ではすでに上限が139万円まで設定されており、厚生年金の65万円との差が大きいことも、見直しの背景にあります。

今回の改正は、この上限65万円を引き上げるものです。賃金全体が上昇傾向にあることを踏まえ、収入に見合った保険料負担と将来の年金額につなげる狙いがあります。厚生労働省の資料によると、上限は次のスケジュールで段階的に引き上げられます。

  • 2027年(令和9年)9月:65万円 → 68万円
  • 2028年(令和10年)9月:68万円 → 71万円
  • 2029年(令和11年)9月:71万円 → 75万円

最終的に上限は75万円となり、現行より10万円高くなります。根拠となるのは、2025年(令和7年)6月13日に成立した「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(いわゆる年金制度改正法)です。なお、引き上げられるのは厚生年金保険の標準報酬月額の上限であって、健康保険の標準報酬月額の上限(139万円・50等級)は今回の対象ではありません。両制度は標準報酬月額という共通の仕組みを使いますが、別々の制度である点に注意してください。

ポイント:保険料率は変わらない
今回変わるのは「標準報酬月額の上限」であって、厚生年金の保険料率18.3%(労使折半で各9.15%)は変わりません。上限の引き上げによって、これまで65万円で頭打ちだった高給与者の保険料計算のベースが広がる、という改正です。

標準報酬月額は、毎年4月から6月の報酬をもとに原則として9月に見直す「定時決定」や、報酬が大きく変わったときの「随時改定」で決まります。今回の上限引き上げも9月のタイミングに合わせて段階的に行われるため、定時決定の事務と重なる形で実務に影響します。給与計算の担当者は、改定時期ごとに新しい上限が適用される点を、定時決定のスケジュールと一緒に押さえておく必要があります。

2. 中小企業への実務影響

影響が出るのは、賞与を除く月々の報酬がおおむね66万円台後半以上の従業員・役員を雇用している企業です。最初の引き上げ(2027年9月に上限68万円)で影響が及ぶのは、標準報酬月額が新上限に達する水準、つまり報酬月額がおよそ66万5千円以上の人です。役員報酬を高めに設定している中小企業のオーナー経営者も対象になり得ます。

保険料の負担増は、引き上げ後の上限額と現行65万円との差に保険料率を掛けて計算します。最終的に上限が75万円になった段階で、月給が75万円以上の人を例にとると、標準報酬月額の差は10万円です。これに会社負担分9.15%を掛けると、従業員1人あたり会社負担が月約9,150円、年間で約11万円増える計算になります。従業員本人の負担も同額増えます。高給与者が複数いる企業では、人数分だけ会社負担が積み上がります。

段階ごとに見ると、2027年9月(上限68万円)では現行との差が3万円のため会社負担増は月約2,745円、2028年9月(上限71万円)では差6万円で月約5,490円、2029年9月(上限75万円)では差10万円で月約9,150円と、ステップごとに増えていきます。下表に整理します。

時期標準報酬月額の上限現行65万円との差会社負担の増加(月額・上限該当者1人)
2027年9月68万円3万円約2,745円
2028年9月71万円6万円約5,490円
2029年9月75万円10万円約9,150円
上表の会社負担の増加額は、標準報酬月額の差に厚生年金保険料率の会社負担分9.15%を掛けた概算です。従業員本人の負担も同額増えます。実際の保険料は等級区分に基づいて決まるため、個別の金額は日本年金機構の保険料額表で確認してください。

もう少し具体的に見てみましょう。月給80万円の役員がいる中小企業の場合、現行では標準報酬月額が上限の65万円として扱われ、厚生年金保険料は65万円×18.3%=11万8,950円(労使折半で会社・本人それぞれ約5万9,475円)です。2029年9月に上限が75万円になると、標準報酬月額は75万円となり、保険料は75万円×18.3%=13万7,250円(折半で各約6万8,625円)です。会社負担は月約9,150円、年間で約11万円増える計算です。月給70万円の従業員であれば、最終的に標準報酬月額が71万円相当までの引き上げにとどまるため、負担増はこれより小さくなります。

