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相続税の配偶者の税額軽減2026|1.6億円と要件を税理士が解説

相続税の配偶者の税額軽減と1億6000万円の非課税枠を表すアイキャッチ画像
この記事の要点3点

  • ポイント1:配偶者の税額軽減により、配偶者が実際に取得した遺産のうち「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかかりません。
  • ポイント2:この特例は法律上の配偶者であれば婚姻期間を問わず使えますが、原則として相続税の申告期限までに遺産分割が済み、申告書を提出することが適用の条件です。
  • ポイント3:目先の相続(一次相続)で配偶者に寄せすぎると、次の相続(二次相続)で子の税負担が重くなり、通算で損をすることがあります。二次相続まで見据えた分割が重要です。

相続税の負担を大きく左右するのが「配偶者の税額軽減」です。残された配偶者の生活を守るために設けられた制度で、うまく使えば配偶者の相続税をゼロにできる一方、使い方を誤ると次の世代の税負担が跳ね上がることもあります。中小企業の経営者やその家族にとっては、自社株や事業用資産をどう引き継ぐかにも直結する重要な論点です。本記事では、配偶者の税額軽減の仕組みと適用要件、そして見落とされがちな二次相続の注意点を、税理士がわかりやすく解説します。

制度・改正の概要

配偶者の税額軽減の仕組みと法定相続分を表すイラスト(制度・改正の概要)

配偶者の税額軽減とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した正味の遺産額が、一定の金額までであれば配偶者に相続税がかからないという制度です。長年連れ添った配偶者は被相続人の財産形成に貢献しており、また残された配偶者の生活保障の必要性が高いこと、さらに夫婦の財産はいずれ次の相続でも課税されることから、二重課税に近い負担を和らげる趣旨で設けられています。相続税の各種特例のなかでも減税効果が最も大きいものの一つです。

ここでいう「正味の遺産額」とは、相続財産の価額から借入金などの債務や葬式費用を差し引き、相続開始前の一定期間内に受けた生前贈与などを加えた、課税の対象となる金額(課税価格)を指します。配偶者の税額軽減は、この課税価格のうち配偶者が実際に取得した部分について適用されます。

この制度は減税効果が非常に大きいため、「配偶者が相続すれば相続税はかからない」という理解だけが独り歩きしがちです。しかし、無税になるのはあくまで一次相続の配偶者の負担であって、同じ財産は配偶者が亡くなる二次相続で改めて課税されます。制度の全体像を正しくつかむことが、後悔しない相続対策の第一歩です。本記事では、まず基本の仕組みと要件を押さえたうえで、二次相続まで見据えた使い方を解説していきます。

軽減される金額の2つの基準

配偶者が取得した正味の遺産額が、次のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。

基準内容
基準①1億6,000万円
基準②配偶者の法定相続分相当額

つまり、配偶者が取得した遺産が1億6,000万円以下であれば、法定相続分を超えていても相続税はかかりません。また、遺産が非常に大きく法定相続分相当額が1億6,000万円を超えるようなケースでは、法定相続分までは相続税がかからないことになります。配偶者の法定相続分は、誰が相続人になるかによって次のとおり変わります。

相続人の組み合わせ配偶者の法定相続分
配偶者と子2分の1
配偶者と直系尊属(親など)3分の2
配偶者と兄弟姉妹4分の3
婚姻期間は問われない
配偶者の税額軽減は、戸籍上の配偶者であれば婚姻期間の長短を問わず適用できます。婚姻期間20年以上が要件となる「贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)」とは別の制度です。ただし、内縁関係(事実婚)の相手は税法上の配偶者に含まれず、適用を受けられません。

中小企業への実務影響

家庭の財産と相続税の配偶者の税額軽減を表すイラスト(実務影響)

