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マンションの相続税評価2026|タワマン節税封じと区分所有補正率の実務
2026.06.13
この記事の要点3点
- 令和6年(2024年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)は、新たな「区分所有補正率」を用いて相続税評価額を計算します。
- 市場価格と相続税評価額の大きな乖離(とくにタワーマンション)を是正するための見直しで、評価額が従来より引き上がるケースが多く、相続税・贈与税の負担に直結します。
- すぐにやるべきは、保有マンションの築年数・総階数・所在階・敷地持分の確認と、国税庁の計算明細書を使った評価額の試算です。生前贈与や遺産分割の方針にも影響します。
分譲マンション、とりわけタワーマンションは、市場での売買価格に比べて相続税の評価額が大幅に低くなりやすく、相続税の節税策として広く知られてきました。この市場価格と評価額の乖離を是正するため、国税庁は新たな評価方法を定め、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した居住用の区分所有財産に適用しています。本記事では、新ルールの仕組みと「区分所有補正率」の計算手順を整理し、相続を控えたマンション保有者や中小企業オーナーが何に注意すべきかを、税理士の視点で具体的に解説します。評価額が上がる住戸と下がる住戸の見分け方や、生前贈与・遺産分割への影響まで踏み込んで取り上げますので、マンションをお持ちの方はぜひ参考にしてください。
マンション相続税評価の新ルール概要
これまで分譲マンションの相続税評価額は、建物部分(区分所有権)を固定資産税評価額で、土地部分(敷地利用権)を路線価方式または倍率方式で評価し、両者を合計して求めていました。ところが、この方法で計算した評価額は、高層階の住戸や築浅のタワーマンションでは市場の取引価格を大きく下回ることがあり、現金や預金で持つよりもマンションで持つほうが相続税評価額を圧縮できる、という乖離が問題視されていました。
そこで国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を定め、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産について、市場価格との乖離を補正する新たな評価方法を導入しました。具体的には、従来の方法で求めた評価額に「区分所有補正率」を乗じて、最終的な評価額を算定します。背景には、過去の裁判で、相続税評価額と市場価格が大きく乖離した不動産の評価が争われ、評価の適正化を求める声が高まっていた経緯があります。今回の通達は、こうした乖離を一定の算式によって機械的に補正し、納税者ごとの評価のばらつきを抑える狙いもあります。
ここで対象となる「居住用の区分所有財産」とは、区分建物として登記された一室の専有部分とその敷地利用権をいい、一般的な分譲マンションの一住戸がこれにあたります。建物部分の評価に用いる固定資産税評価額や、土地部分の評価に用いる路線価そのものが変わるわけではなく、それらを使って計算した従来の評価額に、新たに区分所有補正率を掛け合わせる点が今回の見直しの核心です。
新ルールの基本的な考え方
評価額が市場価格に対してどの程度乖離しているかを示す「評価乖離率」を、築年数・総階数・所在階・敷地持分の4要素から算出し、それをもとに「評価水準(=1÷評価乖離率)」を求めます。評価水準が0.6未満の住戸は評価額が引き上げられ、評価水準が1を超える住戸は評価額が引き下げられる仕組みです。
評価額が市場価格に対してどの程度乖離しているかを示す「評価乖離率」を、築年数・総階数・所在階・敷地持分の4要素から算出し、それをもとに「評価水準(=1÷評価乖離率)」を求めます。評価水準が0.6未満の住戸は評価額が引き上げられ、評価水準が1を超える住戸は評価額が引き下げられる仕組みです。
この補正の狙いは、評価水準(市場価格に対する相続税評価額の割合)を、一戸建てとおおむね同じ水準である最低6割程度に引き上げることにあります。これまで市場価格の3〜4割程度にとどまっていた高層階のタワーマンションでは、評価額が従来の1.5倍以上に上がるケースもあり、相続税・贈与税の負担に直接影響します。
なお、すべての区分所有建物が対象になるわけではありません。次のものは新ルールの適用対象外で、従来どおりの評価方法が用いられます。具体的には、構造上主として居住用途以外(事業用テナント等)のもの、区分建物としての登記がされていないもの、地階を除く総階数が2以下のもの、一棟に存する居住用の専有部分が3室以下で、そのすべてを区分所有者またはその親族が居住の用に供するもの(いわゆる二世帯住宅など)、たな卸商品等です。低層の小規模なアパートや二世帯住宅は対象外となる点に注意が必要です。自分の物件が対象になるかどうかは、登記上の構造や階数、用途によって判断が分かれるため、判断に迷う場合は登記事項証明書を確認したうえで専門家に相談すると確実です。
相続実務・中小企業オーナーへの影響
今回の見直しは、マンションを使った相続税対策の前提を変えるものであり、相続を控えた個人だけでなく、自社株対策と並行して不動産を活用してきた中小企業オーナーにも影響します。これまで当然とされてきた評価額の前提が変わるため、過去に立てた相続対策のプランも一度点検しておくことが望まれます。