負担が増えるタイミングは毎年9月です。これは標準報酬月額の定時決定と同じ時期にあたるため、給与計算ソフトの設定更新や従業員への通知を、定時決定の事務とまとめて進めると効率的です。社会保険料の会社負担分は法定福利費として損益にも影響するため、対象者が多い企業では、増加額を年間の予算編成に反映しておくことをおすすめします。

誰が対象になるかは、各段階で新しく設けられる上限の等級に、その人の標準報酬月額が達するかどうかで決まります。厚生労働省は、最初の引き上げで影響が及ぶのは賞与を除く報酬月額がおおむね66万5千円以上の被保険者だと示しています。段階が進むにつれて、より高い報酬の人へと影響が広がっていきます。自社の給与水準と照らし合わせ、どの段階で誰が対象になるかを早めに確認しておきましょう。

負担増という側面が目立ちますが、従業員側には将来の年金額が増えるというメリットもあります。厚生労働省の説明では、標準報酬月額が上限を超える人は、上限引き上げによって現役時代の収入により見合った年金を受け取れるようになります。会社としては、保険料負担の増加と従業員の老後保障の充実という両面を理解し、説明できるようにしておくと、給与改定や賞与設計の場面で従業員の納得を得やすくなります。

3. 当事務所の見解・実務上の注意点

対象者の洗い出しは「報酬月額66万円台後半」が目安

まず取り組むべきは、自社で影響を受ける従業員・役員の特定です。賞与を除いた月々の報酬がおおむね66万5千円以上の人が、最初の段階から影響します。給与水準が高い管理職や、役員報酬を厚めにしている経営者本人が該当しやすいため、給与台帳をもとに早めにリストアップしておくと、人件費の見通しが立てやすくなります。賞与の比重が大きい企業では、月々の報酬だけで判断すると見落としが生じることもあるため、年収全体の構成も合わせて確認しておくと安心です。

役員報酬の改定は社会保険料まで含めて設計する

中小企業のオーナー経営者は、役員報酬の金額を自分で決められる立場にあります。今回の上限引き上げにより、高額の役員報酬を設定している場合は会社・個人の両方で厚生年金保険料が増えます。役員報酬は法人税の損金算入ルールとも密接に関わるため、所得税・法人税・社会保険料を一体で見て最適な水準を検討することが大切です。報酬額の決定は事業年度開始から原則3か月以内という制約もあるため、改定の検討は早めに行いましょう。役員報酬は社会保険料の負担増と、将来受け取る年金額の増加の両方に影響します。手取りと将来保障のバランスを踏まえて水準を決めることが、オーナー経営者にとっての最適化につながります。

段階的な引き上げをスケジュール表で管理する

今回の改正は2027年・2028年・2029年と3段階で進みます。1回の負担増は大きくなくても、毎年9月に積み上がっていくため、見落とすと資金計画がずれます。いつ・いくら負担が増えるかを年表形式で管理し、中期の人件費計画に反映しておくことをおすすめします。給与計算ソフトの料率・等級テーブルも、各改定時期に確実に更新されるかを確認しておきましょう。改定のたびに対象従業員の手取りが変わるため、給与明細の控除額の変化について事前に説明しておくと、問い合わせ対応の負担も減らせます。

また、社会保険料の会社負担分は人件費の一部です。今回の上限引き上げは、最低賃金の引き上げや社会保険の適用拡大といった近年の流れと同じく、企業の人件費を押し上げる要因の一つになります。個々の改正を単発で見るのではなく、人件費全体のトレンドのなかに位置づけて中期計画を立てることが、安定した経営につながります。

4. 今すぐやるべきこと

引き上げは2027年9月からですが、準備は早いほど安心です。次のステップで確認しましょう。

  1. ステップ1:影響を受ける従業員・役員を洗い出す
    給与台帳をもとに、賞与を除く月々の報酬がおおむね66万5千円以上の人をリストアップします。役員報酬を高めに設定している経営者本人も対象になり得ます。
  2. ステップ2:段階別の負担増を試算する
    2027年9月(上限68万円)・2028年9月(71万円)・2029年9月(75万円)の各段階で、会社負担・本人負担がいくら増えるかを対象者ごとに計算します。
  3. ステップ3:中期の人件費計画に織り込む
    試算結果を年表にまとめ、毎年9月の負担増を資金繰り・予算に反映します。複数の対象者がいる場合は合計額で把握します。
  4. ステップ4:役員報酬の水準を見直す
    オーナー経営者は、所得税・法人税・社会保険料を一体で見て役員報酬の最適水準を検討します。改定は事業年度開始から原則3か月以内に行う必要があります。
  5. ステップ5:給与計算の仕組みと従業員への説明を準備する
    給与計算ソフトの等級テーブルが各改定時期に更新されるかを確認し、対象従業員には負担増と将来の年金増の両面を説明できるようにします。