配偶者の税額軽減は、税額の計算過程で「配偶者が負担すべき相続税額」から軽減額を差し引く形で適用されます。イメージとしては、相続税の総額のうち、配偶者が取得した遺産に対応する部分の税額を、上限額(1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い方)まで軽減する仕組みです。具体的な軽減額は、次の考え方で計算します。

配偶者の税額軽減額 = 相続税の総額 × ( A ÷ 課税価格の合計額 )
A = 次の㋐と㋑のうち少ない方の金額
㋐ 課税価格の合計額 ×「配偶者の法定相続分」と「1億6,000万円」のいずれか多い金額
㋑ 配偶者が実際に取得した課税価格

ポイントは㋑の「実際に取得した課税価格」です。上限(㋐)がいくら大きくても、配偶者が実際に取得した財産(㋑)が小さければ、軽減されるのはその範囲にとどまります。逆に、配偶者が上限を超えて取得すると、超えた部分には通常どおり相続税がかかります。だからこそ「いくら取得させるか」という分割の設計が税額を大きく左右するのです。

計算のイメージ(課税価格2億円・配偶者と子2人)

正味の遺産額(課税価格の合計額)が2億円、相続人が配偶者と子2人のケースを考えます。配偶者の法定相続分は2分の1なので1億円です。1億円は1億6,000万円以下ですから、配偶者が法定相続分どおり1億円を取得した場合、その1億円に対応する相続税はすべて軽減され、配偶者の負担する相続税は実質的にゼロになります。このとき、残りの1億円を取得する子2人には、それぞれの取得割合に応じた相続税がかかります。配偶者が無税でも相続全体が無税になるわけではなく、子の負担は残る点を家族で共有しておくと、分割の話し合いがスムーズになります。

仮に配偶者が全額(2億円)を取得した場合でも、2億円のうち1億6,000万円までは軽減の対象です。ただし後述のとおり、配偶者に多く寄せることが必ずしも家族全体で得になるわけではありません。

中小企業経営者の家族で特に重要な理由

中小企業の経営者に相続が発生すると、自社株式や事業用不動産といった換金しにくい財産が遺産の大部分を占めることが少なくありません。配偶者の税額軽減を活用すれば、一次相続の納税資金の負担を抑えつつ、事業を引き継ぐ後継者(子など)の手元資金を残す設計が可能になります。一方で、自社株を配偶者に集中させると、その後の事業承継や二次相続で新たな課題が生じることもあります。誰がどの財産を引き継ぐかは、税額軽減だけでなく事業の継続性も踏まえて決める必要があります。相続財産に自社株が含まれる場合は、早めに相続税申告のサポートを受け、分割方針と納税資金を一体で検討することをおすすめします。

配偶者居住権という選択肢

二次相続の負担を抑えつつ配偶者の住まいを守る方法として、「配偶者居住権」の活用があります。これは、自宅の所有権を子が相続しつつ、配偶者には自宅に住み続ける権利(居住権)だけを取得させる仕組みです。配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅し、二次相続では課税対象になりません。そのため、一次相続で配偶者に居住権、子に所有権を割り振ると、住まいを確保しながら二次相続の課税財産を抑えられる場合があります。配偶者の税額軽減と組み合わせることで、家族全体の負担を下げる設計が可能です。ただし評価方法が複雑で、登記も必要になるため、導入の可否は専門家と検討してください。

納税資金の確保も同時に考える

相続税は原則として現金で一括納付します。配偶者の税額軽減で配偶者の税額がゼロになっても、財産を取得した子には納税義務が生じます。遺産の大半が不動産や自社株で現預金が少ない中小企業の家庭では、子が納税資金を用意できないと、せっかくの分割案が実行できません。生命保険の非課税枠の活用や、分割案そのものを納税資金の観点から見直すなど、「誰がいくら納めるか」まで含めた設計が欠かせません。

当事務所の見解・実務上の注意点

一次相続と二次相続の税負担の違いを確認する実務上の注意点を表すイラスト

配偶者の税額軽減は効果が大きいだけに、適用の要件と「使いすぎ」のリスクを正しく理解することが欠かせません。当事務所が相続の相談で必ずお伝えしている3つのポイントを解説します。