タワーマンション節税の効果が縮小
高層階・築浅のタワーマンションを購入して相続税評価額を圧縮する、いわゆる「タワマン節税」は、新ルールにより効果が大きく縮小しました。評価水準が0.6未満となる住戸は補正率によって評価額が引き上げられ、市場価格の最低6割程度の水準まで近づきます。借入れで購入して債務控除と組み合わせる手法も、評価額そのものが上がることで圧縮効果が薄まります。すでに保有しているマンションについても、令和6年1月1日以後に発生する相続・贈与から新しい評価額が適用される点に留意が必要です。
評価額が上がる住戸・下がる住戸の見極め
新ルールは一律に評価額を引き上げるものではありません。評価水準が1を超える住戸(=従来の評価額が市場価格を上回っていた住戸)では、補正によって評価額が引き下げられます。低層階や築年数の古いマンション、地方の物件などでは、むしろ評価額が下がるケースもあります。自分の保有する住戸が「上がる側」なのか「下がる側」なのかを、築年数・総階数・所在階・敷地持分から見極めることが、相続対策の出発点になります。
生前贈与のタイミングに注意
評価額が引き上がる住戸を生前贈与で移転する場合、令和6年1月1日以後の贈与には新ルールが適用されます。贈与税額が想定より大きくなることがあるため、贈与の前に必ず新しい評価額で試算してください。
評価額が引き上がる住戸を生前贈与で移転する場合、令和6年1月1日以後の贈与には新ルールが適用されます。贈与税額が想定より大きくなることがあるため、贈与の前に必ず新しい評価額で試算してください。
遺産分割・納税資金への波及
評価額が上がれば、相続税の総額が増えるだけでなく、遺産分割の際の財産評価のバランスや、納税資金の確保にも影響します。マンションは現金のように分けにくい財産であるため、評価額が上がった分、他の相続人との分割調整や、納税のための資金準備をより慎重に行う必要があります。とくに事業用資産や自社株と合わせて相続財産が大きくなる中小企業オーナーは、早めの試算と資金計画が欠かせません。
相続税は超過累進税率を採用しているため、評価額の上昇は、適用される税率区分そのものを引き上げてしまうことがあります。たとえば、これまで評価水準の低さに支えられて基礎控除の範囲内に収まっていた、あるいは低い税率区分にとどまっていた相続でも、マンションの評価額が1.5倍に上がることで、相続税が新たに発生したり、上位の税率区分に移ったりするケースが考えられます。マンションを複数保有して資産管理を行っているオーナーや、都心の高層住戸を所有する方ほど、この影響は無視できません。新ルール適用後の評価額をもとに、相続税の総額がどの程度になるのかを一度試算しておくことが、対策の出発点になります。
区分所有補正率の計算ステップ
区分所有補正率は、国税庁が定めた算式に沿って、次の3段階で計算します。専門的な計算ですが、考え方を理解しておくと、自分の住戸が「上がる側」か「下がる側」かのおおよその見当がつきます。
ステップ1:評価乖離率を求める
評価乖離率は、次の算式で計算します。
評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
各要素は、A=築年数×(−0.033)、B=総階数指数×0.239、C=所在階×0.018、D=敷地持分狭小度×(−1.195)です。総階数指数は「総階数(地階を除く)÷33」で求め、1を超える場合は1とします。敷地持分狭小度は「敷地利用権の面積÷専有部分の床面積」で求めます。築年数が古く、敷地持分が広いほど評価乖離率は小さく、総階数が高く所在階が上であるほど評価乖離率は大きくなります。
ステップ2:評価水準を求める
評価水準は、評価乖離率の逆数として計算します。
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
この評価水準が、市場価格に対する相続税評価額のおおよその割合を表します。
ステップ3:区分所有補正率を判定する
評価水準の値に応じて、補正率は次の3区分に分かれます。
| 評価水準 | 区分所有補正率 | 評価額への影響 |
|---|---|---|
| 評価水準が0.6未満 | 評価乖離率 × 0.6 | 評価額が引き上げられる |
| 評価水準が0.6以上1以下 | 補正なし | 従来どおりの評価額 |
| 評価水準が1超 | 評価乖離率 | 評価額が引き下げられる |
こうして求めた区分所有補正率を、従来の方法で計算した区分所有権(建物)と敷地利用権(土地)それぞれの評価額に乗じて、最終的な相続税評価額を算定します。なお、国税庁ホームページには「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」が用意されており、必要な数値を入力することで補正率を簡便に求められます。
具体的なイメージをつかむために、評価乖離率が2.5と計算された住戸を例に考えてみます。この場合、評価水準は1÷2.5=0.4となり、0.6未満に該当します。したがって区分所有補正率は2.5×0.6=1.5となり、従来の方法で計算した建物・土地の評価額にそれぞれ1.5を乗じることになります。つまり、改正前なら1,000万円と評価されていた部分が1,500万円に引き上げられる計算です。築浅で高層階、敷地持分が小さいタワーマンションの高層住戸ほど、評価乖離率が大きくなり、補正後の評価額の上がり幅も大きくなる傾向があります。