確認のための簡単なチェックリストは次のとおりです。

  • ☑ 賞与を除く報酬月額が66万5千円以上の従業員・役員はいるか
  • ☑ 役員報酬を高めに設定している経営者本人は対象か
  • ☑ 各段階(2027・2028・2029年9月)の負担増を試算したか
  • ☑ 中期の人件費計画・予算に反映したか
  • ☑ 給与計算ソフトの等級テーブル更新を確認したか

引き上げの開始は2027年9月とまだ先ですが、対象者の特定と負担額の試算は今のうちから始めておくと、人件費計画に余裕をもって反映できます。とくに役員報酬の見直しは事業年度開始からの期限があるため、次の決算のタイミングを意識して早めに検討しましょう。社会保険と税務はルールが密接に関わり合うため、判断に迷う場合は、給与計算・社会保険・税務を一体で見られる専門家に相談し、自社にとって無理のない人件費の設計につなげることをおすすめします。

5. よくある質問

Q. 厚生年金の標準報酬月額の上限はいつ、いくらに引き上げられますか?
A. 現行の上限65万円が、2027年(令和9年)9月に68万円、2028年(令和10年)9月に71万円、2029年(令和11年)9月に75万円と、3段階で引き上げられます。最終的に上限は75万円となり、現行より10万円高くなります。根拠は2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法です。引き上げられるのは厚生年金の上限で、保険料率18.3%自体は変わりません。
Q. 誰が影響を受けますか?
A. 賞与を除く月々の報酬がおおむね66万5千円以上の従業員・役員が対象です。最初の引き上げ(2027年9月に上限68万円)で、標準報酬月額が新しい上限に達する水準の人から影響が及びます。給与水準の高い管理職や、役員報酬を厚めに設定している中小企業のオーナー経営者も対象になり得ます。月給がこの水準未満の人には今回の上限引き上げの影響はありません。
Q. 会社の負担はどれくらい増えますか?
A. 増加額は、引き上げ後の上限と現行65万円との差に会社負担分の保険料率9.15%を掛けて計算します。最終段階で上限が75万円になり、月給75万円以上の人の場合、標準報酬月額の差は10万円なので会社負担は月約9,150円、年間で約11万円増えます。従業員本人も同額増えます。2027年・2028年の段階ではそれぞれ月約2,745円・約5,490円と、上限の引き上げに応じて増えていきます。
Q. 健康保険の保険料も一緒に上がりますか?
A. いいえ、今回引き上げられるのは厚生年金保険の標準報酬月額の上限だけです。健康保険の標準報酬月額の上限は139万円(50等級)で、今回の改正の対象ではありません。厚生年金と健康保険は同じ標準報酬月額の仕組みを使いますが別々の制度のため、健康保険料の計算が今回の改正で直接変わることはありません。
Q. 賞与にかかる保険料の上限も変わりますか?
A. 今回の改正は毎月の報酬に対応する「標準報酬月額」の上限の引き上げです。賞与にかかる厚生年金保険料は、別に定められた「標準賞与額」(1回あたり150万円が上限)をもとに計算されます。標準賞与額の上限は今回の改正で変わるものとは別の仕組みですので、賞与の保険料計算については最新の取扱いを日本年金機構の情報で確認してください。
Q. 従業員にとってメリットはありますか?
A. はい、保険料の負担は増えますが、その分将来受け取る厚生年金の額も増えます。厚生労働省の説明では、これまで上限65万円で頭打ちだった高所得の被保険者が、収入により見合った年金を受け取れるようになります。会社としては、負担増だけでなく老後の保障が手厚くなるという側面も併せて説明できると、従業員の理解を得やすくなります。

6. 参考資料・出典

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