1. 二次相続まで見据えて分割する

最大の落とし穴が「二次相続」です。一次相続(例:夫の死亡)で配偶者に財産を寄せると、その時の相続税は軽減で大きく減ります。しかし配偶者が亡くなる二次相続では、配偶者自身の財産に一次相続で取得した財産が上乗せされ、しかも配偶者の税額軽減は使えず、相続人の数も1人減って基礎控除が小さくなります。結果として、一次相続と二次相続の合計税額でみると、配偶者に寄せすぎたほうが高くつくケースが珍しくありません。目先の税額だけでなく、二次相続を含めた通算での最適化が重要です。

次の表は、遺産1億円・相続人が配偶者と子1人のケースで、一次相続の分割方針による考え方の違いを整理したものです(実際の税額は財産構成や特例で変わるため、傾向を示すイメージです)。

一次相続の分け方一次相続の配偶者の税額二次相続への影響
配偶者が全額取得税額軽減でほぼゼロ取得財産が丸ごと二次相続の課税対象に。子の負担が増えやすい
配偶者と子で分ける配偶者分は軽減、子は相応に負担二次相続の課税財産が抑えられ、通算では有利になりやすい

どちらが有利かは、配偶者自身がもともと持っている財産の額や、その後の生活費・医療費の見込みによっても変わります。「配偶者は無税だから全部配偶者へ」と安易に決めず、二次相続のシミュレーションを行ったうえで分割割合を決めることが肝心です。

2. 申告期限までの遺産分割が原則

配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した財産を基に計算します。そのため、相続税の申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割が確定していない財産は、原則として軽減の対象になりません。遺産分割協議が長引きそうな場合は、申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、その後3年以内に分割が成立したときに軽減を受けられます。相続税がゼロになる見込みでも、申告書の提出自体は必要です。なお、未分割のまま申告する際は、いったん配偶者の税額軽減を適用しない状態で相続税を計算し、法定相続分などで各相続人が納税する必要があります。分割成立後に更正の請求を行って初めて配偶者分の税額が還付される流れになるため、一時的とはいえ納税資金を用意しておかなければならない点にも注意が必要です。「無税になるはずだから」と分割を先延ばしにすると、かえって資金繰りを圧迫することがあります。

3. 仮装・隠蔽財産には使えない

意図的に財産を隠したり、事実を仮装したりしていた財産は、配偶者の税額軽減の対象から除かれます。税務調査で申告漏れが指摘された場合、それが仮装・隠蔽によるものであれば軽減が受けられず、加算税も課されます。財産はもれなく正しく申告することが、結果的に配偶者の税額軽減を最大限に生かす前提となります。相続財産の評価や分割方針に迷う場合は、相続税申告の実務に精通した税理士に相談し、要件を確実に満たすことをおすすめします。

4. 小規模宅地等の特例との組み合わせに注意

自宅の土地について評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」と、配偶者の税額軽減は併用できます。ただし、どちらの特例を誰に適用するかで一次・二次を通じた税額が変わります。たとえば自宅の敷地を配偶者が取得すれば無条件で小規模宅地等の特例を使えますが、その分の財産が二次相続に持ち越されます。特例が重なるケースほど、取得者の組み合わせを丁寧に検討する価値があります。複数の特例が絡む相続では、分割協議に入る前に全体設計を描くことが失敗を防ぐ近道です。