反対に、築年数が経過して所在階も低く、敷地持分が比較的大きい住戸では、評価乖離率が小さくなり、評価水準が1を超えることがあります。たとえば評価乖離率が0.9と計算された住戸では、評価水準は1÷0.9=約1.11となり、補正率は評価乖離率である0.9が用いられ、評価額は従来の9割に引き下げられます。このように、新ルールは画一的な増税ではなく、市場価格との乖離を双方向に補正する仕組みである点を理解しておくことが大切です。
当事務所の見解・実務上の注意点
当事務所では、今回の評価見直しを「節税の終わり」ではなく、適正な評価に基づいて相続全体を再設計する契機と捉えています。実務で意識すべき点を3つに整理します。
固定資産税評価額・登記情報の早期確認
区分所有補正率の計算には、築年数、総階数、所在階、敷地利用権の面積、専有部分の床面積といった具体的な情報が必要です。これらは固定資産税の課税明細書や登記事項証明書、マンションの権利関係書類から確認できます。相続が発生してから慌てて集めるのではなく、生前のうちに必要な数値を整理しておくと、評価額の試算や分割協議がスムーズに進みます。
「評価額ありき」の購入判断は禁物
新ルールにより、市場価格に対する評価額の圧縮効果は限定的になりました。相続税対策としてマンションを購入する場合でも、評価額の引下げだけを目的にするのではなく、賃貸需要や資産価値、出口での売却可能性といった不動産そのものの実力を重視すべきです。評価額の圧縮効果は、あくまで副次的なメリットとして位置づけるのが健全です。
小規模宅地等の特例との併用検討
居住用や事業用の宅地については、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例により敷地(敷地利用権)部分の評価額を大きく減額できる場合があります。区分所有補正率による評価額の引上げと、小規模宅地等の特例による減額は別々に検討する論点であり、両者を組み合わせることで税負担を適正な範囲に抑えられる余地があります。適用要件は複雑なため、専門家とともに早めに検討することをおすすめします。
また、相続が「いつ」発生するかは選べませんが、生前贈与は時期を選べる対策です。評価額が引き下がる住戸であれば、新ルールのもとで評価額が下がったタイミングを活かして移転を検討する余地がありますし、逆に評価額が引き上がる住戸であれば、相続時精算課税制度や暦年贈与の基礎控除といった他の制度との組み合わせを含め、移転の方法そのものを練り直す必要があります。いずれにしても、まずは新しい評価方法で正確な評価額を把握することが、すべての判断の土台になります。当事務所では、保有不動産の評価額の試算から、贈与・分割・納税資金までを一体で見渡したうえで、ご家庭ごとに最適な相続プランをご提案しています。
今すぐやるべきこと
- ステップ1:保有マンションの基礎データを集める
築年数、地階を除く総階数、所在階、敷地利用権の面積、専有部分の床面積を、固定資産税の課税明細書や登記事項証明書から確認します。 - ステップ2:国税庁の計算明細書で評価額を試算する
国税庁ホームページの「区分所有補正率の計算明細書」に数値を入力し、補正後の評価額がいくらになるかを試算します。 - ステップ3:評価額が「上がる側」か「下がる側」かを判定する
評価水準が0.6未満なら評価額が上がり、1超なら下がります。自分の住戸がどちらかを把握します。 - ステップ4:生前贈与・遺産分割の方針を見直す
評価額が上がる住戸は、贈与税額が想定より大きくなることがあります。贈与や分割の方針を新しい評価額で再検討します。 - ステップ5:納税資金と特例適用を確認する
評価額の上昇に備えた納税資金の準備と、小規模宅地等の特例など適用可能な特例の有無を確認します。
よくある質問
- Q. 新しい評価ルールはいつから適用されますか?
- A. 令和6年(2024年)1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産から適用されます。すでに保有しているマンションでも、この日以後に発生する相続や贈与には新ルールが適用されます。
- Q. すべてのマンションが対象になりますか?
- A. いいえ。事業用テナント、区分建物として登記されていないもの、地階を除く総階数が2以下のもの、居住用の専有部分が3室以下ですべてを区分所有者やその親族が居住するもの(二世帯住宅など)は対象外で、従来どおりの評価方法が用いられます。
- Q. 新ルールでは必ず評価額が上がるのですか?
- A. いいえ。評価水準が0.6未満の住戸は評価額が引き上げられますが、評価水準が1を超える住戸では逆に評価額が引き下げられます。低層階や築年数の古い物件などでは評価額が下がる場合もあります。
- Q. 区分所有補正率は自分で計算できますか?
- A. 国税庁ホームページに「区分所有補正率の計算明細書」が公開されており、築年数・総階数・所在階・敷地持分などの数値を入力すれば補正率を求められます。正確な相続税評価には専門家への相談をおすすめします。
- Q. タワーマンションでの相続税対策はもう意味がないのですか?
- A. 評価額の圧縮効果は縮小しましたが、市場価格に対して評価水準が最低6割程度に補正されるため、現金で保有する場合に比べた一定の圧縮効果は残ります。ただし評価額だけを目的にするのではなく、不動産としての実力を重視した判断が重要です。
参考資料・出典
本記事は道濟会計事務所が監修しました。