今すぐやるべきこと

相続税申告の期限と必要書類の準備手順を表すイラスト

相続が発生した、あるいは将来に備えたい家族が、配偶者の税額軽減を確実に生かすための手順を整理します。

  1. ステップ1:相続人と法定相続分を確認する
    戸籍を集め、相続人が誰か、配偶者の法定相続分がいくつかを確定します。これが軽減の上限額の基礎になります。
  2. ステップ2:遺産の全体像と評価額を把握する
    預貯金・不動産・自社株などをもれなく洗い出し、正味の遺産額(課税価格)を概算します。
  3. ステップ3:二次相続を含めた分割案を試算する
    配偶者にどれだけ寄せるかで、一次・二次の通算税額が変わります。複数の分割パターンを比較しましょう。
  4. ステップ4:申告期限(10か月)を意識して分割を進める
    期限までに分割が難しければ「申告期限後3年以内の分割見込書」の準備を検討します。
  5. ステップ5:必要書類をそろえて申告する
    戸籍謄本等、遺言書または遺産分割協議書の写し、相続人全員の印鑑証明書などを添付し、税額軽減の明細を記載した申告書を提出します。
配偶者の税額軽減は、適用すること自体は難しくありません。むずかしいのは「どの財産を、誰に、いくら分けるか」という分割の設計です。ここを誤ると二次相続で取り返しがつかなくなります。相続が発生したら、まずは遺産の全体像を早めに把握し、申告期限(10か月)から逆算して分割協議とシミュレーションを進めましょう。判断に迷う点は、早い段階で専門家に相談することが、家族全体の負担を最小にする最善策です。

よくある質問

Q. 配偶者の税額軽減を使えば申告は不要ですか?
A. いいえ。この特例を使って納付税額がゼロになる場合でも、相続税の申告書の提出が必要です。税額軽減の明細を記載し、戸籍謄本等の必要書類を添付して申告して初めて適用が受けられます。申告しなければ軽減は認められません。
Q. 1億6,000万円まではいつでも無税で相続できるのですか?
A. 配偶者が「実際に取得した」遺産についての制度です。遺産分割で配偶者が取得した財産が対象で、未分割のままでは原則適用できません。また1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか多い金額が上限で、これを超える部分には相続税がかかります。
Q. 内縁の妻(夫)でも使えますか?
A. 使えません。配偶者の税額軽減は戸籍上の(法律上の)配偶者に限られます。事実婚・内縁関係の相手は、相続人にもならないため、この特例の対象外です。
Q. 申告期限までに分割がまとまりません。どうすればよいですか?
A. 申告期限までにいったん未分割の状態で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきます。その後3年以内に遺産分割が成立すれば、更正の請求により配偶者の税額軽減を受けられます。3年を超える場合はやむを得ない事情について税務署長の承認が必要です。
Q. 遺言で配偶者にすべて遺すとされていました。税額軽減は使えますか?
A. 使えます。遺贈(遺言による取得)でも、配偶者が実際に取得した財産は税額軽減の対象になります。ただし遺言があっても申告は必要で、他の相続人の遺留分にも配慮が必要です。遺言の内容と二次相続の影響を併せて確認しておきましょう。
Q. 自社株を配偶者が相続した場合も税額軽減の対象ですか?
A. はい。自社株式も相続財産であり、配偶者が取得した部分は税額軽減の対象になります。ただし自社株は換金が難しく、二次相続や事業承継で後継者へ移す際に改めて課税が生じます。誰が自社株を持つかは、税額軽減だけでなく議決権や事業承継税制の活用も踏まえて決めることが重要です。
Q. 配偶者が高齢です。二次相続が近い場合はどう考えればよいですか?
A. 一次相続と二次相続の間隔が短いほど、二次相続の負担が読みやすくなります。配偶者がすでに十分な財産を持っている場合や高齢の場合は、一次相続で配偶者に寄せすぎないほうが通算では有利になりやすい傾向です。なお、一次相続から10年以内に二次相続が発生したときは「相次相続控除」により二次相続の税額が一定額軽減されるため、この制度も併せて確認しましょう。具体的な配分は、財産額と年齢を踏まえたシミュレーションで判断するのが確実です。

参考資料・出典

本記事は道濟会計事務所が監修しました。




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